No.92:バーベキュー


 6月に入ると、東京は早々に梅雨入りとなった。

 雨が続くと、大学にもバイトにも行くのが億劫になる。

 俺は気分的にもジメジメとしてきて、いろいろとヤル気が出ない。


 外出もままならないので、必然的にアパートにいる時間が長くなる。

 スマホでゲームをしたりもするのだが、気晴らしに旅行サイトなんかも見るのが好きになった。


 お気に入りは海外の、それも東南アジアのビーチリゾートのサイトだ。

 セブ島やプーケット、ダナンやバリ島など、綺麗なビーチの画面を眺めているだけでも癒やされる。

 サイトによっては、その地域の料理レシピなんかも載っていたりするので、たまに作ってみたりする。

 といってもガパオライスの素を入れるだけとか、インスタントのフォーを買ってきて茹でたりとか簡単なものが大半だ。

 金もないけど、卒業旅行で行けないかな……そんなことをふと考える。

 2年以上も先のことを考えても仕方ないのだが。


 そんな中、俺たち6人のグループLimeにメッセージが。


 誠治:天気予報によると、今週末はお天気がいいらしい。なので第1回明青フリーウォークサークルの最初のイベントを開催します! デイキャンプでバーベキューをするぞ!


 バーベキューのお誘いだ。

 誠治、なかなかいい企画を思いついたな。

 メンバーがそれぞれ書き込んでいく。

 あっという間に、全員参加が決まった。


 エリ:因みになんですが、6月18日は誠治さんの誕生日です。


 バーベキュー当日の、二日前だ。


 瑛太:いらない情報だな。

 綾音:いらない情報ね。

 誠治:お前ら、マジふざけんな!


 結局ワリカンで、誠治の食費負担は免除することで落ち着いた。


        ◆◆◆ 


 そしてバーベキュー当日。

 梅雨の雨は小休止で、ちょうどいいぐらいの曇り空。

 それほど暑くもないので、バーベキューには丁度いいだろう。


 場所は吉祥寺から車で30分ぐらい離れたところにあるキャンプ場だ。

 そこで誠治に、デイキャンプサイトの予約をしてもらった。

 グリルや炭など、バーベキューに使用するセットもレンタルした。

 食材は自分たちで持ち込みとなる。


 何を持ち込むかは、事前に役割を決めておいた。

 肉担当、野菜担当、飲み物担当など、それぞれ購入して金額を自己申告してもらう。

 その金額を集計して、プラスマイナスを電子マネーで払ったり受け取ったりして調整することにした。

 因みに集計係は、明日菜ちゃんにやってもらった。

 家でのバイトで、経費の集計もやっているので適任だろう。


 キャンプ場へは車2台で、現地集合することにした。

 俺と綾音は吉祥寺で誠治にピックアップしてもらった。

 明日菜ちゃんとエリちゃんは、それぞれの家に海斗がピックアップすることになった。

 海斗も大学に入る前に既に免許を取得していて、母親の車を使わせてもらうらしい。


「そうだ。誠治、誕生日おめでとう」


 俺は誠治の運転するライトバンの助手席から、運転手に話しかけた。


「おう、ありがと。オレもこれでようやく大手を振って酒が飲める」


「そっか。そういえば酒屋の息子だもんね」

 後部座席から、綾音が話に加わる。


「瑛太は8月だよな。綾音、2人でサシ飲みするか?」


「ウチの貞操が危ないからやめとく」


「なんでだよ」


 二人とも笑っている。

 俺はこの2人のコントを見るのが、結構好きだったりする。


 30分も走らないぐらいで、目的地のキャンプ場へ到着した。

 既に海斗たち3人は、到着していた。


 キャンプ場にはテントサイトとオートキャンプサイト、それとコテージも数棟あった。

 宿泊をしない俺たちは受付で支払いを済ませた後、外の駐車場に車を停めてバーベキューエリアへ移動した。


「海斗、荷物が多いな」

 俺はたくさんの荷物を持っている海斗に声をかける。


「はい。遊び道具も、ちょっと持ってきたんで」


 海斗の荷物を見ると、トートバッグの上からバドミントンのラケットが見えた。

 キャンプ場内にはちょっとした広場があって、そこで遊べるらしい。

 用意がいいな。

 食後の運動に、ちょうどいいかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る