No.86:ドライブデート2


 今日の明日菜ちゃんは、水色のキュロットスカートとブランドロゴの長袖Tシャツというスタイル。

 短めのキュロットは前側に大き目のリボンが付いていて、今日もその生足が眩しい。

 本当にティーン雑誌の専属モデルといわれても、違和感がないルックスだ。

 順番を待っていた男性客が、明日菜ちゃんを二度見する。

 カップルで待っているのにもかかわらずだ。


 10分ほどで、俺たちは席に案内された。

 4人がけの席に、向かい合わせで座る。


「なにか食べたら? 俺にご馳走させてよ」


「え? でも……やっぱりワリカンにして下さい」


「いやいや、車に乗せてもらったんだし。それに緊張で疲れたでしょ? 甘いものでも頼んだら?」


「そうですね……確かに緊張で、甘いものが食べたくなりました」


 メニューを見ながら、彼女はフルーツが乗ったパンケーキを注文した。

 俺は家で食事をしてきたばかりだから、ドリンクバーだけ。

 注文を終えて、二人でドリンクバーへ向かった。


「大学はどう? もう慣れた?」


「そうですね……でも驚いたのは、先生によって講義が全然違うというか……」


「ああ、わかる」


「口の中でモゴモゴ言って、何言ってるかわからない先生とかもいるんですよ。なんていうか、わかりやすい授業とかあんまり考えてないのかなって」


 確かにそういう教授もいるな。

 

「君たちは学びに来ている。こっちは教えてあげてるんだ、みたいな感じ?」


「そうそう、そうなんですよ!」


 俺はアイスコーヒー、明日菜ちゃんはアイスティーを持って、ドリンクバーから戻ってきた。


「今ヴィチーノは、綾音さんも入って3人でバイトされてるんですね」


「ああ、そうだね。綾音も最初は慣れなかったけど、最近は貴重な戦力だよ」


「男性客が増えたんじゃないですか?」


「どうだろうね。リピーターが増えたかもしれないよ」


 俺は苦笑気味に言った。

 綾音の胸のボタンが弾け飛んだ話はしなかった。


「私も一緒に働きたかったです」


「そうだったの?」


「はい。でも両親と話して、前に言っていた家の仕事の一部をアルバイト代わりに手伝うことにしたんですよ」


「ああ、そういえば言ってたね」


「はい。だから当面は外でバイトはしないと思います」


「そっか。まあご両親はその方が安心だろうね」


「はい。特におかあさんは自分の仕事を手伝ってもらえるから、喜んでます」


「なるほどね」


 俺は明日菜ちゃんが一緒にバイトしている姿を想像した。

 それこそ男性客のリピーターが激増すると思う。


 ちょうどそこに、注文したパンケーキが運ばれてきた。

 上にはバナナ、マンゴー、苺が散りばめられていて、見た目も鮮やかだ。


「美味しそうです!」


「ああ。冷めないうちにどうぞ」


「瑛太さんも、少し食べてくださいよ」


 明日菜ちゃんはナイフとフォークを使って、お皿の端に少し取り分けてくれた。

 カトラリーボックスからフォークを出して、俺はそれを頬張る。


「ああ、美味しいね」


「はい、甘くておいしいです。お好み焼きが大変だったら、パンケーキでもいいかもしれませんよ」


「ははっ、でも俺の場合、余った野菜を処分するっていうのも一つの目的だからね」


「じゃあフルーツの代わりに、野菜もいれるんです」


「それだと、お好み焼きと変わらないんじゃないかな?」


「えっ? あ、そうでした」


 二人で吹き出してしまった。

 なんだか明日菜ちゃんと過ごすこんな時間も、とても楽しい。


 食べ終えた俺たちは、会計をして外に出る。


「ご馳走になっちゃって、いいんですか?」


「全然いいよ。ドライブに連れてきてもらったんだし」


「すみません。ではご馳走になりますね。ありがとうございます」


 二人でまた、車に乗り込む。

 明日菜ちゃんは一応俺のアパートに、ナビをセットした。


「なんかちょっと思ってたドライブデートと違いました」


「え? そうだった?」


「はい。運転は大変だし、ファミレスは混んでるし」


「はは、まあ運転が慣れてくれば楽しくなるかもしれないよ」


「だといいんですけど……やっぱり瑛太さんが作ってくれるお好み焼きを食べるほうが、ずっと楽しいです」


「そっか。じゃあ来週はお好み焼きだね」


「はい!」


 明日菜ちゃんは、ゆっくりと車を発進させた。

 俺のアパートまでは、今度はトラックに妨害されるようなことはなかった。

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