No.100:ちょっと頑張ってみました!


 7月の下旬、前期試験がスタートした。

 実質10日間、俺たちはかなり勉強した。

 俺たち2年組の3人は、1日だけ綾音のマンションに集まった。

 今年は落とした単位数によっては、3年に進学できない可能性もある。

 俺と綾音は大丈夫だが、誠治はかなり焦っていた。


 1年生の3人組は、全員学部が違う。

 なので集まって勉強するようなことはないようだ。


 持ち込み可の試験はまだいい。

 持ち込み不可で、論述を書かされる試験が厄介だ。

 想定問題と回答を覚えて、それをベースに用紙を埋めていくしかない。


 そしてなんとか試験をやり切った。

 手ごたえは……成績を別にすれば、単位は問題ないはずだ。

 まあできることはやった。


 大学はそのまま夏休みに入る。

 ふたたびバイトの日々が始まる。

 そんな中、8月の最初の日曜日。

 お昼時間に明日菜ちゃんがやって来た。


「試験お疲れさまでした!」


「ああ、明日菜ちゃんもね」


 今日も差し入れの食パンを持ってきてくれた。

 俺の朝の貴重な食料だ。


「大学初の試験、どうだった?」


「難しかったですね。論述でも自分で考えて書かせる問題とかあったりして、そこが高校までの勉強とは違うなって思いました」


「ああ、確かにそうだよね。試験範囲っていう概念自体が少し曖昧な感じがする」


 俺はキッチンに回る。

 今日は少し趣向を変えた。


「今日は焼きそばにしようと思うんだ。明日菜ちゃん、いいかな?」


「え? はい、いいですね! 焼きそばも大好きです」


 この間のキャンプに行った時、海斗が作ってくれた焼きそばが思いのほか美味しかった。

 余った肉や野菜を入れるのであれば、当然焼きそばでもいいはずだ。

 麺は一玉30円ぐらいで売っているので、お財布にも優しい。


 俺はホットプレートで余った野菜と肉を炒め始めた。


「明日菜ちゃん、例の男の子たちの件、その後どう?」


「あ、はい。随分収まってくれました。弥生ちゃんがいろいろと協力してくれていて……本当に弥生ちゃんには感謝してます」


「そう、それはよかった」


 最近明日菜ちゃんの表情も、明るくなった気がする。

 まあテストも終わって夏休みに入ったから、ということもあるだろう。


 ホットプレートに焼きそばを入れて、少量のだし汁を加えたら蓋をして蒸し焼きにする。

 更に炒めて水分を飛ばしたら、最後に焼きそばソースと青海苔と紅生姜を乗せて完成だ。


 お皿にとりわけ、二人でいただきますをして食べ始めた。


「あ、美味しいです! なんだか……この間のバーベキューの時より、美味しい気がします」


「うん、だし汁を入れた分、うま味が出たかな」


 ネットのレシピサイトは、一人暮らしの学生の味方だ。


 俺はあらためて、正面に座っている美少女を見た。

 今日の予想最高気温は36度。

 ここまで歩いてくる明日菜ちゃんは、当然薄着だ。

 ライトブラウンのタンクトップに、白いキュロットのミニ。

 上着の薄手のパーカーは、日焼け対策だろう。

 部屋では脱いでいるので……とにかく、今日の明日菜ちゃんは肌の露出度が高い。


 着ているタンクトップは、肌にピタッとフィットするタイプ。

 胸の主張が、いつもよりも激しい。

 細いウエストからキュロットスカートの下に伸びる生足。

 もうなんというか……綾音じゃないけれど……グラビアアイドルの撮影会か、という感じなのである。


「明日菜ちゃん、今日はちょっと肌の露出度が高いんじゃない?」

 焼きそばを食べ終えて視線を収める先に困った俺は、感想をそのまま口にした。


「え? そうなんですよ。気づいてくれましたか?」


 そういうと、明日菜ちゃんはおもむろに立ち上がった。


「ちょっと頑張ってみました! どうですかどうですか? ちょっとは意識してくれちゃいましたか?」


 そう言うと1回転してポーズを取ったり、キュロットの端を指で摘んだり……完全に俺をからかっている。

 ただ……その頬はほんのりピンク色だ。


「いや何を頑張ってんだか……」


「だってこの間バーベキューのあと皆で遊んでたとき、綾音さんばっかり見てたじゃないですか!」


「そんなことはないよ」


「目が泳いでますよ、瑛太さん。いいんですよ……そりゃあ私はあそこまでボリュームありませんし……」


 なんか明日菜ちゃんがやさぐれている。


「だからたまには、こうしてアピールタイムが必要なんですよ。ほら、大学ではミニも履いていけないじゃないですか」


 確かに大学での明日菜ちゃんを思い出してみると、ロングスカートかパンツスタイルだ。

 足を出しているのを見た覚えがない。


 一方で……日曜日にお好み焼きを食べに来るときは、最近は必ず生足をさらけだしている。


「もう……そんなことしなくたって、十分意識させられてるよ」


「本当ですか? ふふっ、ならよかったです」


 いつもの笑顔の明日菜ちゃんに戻った。

 全く……少しはこっちの身にもなってほしい。


「そういえば、小春ちゃんのお友達は来れそうなの?」

 俺は話題の転換を図る。


「あ、すいません。まだ分からないみたいなんですよ。できるだけ早く返事してもらってねって言ってるんですけど……」


 何の話かというと、夏休みの長野遠征の件だ。

 日程は8月13日から16日の3泊4日。

 メンバーはいつもの6人、これは確定済み。

 あと声をかけているのは、小春ちゃんと弥生ちゃんだ。

 小春ちゃんに関してはJK一人だと心細いだろうから、お友達も誘っていいよと言ってある。

 

「小春は最悪一人でも行きたいとは言ってるんですよ」


「そうなんだね。まあお姉ちゃんがいれば大丈夫か」


「まあそうですね。ちょっと手がかかりそうですけど」

 明日菜ちゃんは、ちょっとだけ渋面を作る。


「私としては、弥生ちゃんに是非来てもらいたいんですけどね」


「そうだね。弥生ちゃんの予定も、まだ決まらないんだ?」


「はい。お盆は親戚とかで必ず集まるみたいなので……今交渉中って言ってました」


 俺としても、あのキャラには是非とも来てもらいたい。

 楽しくなる予感しかしない。


「でもそんなに大人数になっちゃっても、瑛太さんのご実家は大丈夫なんですか?」


「ああ、その人数なら問題ないよ。ちょっと部屋割を考えないといけないけど、キャパ的には全然問題ないから」


「広いお家なんですね」


「昔の家だからね」


「それから……花火も楽しみです!」


「そうだね。ていっても、隅田川の花火大会みたいな大規模なやつじゃないからね」


 俺の実家の隣町では、毎年お盆の時期に小さな花火大会がある。

 といっても、いわゆるお盆の迎え火・送り火の代わりで、先祖の霊を送り迎えする意図から始まったらしい。

 小規模だが娯楽の少ない田舎では、それなりのビッグイベントだった。

 俺も子供のときには、毎年のように見に行っていた。


 滞在中の予定を計画しているところだが、この花火大会に行くことは決定事項だ。


「あと10日ぐらいですよね。もう楽しみで仕方ありません!」


「そこまで期待されると、プレッシャーだな」


「大丈夫です! 絶対楽しいに決まってます!」


 10日以上も先の長野ツアーに、期待全開の明日菜ちゃんだった。

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