No.99:吉川に連絡
さて、吉川に連絡を取らないといけない。
お互い前期試験の前で、それほど暇じゃない。
俺はLimeの音声通話で済ませることにした。
「やあ仲代、久しぶり」
「久しぶりだな、吉川。さっぱりステーキ以来だっけか?」
世間話もそこそこに、俺はすぐに用件を切り出した。
「あー、恵ちゃんたちに会ったんだね」
「ああ。それで実際のところ、どうなんだ?」
「テーマパークに行ったり、お互いの大学に行ったりしたのは本当だよ」
「それで?」
「うーん……最初はちょっと、可愛い子だなあって思ったよ」
「可愛いんだ」
「ああ。なんていうか最初会ったときなんか、都会のお嬢様JKって感じだったよ。ファッションも髪型も、それに薄くメイクとかしてね。上場企業の社長の娘さんだから実際にお嬢様なんだけど、とにかく長野にはいそうにないタイプの子だよ」
とりあえず長野のJK全員に謝罪してもらいたかったが……まあ言わんとしていることはわかる。
「その……もう深い仲とかだったりするのか?」
「えっ? いや、ないない。さすがにそれはないよ」
「でもテーマパークで、手ぐらい握ったりしただろ?」
「……」
したんだな。
まあ向こうから繋いでくることもあるだろうし。
「で、どうすんだ? この状況で、俺は二股は看過できないんだが」
「そんなつもりはないよ。いや、実は最近は彼女には会ってないんだ」
「……本当か?」
「本当本当。なんていうかさ、彼女わがままなんだよ。最初は猫かぶってたのかもしれないけど、自分の意見や予定が通らないとすぐに機嫌が悪くなるしヘソを曲げるんだ。それにLimeの返信遅れただけで怒り出すし。まあ金持ちで、甘やかされて育てられたっていうのがよく分かる感じかな」
なるほど……でも明日菜ちゃんも綾音も、全然そんな感じではないけどな。
同じ金持ちの娘でも、違うものなのか?
「それで僕も最近疲れてきちゃって……だから連絡は来るんだけど、会わないようにしてる。このままフェードアウトできればいいなぁって思ってるんだけどね」
「そういうことか。その事、星野には話してやったのか?」
「いや……なんとなく言いづらくて」
「そういうのがよくないんじゃないか?」
「ていうかさ、恵ちゃんもバイト先の先輩のアパートとか行ってるんだよ」
「え? マジか?」
そうなのか?
それは聞いてないぞ。
「本人は『何もなかった。コーヒー飲んで喋ってただけ』って言うんだけど……アパートまで行ってさ、何もないって信じられる?」
「いや……どうだろ」
どうなんだ?
いや、でも……。
自分だって、そうじゃないか。
毎週のように明日菜ちゃんが俺のアパートに来るけど、お好み焼きを食べて話をしてるだけだ。
何もないっていう可能性は、もちろんある。
それに……。
「でも……本人が何もないって言ってるんだろ? 俺は信じてやってもいいと思うぞ。俺だって去年美桜のアパートにお邪魔したけど、そのままケーキを食べて帰ってきただけだ。何もなかったぞ」
「あー、その話はまあ……聞いてるけど……」
吉川は逡巡している。
俺はとりあえず、もう一度話し合う方向へ誘導する。
「とにかく俺と話してても、なにも変わらないぞ。とにかく星野と話し合えよ。向こうもそれを望んでるぞ」
「……うん、そうだね。ちょっと先入観が強かったかもしれない。もう一度気持ちをフラットにして、恵ちゃんと話してみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「ありがとう、仲代。恩に着るよ」
「今度何か奢れよ」
吉川は、わかったわかったと言いながら笑っていた。
まあこれで良い方向へ行ってくれればいいけどな。
「ところで……仲代は徳永とまだ復縁しないの?」
「……お前ら、本当に似たものカップルだな。マジで」
◆◆◆
俺は吉川と音声通話を終えた後、美桜に連絡した。
そして話の内容を美桜に伝えた。
「ありがとう、瑛太君」
「いやいや、でもこれで上手くいくかどうか、わからんぞ」
「それはそれで、仕方ないよ」
美桜の声は、ちょっと安心していた。
「でもこういうのって、結局は当人同士の問題だろ? 他人がとやかくいっても始まらないと思うが」
「確かにそうなんだけどね。でもやっぱりちゃんと言葉を交わして、自分たちの意思を相手に伝えないといけないと思うんだ。思っていた気持ちが相手に正しく伝わらなかったりしたら、絶対に後悔するから」
「美桜……」
自分の体験から言っているのだろうか。
自分のように後悔させたくない、とか……。
「あっ、べ、別に深い意味はないよ。ただ最後まできちんと話をしてほしいなって」
「まあ当人同士で最後まで話をする、ってところには賛成だ」
話し合った先は、当人同士の問題だ。
「ところでさ。瑛太君、夏休みどうするの?」
「ああ、まあバイト三昧だが、お盆は実家に帰ろうと思ってる」
「え、本当? 私も帰る予定なんだ。もう新幹線も予約したよ」
美桜の声が、こころなしか弾んでいる。
「あっちで、会えないかな?」
「どうだろ。実はな……」
俺は事情を説明する。
以前からいつもの仲間で、俺の実家へ行こうと企画をしていた。
ところが俺達のうち、3人はヴィチーノでバイトしている。
その3人全員がシフトに入れないというのは、店の方としても困ってしまう。
いろいろ配慮して、お店のお盆休みの期間に決行することにした。
今年は8月13日から16日、3泊4日の日程だ。
そんな状況だから、俺だけ抜けて美桜と会うわけにはいかないだろう。
「会うとなると、皆と一緒に会うことになってしまうぞ」
「皆って……女の子もいるんだよね?」
「いるな。とりあえず最低3人は確定している」
「そ、そうなんだ」
美桜はびっくりした様子だ。
「といっても、サークルの仲間みたいなもんだ。だからもし時間が取れそうだったら、連絡するよ。それでいいか?」
「うん、わかった。ありがとう」
俺は音声通話を終了した。
小腹が空いたな……俺はキッチンの冷蔵庫を開けて、なにか食べるものを物色した。
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