No.98:面倒くさいLime


 前期試験の勉強を、そろそろ本腰をいれてやらないといけない。

 そんなことを考えていたところに、ちょっと面倒くさいLimeが入ってきた。


 美桜:こんにちは。なんだか恵子と吉川くんが、揉めてるみたいなの。ちょっと話を聞いてあげてもらえないかな?


 聞いてみると、星野と吉川がケンカ中らしい。

 あまり気乗りがしなかったが、美桜の頼みだから仕方がない。


 俺たちは吉祥寺のサンマルコカフェに集合する。

 俺、美桜、星野の3人だ。


「もうさぁ、たっくんたら酷いんだよ!」

 なんか星野はお怒りのご様子だ。


 話を一通り聞いてみると、こうだ。

 たっくんこと吉川は1年生の時に、家庭教師のアルバイトをしていた。

 相手は神楽坂に住む、当時高校3年生のお嬢様。

 ……もうこの段階で、ある程度ストーリーが読めてきてしまった。


 吉川が教えた甲斐もあって、そのお嬢様は第一希望の上賢大学に合格。

 上賢大学は四谷だから、神楽坂からだと頑張れば歩いて通うこともできる。


 お嬢様は吉川のことを好きになった。

 吉川は彼女がいるからと、再三話をしていたのにも関わらずだ。

 

 お嬢様は受験前、吉川に『大学に合格したら、千葉にあるテーマパークに連れて行ってほしい』と何度もお願いしていたらしい。

 吉川はお嬢様の母親からも、とても気に入られていた。

 なので『よかったら是非娘を遊びに連れて行ってやってくれませんか?』と再三頼まれたそうだ。


 やむなく吉川は、そのお嬢様とテーマパークデートをした。

 ところがそれだけでは終わらなかった。

 お嬢様が大学に入学してからも、たまにお互いのキャンパスに行って学食デート(星野が言うにはだが)とかもしていたらしい。

 そしてそれを星野には黙っていた。

 結果それがよくなかった。


 ではなぜそれが発覚したのか。

 星野は早慶大にいる女友達から、吉川が他の女の子と一緒にいたという目撃情報を入手。

 問い詰めたところ、吉川はそれをあっさりと認めた。

 結局今までお嬢様と遊びに行ったことを、全て白状させられた、というわけだ。


「でもさ、恵子だってバイト先の先輩と出かけてたわけでしょ?」


「だ、だからそれは、バイトの相談に乗ってもらってただけなんだってば!」


 美桜の追求に星野が焦っているように、星野も叩いたらホコリが出てきた。

 

 星野は近所のファミレスでバイトをしているのだが、ある日大きなミスをしたらしい。

 凹んだ星野に声をかけてくれた、優しい男の先輩がいたそうだ。

 ……この時点で、俺は帰りたくなった。


 話を聞いて欲しかった星野は、その先輩とお茶や食事に行くようになった。

 他大学の1つ上の先輩で、星野いわく『ワイルド系雰囲気イケメン』らしい。

 なにその微妙なカテゴリー……。


 相手の先輩は、星野に彼氏がいることを知っているらしい。

 それでもお構いなしで誘ってくるとのことだ。

 星野は吉川に悪いなぁという気持ちはありつつも、ちょっとした意趣返しの気持ちもあるようだ。


 かくして「なんで黙ってたの?」「恵ちゃんだって」というバトルが勃発し、どうやらお互い引くに引けない状況らしい。


 さてと……それじゃあ、帰るか。


「とにかくさ、二人でちゃんと話し合ったほうがいいよ。ねえ、瑛太君もそう思うよね?」


「へっ?」


 美桜の言葉で、意識が現実世界に引き戻される。


「まあ……話し合った方がいいというか、それ以外の解決方法なんてないんじゃないか? 第三者がとやかく言ったって仕方ないだろ、この場合」


「でもさ、たっくんは黙ってテーマパークデートしてたんだよ? 私たちだって2回しか行ったことないのにさ! 酷くない?」


「だから俺に言うなって」


 関西弁だと『しらんがな』というべきところか。

 ていうか、既に2回も行ってんのか?


「瑛太君、恵子たちずっとこんな感じなんだ。それでね……おせっかいなのはわかってるんだけど、瑛太君から吉川君にちょっと話を聞いてみてもらえないかな?」


「俺が?」

 だが断る! と口から半分出かけたところで、なんとか飲み込んだ。


「別に二人で十分に話し合って、それでダメならわたしも仕方ないと思うけどさ。なんていうか……ボタンの掛け違えっていうか、言葉が変なふうに伝わっていることもあるんじゃないかな」


 美桜は続ける。


「だから……そんなときは、第三者が間に入ってあげた方が上手くいくこともあると思うんだ。だから瑛太君、お願い! 頼めないかな?」


 美桜が俺に両手を合わせて頼んできた。

 全く……そこまで言われたら、断れないだろ?


「わかったよ、美桜。吉川に連絡取ってみるわ」


「本当?」


 美桜の表情が、ぱあっと明るくなった。


「ああ。星野、それでいいか?」


「え? う、うん……実は私もさ、ちょっとどうしていいかわからなくって」


「わかった。確認だが、星野は吉川と別れたくないんだな?」


「う、うん。やっぱりたっくんと一緒にいたいよ」


「変な意地を張ってないで、そのまま吉川に言ってやりゃあいいのに……」

 俺は嘆息する。


 俺が吉川に連絡してみるということで、この会議は終了だ。

 俺は氷のとけたアイスコーヒーを、ストローで飲み込む。


「ところでさ」


「なんだ星野。まだ何かあるのか?」


「二人はいつ復縁するの?」


「なっ」「恵子!」


 こいつ、全く反省の色がないな……。

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