No.104:買い出し
そういえば、今日は小春ちゃんがおとなしい。
綾音は小春ちゃんの隣の席を、しっかりキープしていた。
「小春ちゃん、友達が来れなくて残念だったね」
俺が話を振る。
「そうなんですよ。仲のいい友達二人に声をかけたんですけど……『大学生のお兄ちゃんたちもいる』って言ったら、親に反対されたらしいんです」
小春ちゃんは残念そうだ。
「たしかに変な薬盛られて乱暴されて、動画を撮られるリスクはゼロじゃないですけど」
「いや、ゼロだからね。小春ちゃん」
相変わらず、男子大学生に対する偏見がひどい小春ちゃんだった。
「そういえば、この近くにお店とかあるの?」
綾音が訊いてきた。
「徒歩圏内にはないな。コンビニ、スーパー、道の駅。等しくここから車で15分だ」
そう、この周りの徒歩圏には何もない。
あるのは自然だけだ。
「畑にトマトがなってましたね」
エリちゃんがそう言うように、家の自家菜園はちょっとしたものだ。
今の時期だとナスにトマト、高原キャベツ、それからジャガイモだ。
実はジャガイモについては、ちょっと皆に手伝ってもらう予定でいる。
「ああ、多分滞在中は甘いトマトが食べられると思うよ」
俺がそう言うと、皆から歓声があがった。
「とりあえず……スーパーに買い出しでも行くか?」
「ウチらは大丈夫だけど……誠治と海斗君、運転大丈夫?」
「ああ、全然問題ない。行くか?」
「問題ないッス」
誠治たちの言葉に、俺たちは重い腰をあげた。
◆◆◆
8人で向かった先は、長野のチェーンスーパー、カメヤだ。
実は全国的にも知る人ぞ知るスーパーで、ここのオリジナル商品が結構イケている。
「うわー、広いですね」
弥生ちゃんが言うように、ここのスーパーは結構広い。
まあ東京と比べたら、土地の値段が安いせいもあるだろう。
「瑛太、なにかオススメってある?」
綾音が訊いてきた。
「ここのオリジナル商品で、面白いものがある。オススメはドライフルーツ。リンゴや白桃、レモンのドライフルーツってのもある」
お菓子売り場に行くと、ポテトチップの袋に入っているようなドライフルーツが置いてあった。
「パッケージも可愛いわね」
「そうですね。これ、お土産にいいかも」
綾音もエリちゃんも、気に入ってくれたようだ。
「ここなら東京へ帰る前に寄れるからな。まあ試しに食べてみる分を買うといい。あとはお菓子なら『リンゴのかりんとう』とかもある」
「えーっ、それ絶対美味しいやつじゃん」
小春ちゃんが反応した。
「あとはジャム類とかドレッシングとか。そうだ、『信州わさびマヨ風』って書いてあるドレッシングがオススメだぞ」
それからというもの、女性陣が目を輝かせて売り場を回っていた。
やはり女性は買い物が好きな人種のようだ。
誠治と海斗が、それに付き合っている。
俺は俺で、母親に頼まれた買い物リストを見ながらを淡々と商品をかごに入れていく。
買い物を終えて、全員車に乗り込む。
女性陣はほぼ全員、戦利品を手にしている。
家に戻ると、もう夕食の準備の時間だ。
すると明日菜ちゃんとエリちゃんがエプロンをして、キッチンで夕食を作っている母親に手伝いを申し出た。
母親は喜んで受け入れ、3人で夕食の準備を始めた。
聞くと小春ちゃんを除いて、女性陣4人はエプロン持参らしい。
俺の母親を手伝う気満々のようだ。
出来上がった夕食が、次々と運ばれてきた。
今日のメインは豚の生姜焼き。
サイドメニューがコロッケ、生野菜にポテトサラダ、けんちん汁。
とくに目立ったご馳走とかでもないが、食べざかり男女8人分は母親も作るのが大変だっただろう。
全員でいただきますをして、食べ始める。
「ちょ、ちょっとなにこのトマト。めちゃくちゃ甘いんだけど」
「本当だな。野菜が全部美味いわ」
「ああ、野菜は全部家の庭で取れたやつだと思う。特にトマトは甘いだろ? 完熟で食べると、甘いんだ」
「でも瑛太さん、小さい時はピーマンが苦手だったんですね」
明日菜ちゃんのツッコミが入る。
「……なんで知ってんの?」
「瑛太さんのお母様が、お料理をしながら教えてくれました」
まあガキの頃のあるあるだ。
実は今でも得意ではなかったりする。
俺は苦笑するしかなかった。
野菜が絶賛のまま、夕食は終了した。
片付けは女性陣全員が担当してくれた。
海斗は「俺たちも手伝った方がいいッスか?」と聞いてきたが、必要ないと言っておいた。
多分母親は、女の子が手伝ってくれた方が喜ぶだろうから。
その間に、男性陣は明日の予定を確認する。
兄にも入ってもらって、情報提供を頼んだ。
誠治も海斗も、スマホ片手に兄の情報を熱心に聞いていた。
一通り情報収集が終わったところで、女性陣も後片付けから戻ってきた。
全員リビングに集まって、ひと休みする。
明日菜ちゃんと小春ちゃんが、お茶を運んできてくれた。
ローテーブルの上には、スーパーで買ったドライフルーツがある。
女性陣がその袋を開けて、食べ始めた。
食後のデザートタイムだ。
「あ、美味しい」
「本当ですね。なんだか今までにない食感かもです」
綾音と弥生ちゃんが反応した。
他の女性陣にも好評のようだ。
俺は皆の表情を見る。
さすがに疲れを隠せない表情だ。
一人ずつ、お風呂かシャワーを浴びることにした。
女性は1階のお風呂、男性は2階のシャワーを使ってもらうことにする。
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