No.103:瑛太の実家


「ただいま」


「はーい」


 母親が奥から出てきた。

 玄関口の外側にいた7人が中を覗きながら、口々に挨拶の言葉を述べる。


「まあまあ、遠いところからお疲れになったでしょう。皆さん、あがってください」


 俺たちは車から荷物を出して、玄関口まで運ぶ。

 とりあえず部屋へ入ってもらおう。


 部屋割はいろいろと考えた結果、女性5人は1階の大広間、男性二人には2階を使ってもらうことにした。

 というのは兄の部屋が2階にあるため、男子は2階、女子は1階と分けたほうが無難だろうと考えたからだ。


 とりあえず女性陣を大広間にご案内。


「うわ、めっちゃ広い!」

 

 綾音が声を上げる。

 他の女性陣からも歓声が聞こえる。

 まあ18畳の部屋だから、かなり広い。

 女性5人でも、余裕だろう。


「フットサルぐらいだったら、できそうだね」


「家が壊れる。やめてくれ」


 ぶっそうな事を言いだした綾音を、俺は制止する。


「人数が多いから、女性には個室が用意できない。ここで我慢してくれ」


「十分です! 修学旅行みたいで楽しいです」

 明日菜ちゃんも、嬉しそうだ。


「なんか楽しそう! 夜、恋バナとかしましょうね」


 弥生ちゃんの発言に、なぜか部屋の温度が3度ほど下がった。


「え? ちょ……ワタシ、なんか地雷踏みました?」 


「まあ楽しくやってくれ」


 女性陣は部屋着に着替えたいだろう。

 俺は誠治と海斗を連れて、2階に上がる。


 2階はちょうど二部屋空いているので、誠治と海斗には一部屋ずつ使ってもらうことにした。


「凄いな。本当に旅館みたいじゃん」


「贅沢ッスね」


「とは言っても、部屋の中には何もないぞ」


 それぞれの部屋に案内する。

 6畳間の部屋には、布団と小さなちゃぶ台しか置いてない。

 まあ寝る分には、十分だろう。


「トイレとシャワーはここにあるから、使ってくれ」


「ありがとう、仲居さん」


「誰が仲居だ」


 とりあえず誠治は、畳の上に大の字に寝転んだ。


「うわー、このまま寝てぇー」


「下でちょっとお茶を用意してくれるらしい。昼寝はその後にしよう」


「俺も部屋に入らせてもらっていいッスか?」


「もちろん。海斗はこっちの部屋だ」


 俺は海斗をもう一つの部屋に案内する。

 広さや作りは、全く一緒だ。


「じゃあ一段落したら、1階に降りてきてくれ」


「了解ッス」


 俺もバッグを持って、自分の部屋へ移る。

 相変わらずの部屋である。

 俺はパンツだけラフなものに履き替えて、1階に降りた。

 ちょうど大広間からも、女性陣が出てくるところだった。


 ぞろぞろとリビングへ移動すると、兄と親父がキッチンの方で座っていた。


「いらっしゃい」

「こんにちは。うわっ、これだけ美人がそろうと壮観だね」


 父親と兄が立ち上がって挨拶をした。

 女性陣全員も、自己紹介を始める。

 若い女性がこんなに大勢で我が家に来たことは、過去にないだろう。


 皆でわいわいと騒いでいるところに、誠治と海斗が2階から降りてきた。


「誠治先輩、ガチで寝てたッス」


「おお、寝落ちしたわ」


 俺は二人を家族に紹介した。

 誠治と海斗も、自己紹介する。


「あの、これ皆さんで召し上がって下さい」


 綾音がケーキの箱を母親に差し出した。


「もういいのに。あまり気を使わないで下さいね」


「そのケーキな、俺と綾音と誠治がバイトしてるところのヤツなんだよ。吉祥寺のイタリアン。美味いぞ」


 綾音は昨日シフトが早上がりだったので、ヴィチーノのケーキを4つ買って持ち帰ってもらった。

 代金は俺を除いてワリカンにするらしい。


「なんだ、吉祥寺のイタリアン? やけに都会人ぶったところでバイトしてるんだな」

 兄が茶化した。


「吉祥寺は都会というより、学生街の色が結構濃いところだよ。逆に新宿とかは、俺はめったに行かない」


「そうなのか? まあ俺は東京のことはわからんけど」


 そんなやり取りをしたあと、俺たち8人はリビングのローテーブルに移動する。

 ソファーの前に置いてあるローテーブルに、もう一つちゃぶ台のようなテーブルをくっつけてある。

 俺たちの食事スペースは、ここになるようだ。


 母親がキッチンからお茶を運んでくる。


「あ、お手伝いします」

「ウチも」


 明日菜ちゃんと綾音が立ち上がると、他の3人も立ち上がった。


「いやいや、全員行ったらキッチンが人だらけになっちゃうよ」


 俺がツッコむと、代表して明日菜ちゃんと綾音がキッチンへ向かう。

 持ってきたのは、お茶とせんべいと野沢菜だ。

 我が家ではお茶と一緒に、野沢菜が普通に出てくる。


「やっぱり女の子がいると華やかでいいわね。お手伝いもしてくれるし」

 母親が目尻を下げてそう言った。


 俺たちはリビングのカーペットの上に座り、ローテーブルの上に置いたお茶とせんべいをつまみ出す。

 ついでに野沢菜も、小皿と箸でつまむ。


「瑛太さん、お父さん似なんですね」


「よく言われるよ」


 明日菜ちゃんに言われて、俺はそう答えた。

 俺は父親、兄が母親似だ。

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