No.94:キャンプのデザート


 バーベキューマスターの海斗が、ウンチクを述べ始めた。


「なんで炭火の焼き肉が美味いかっていうと、理由があるんスよ。ガスだとガスに含まれる水素が燃える時、酸素と結びついてH2O、つまり水蒸気ができるから肉がカラッと焼けにくいんスよ。でも炭は元素記号Cだから、燃えても水分は出ないッス。だからカラッと香ばしく焼けるんスよ。他にも遠赤外線効果とかもあるんスけど」


 なるほど、Cが燃えるとCO2かCOになるわけか。

 だから換気に注意しないと、一酸化炭素中毒になってしまう可能性がある。

 文系の俺でも、なんとか理解できた。


 そろそろ俺の焼き鳥もいい感じに焼けてきた。

 そこで俺は、別容器に入ったソースを取り出す。


「焼き鳥が焼けたけど、よかったらこのソースをつけてみてくれ」


「おっ? 瑛太、それひょっとしてサテのピーナッツソースか?」


「ああ、そうだ」


「おおっ、さすが瑛太! わかってるねぇ」


 アジア食好きの誠治にはわかったようだ。

 東南アジアの焼き鳥、サテに使うピーナッツソースを作ってきた。

 といっても、ピーナッツバターにナンプラーとラー油、お酢と砂糖から作った簡易版だが。


 早速誠治がそのタレを付けて焼き鳥を頬張る。


「うわっ、これメッチャうめーじゃん! もう一本もらうぞ」


「本当だ! このソース、どうやって作るの? 瑛太、レシピ教えてよ」


 他の皆にも食べてもらったが、大好評のようだった。

 誠治は「あー、ビール飲みてぇ」とか言っていたが。

 残念ながら、今日はアルコールは一切持って来ていない。

 誠治には帰りも運転してもらわないとな。


 肉が終わったところで、バーベキューマスターは炭の上の網を鉄板に変えた。

 キッチンペーパーで油を引くと、肉とカット野菜を炒め始めた。

 そして焼きそばを投入。

 最後にソースで仕上げると、あたりには香ばしい匂いが立ち込める。


 締めの焼きそば、かなり美味い。

 たしかに夜店の焼きそばのようなジャンク性があるが、皆で騒ぎながら食べる焼きそばは格別だった。


 焼きそばが終わって鉄板を下ろすと、海斗はバッグから何かを取り出した。


「キャンプのデザートと言えば、これッスよ」


 見ると、竹串の先にマシュマロが刺さっている。

 俺たちはそれを手にとって、炭の上で炙る。

 表面が少し焦げて、甘い匂いが漂ってくる。

 女性陣は全員、ワクワクした表情でそれを見守っていた。


「あっ、あついれふ! でもおいひい!」


「明日菜ちゃん、やけどしないようにね」


「はひっ」


 俺も焼きマシュマロを口に入れると、最初に出た言葉は「熱っつ!」だった。

 人のことは言えない。


 エリちゃんを除いて、焼きマシュマロは初経験だった。

 これは楽しい。

 きっと子供のときにやっていたら、いい思い出になっていただろう。


「いやー、でも海斗には助けられたな。ほとんど全部やってもらっちゃって」


「いえいえ、俺も好きッスから」

 

 誠治の労いに、海斗はちょっと照れていた。

 バーベキューは盛況のうちに終わった。

 全員満腹だ。


 俺たちはベンチに腰掛けて、少し休憩した。

 6月の天気はちょっと蒸し暑かったが、木陰になっていたので思ったより涼しい。

 

「なんだかとっても楽しいです、こういうの」

 明日菜ちゃんの声がはずんだ。


「そうだよね。ウチもこういうの、中学の野外学習以来だから」


「楽しいですよね。エリも昔は家族ぐるみで行ってましたけど、本当に久しぶりです」


「じゃあ次は瑛太の実家方面でバーベキューだな」


「ああ、実家の近くだったら、バーベキューが出来るところならいくつかあるぞ。なんなら実家の庭でもいい」


「長野ですか、いいッスね。花火とか川遊びとか、したいッス」


 もう既に次の活動の話をし始めた。

 どうやら次回も、誠治と海斗が車を出してくれる方向で話が進みそうだ。

 それだったら助かるな。

 さすがに車がないと、俺の実家からの移動は厳しい。

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