No.93:今日それ履いてます


 指定されたバーベキューブースへ行ってみると、そこは木々に囲まれた日陰の気持ちいいエリアで、かなり大きいグリルが用意されていた。

 グリルの横には炭と着火剤と新聞紙とライターが置いてある。

 そしてグリル用に網と鉄板の両方が用意されていた。


「そんじゃあ早速、火を起こしますね」


 そう言って用意を始めてくれたのは、海斗だった。

 じつは海斗は小さい時にはボーイスカウトに入っていて、最近まで家族でもよくキャンプへ行っていたというアウトドア大好き少年らしい。

 テントの設営とかキャンプ料理とかのノウハウはバッチリで、家族バーベキューも頻繁にやるとのことだ。

 ここのキャンプ場を誠治に勧めたのも海斗だったらしい。


「ここはバーベキューエリアが日陰で、グリルにも網と鉄板の両方が用意されてるんスよ。だから網でバーベキューをしたあと、鉄板で焼きそばや焼き飯を作ることもできるんです。ちょっとした広場もあるので、ボール遊びとかも楽しいッスよ」


 キャンプ場へ着いた時、海斗は少し自慢げにそう言っていた。


「さすがだ、海斗。君をバーベキューマスターに任命しよう」

 誠治は面倒な事を、海斗に押し付けたかったようだ。


 海斗は軍手をはめ、グリルに炭をセットする。

 そして慣れた手つきで、新聞紙と着火剤で火をつけた。

 15分もすると、炭全体に火が行き渡った。


 海斗が火起こしをしてくれているあいだに、俺たちは食べ物と飲み物の準備をする。

 火の準備が整うと、網の上に肉を置き始めた。

 ジューっという音と煙が、グリルの上を賑やかにする。


「いつも通り、手際がいいね」


「ああ。でもエリとバーベキューすんの、久しぶりじゃね?」


「そうだね……3年前くらいだっけ? 高1の時だったよね。海斗の家の庭でやったのって」


「……もうそんな前になるのか」


 エリちゃんと海斗がそんな会話としていた。

 いとこ同士だから、当然交流もあるだろう。


「エリちゃんと海斗君のお父さんが兄弟なんだよね? じゃあもう家族みたいな感じなの?」

 綾音が二人の話を聞いて、そう質問した。


「そうですね、まあ小さい時から家族ぐるみで一緒にいましたからね。それでも高校に入ってからは、会う機会も少なくなりましたけど」


「それはエリに彼氏ができたからだろ?」


「ちょ、ちょっと海斗! そんなことないでしょ」


 珍しくエリちゃんが焦っている。

 海斗はしたり顔だ。

 そんなエリちゃんも、今はフリーらしい。

 明日菜ちゃん情報だ。


 そうこうしているうちに、肉がいい感じに焼けてきた。

 俺たちは、各自お茶やジュースをついだ紙コップを手に持った。

 

「よし、それじゃあ始めようか。明青フリーウォークサークル、初イベントのバーベキューだ! 乾杯!」


 誠治の掛け声のもと、俺たちは紙コップで乾杯した。


「ついでに誠治、お誕生おめでとうな」

「あ、誠治先輩、おめでとうございます」

「そうだったね。おめでとう」

「誠治さん、おめでとうございます」

「おめでとうございまーす」


 誠治の誕生日は、ちょっと扱いが軽かった。

 

「ありがとな。まあこうやって皆で集まってバーベキューができるだけでも、オレは嬉しいわ」


 誠治の声が、感慨深げだ。


「プレゼントとか、用意しなかったわよ」


「期待もしてねえから、大丈夫だ」


「あ、プレゼントで思い出したんですけど」

 

 綾音と誠治の会話に、エリちゃんが入り込んできた。


「綾音さんがクリスマスプレゼントにくれた、あのパンツあったじゃないですか」


「ウチがあげた?……ああ、あの黒いスッケスケの?」


「はい。エリ、今日それ履いてます」

 エリちゃんは自分のスキニージーンズのお尻に両手をあてた。


「エリちゃん、それなんで今言う?」

 誠治がツッコむ。


「え? いや、なんか、プレゼント繋がりで」


「それは誕生日プレゼントで、オレにお披露目してくれるとかじゃないの?」


「料金次第ですね。安くないですけど、どうします?」


「JDビジネス怖い!」


 うーん、あの下着を履いたエリちゃんか……。

 めちゃくちゃセクシーだ。

 写真とかだったら、かなり高値がつきそうだ。


 煩悩を払うべく、俺は自分の持ってきた肉を取り出した。

 鶏もも肉を切って、串に刺してきた。

 つまり焼き鳥である。


「あ、焼き鳥ですね。瑛太さん、作ってきたんですか?」

 料理好きの明日菜ちゃんが、真っ先に興味を示してきた。


「ああ、串に刺しただけなんだけどね」


 俺は網の端の方に、10本ぐらい串を並べて塩コショウを振った。

 ちょうどその頃、最初に焼いた肉が食べごろになった。

 バーベキューマスターの海斗が、長いトングで各自の紙皿の上に肉を置いていく。


「あ、美味しい」

「うん、美味いな」


 綾音と誠治が、肉をタレをつけて口に運んだ。

 二人共満足げだ。


 俺も箸で肉をとって、タレをつけて食べてみる。

 久しぶりの焼肉の味に、ちょっと感動する。


「美味いな。肉が香ばしい」

「はい、美味しいですね」

「エリ、焼き肉久しぶりです。美味しいー」


 俺も明日菜ちゃんもエリちゃんも、目の前の肉を堪能する。

 グリルからモクモクと上がる煙と、ジュージューと奏でる音が食欲をそそる。

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