No.85:ドライブデート1


 4月の終わりの週末。

 バイトからアパートへ帰ってくると、Limeのメッセージが入っていた。


 明日菜:お仕事お疲れさまです。音声通話をしたいので、ご都合のいいときにご連絡をいただけますか?


 今日は土曜日、明日はお好み焼きの日だ。

 都合が悪くなったのかな?


 俺はそのまま、受話器のアイコンをタップする。


「瑛太さん、こんばんは。お仕事お疲れさまでした。今お時間、大丈夫ですか?」


「こんばんは、明日菜ちゃん。もちろん大丈夫だよ」


「瑛太さん、明日なんですけど……予定を変更しませんか?」


「? お好み焼きじゃなくって、ってことだよね」


「はい。ドライブデートしましょう!」


 明日菜ちゃんの声がはずんだ。


「ここ何日か、お母さんや小春に乗ってもらって練習したんです。それで近いところだったら、ナビを使って行けますから」


「えーと……大丈夫なの?」


「はい、任せて下さい!」


 俺は一抹の不安を覚えたが、明日菜ちゃん本人はノリノリである。


「わかった。じゃあお願いしようかな。俺はどこへ行けばいい?」


「アパートにお迎えに行きますよ。家を出るときに、連絡しますね」


「了解。楽しみにしてるよ」


「はい!」


 明日菜ちゃんの明るい返事を耳にして、俺は明日のドライブが楽しみになった。


        ◆◆◆


 翌日のお昼過ぎ。

 これから家を出ます、という明日菜ちゃんからの連絡を受け、俺はアパートの前で待っていた。


 しばらくすると、見覚えのあるシルバーのSUV欧州車がゆっくりこちらへ向かってくる。

 ボンネットには、若葉マークがしっかり貼ってあった。


 助手席をのドアを開けて、俺は乗り込んだ。


「こんにちは、明日菜ちゃん。お邪魔するね」


「こんにちは。どうぞ、乗って下さい」


 俺は乗り込んでシートベルトをすると、車はゆっくりと走り出した。


「凄いね、本当に運転できるんだ」


「もちろんです! でもまだ緊張します」


「そりゃそうだろうね」


「だから行き先も、近場になっちゃいます。我慢してくださいね」


「ああ、全然OKだよ」


「少しずつ、遠い所に行けるように頑張りますから」


 今日の行き先は、青梅街道沿いのファミレスらしい。

 どうやらナビは既に設定済みらしく、音声案内が始まっている。


 明日菜ちゃんの運転は、とても慎重だった。

 スピードも遅い。

 まあ免許を取ってから1ヶ月ちょっとだから、当たり前だけど。


 車が片側二車線の青梅街道へ入ると、交通量が一気に増える。

 左側の車線をゆっくり走っていると、前を走っていたトラックがハザードランプを点けて停車してしまった。

 明日菜ちゃんは「あっ」と声を出したが、車線変更のタイミングが遅れてそのままトラックの後ろで止まってしまった。

 後ろからどんどん車が来るので、なかなか右の車線に入れない。


「うー……車線変更は苦手です」


「まあ仕方ないよ。信号が変わって車の流れが止まるのを待とう」


 結局30秒以上待っただろうか。

 停まっていたトラックのドライバーが、走って戻ってきた。

 そしてトラックは、すぐに走り出した。


「はぁ……よかったです」


 明日菜ちゃんも、そのまま車をまっすぐ走らせた。

 結局時間にして10分ぐらいのドライブだったと思う。

 目的地のファミレスに到着した。


 ところが……駐車場が1台分しか空いていない。

 それも、結構幅が狭いスペースだ。


「俺、降りて後ろ見るから」


「お、お願いします」


 俺は車から降りて、後ろにまわる。

 車にはもちろんバックモニターが付いているが、左右のスペースとか教えてあげたほうがいいだろう。


 明日菜ちゃんは運転席の窓を開けて、いろいろと見ながらバックして駐車スペースに車を入れる。

 結局5回切り替えして、なんとか駐車を成功させた。


「ふぅー……疲れちゃいました」 


「お疲れさま。とりあえず到着できてよかったよ」


「そうですね。駐車場が案外狭くて、停めにくいです」


「車が大きんじゃない?」


「大きくはないと思いますよ。2,000ccですから、一応小型車です」


「そうなんだね」


 大型小型って、車の大きさじゃなくてエンジンの大きさなのか?

 全然知らなかったぞ。


「でも確かに小さい車のほうが、運転しやすいですね。エリはお母さんの軽自動車を乗ってるんですけど、運転はしやすいって言ってました」


「確かにね。特にこういう駐車のときは、入れやすいだろうし」


「本当、そうですよね」


 俺たちはファミレスの中に入る。

 やはり日曜日なので、店内は混んでいた。

 2-3組の順番待ちだった。

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