No.81:い、いつからですか⁉


 焼き上がったお好み焼きに、ソースとかつおぶしを振りかける。

 お皿に取り分けて、皆でいただきますをしてから食べ始めた。 


「そう言えばこの間エリと話していたんですけど、瑛太さんはサークルとか部活とか考えたことはないんですか?」


「あーー、入学した時はいろんな勧誘を受けたよ。でも俺の場合経済的な問題から、バイトが優先だったからね。だからサークル活動するぐらいだったら、バイトしたいなって思うかな。それにバイト自体が誠治もいるし、サークル活動みたいなもんだからね。」


「なるほど、そういう考えもありますね」


「そういえば、先週から綾音もヴィチーノでバイトを始めたんだ」


「えーーーーーー!!!!」


「うわっ」「ひゃっ」


 明日菜ちゃんが大声で叫んだかと思ったら、いきなり立ち上がった。


「い、いつからですか⁉」


「え、えっと、先週の土曜日だったかな」


「そうだったんですね……知りませんでした」


「う、うん。とりあえず明日菜ちゃん、落ち着いて。一旦座ろうか」


「え? あ、はい、すいません……」


 明日菜ちゃんはシュンとした表情で、椅子に座る。

 小春ちゃんは横で「ふーん……」とか呟いているが。


「まあそんな感じで、俺の場合は日常生活の一部が大学のサークルみたいなものになってるんだ。それにきっと4月から、いつものメンバーで行動するようになるんじゃないかな? それこそサークルみたいにさ」


「あ、はい……そうですね……」


 それから明日菜ちゃんは、ずっと会話に集中していない感じだった。

 残りのお好み焼きにも、ほとんど手をつけなかった。


        ◆◆◆


「綾音さん、ヴィチーノでバイトを始めたんだ……」


 瑛太さんのアパートでお好み焼きをごちそうになった帰り道。

 私は誰に言うともなく、一人呟いていました。


「なになに? ライバルさんの反撃開始って感じ?」


 となりで小春が茶化してきます。

 でも……反撃開始というのは、的を射ているのかもしれません。


 私も一緒にバイトしたい!

 一瞬、そうも思いました。

 でもそれは、あまりにもあからさま過ぎます。

 それにこの間、お父さんの会社の事務のお仕事をアルバイト代わりに手伝う、ということになったばかりです。

 今更それを変えるわけにもいきません。


「でもさぁ、そのライバルさんは瑛太さんのアパートで、お好み焼きとか食べてるのかな?」


「え?」


「多分、そんな感じじゃないと思うけど?」


 小春は、私を元気づけようとしてくれているようです。

 確かに小春の言う通りかもしれません。

 瑛太さんは、そんな器用な人ではない気がします。

 

 ある意味、いままで私のほうがズルをしていた、と言えるかもしれません。

 毎週末、瑛太さんのアパートでお好み焼きをご馳走になっているわけですから。

 だからこれで、条件は同じです。

 そう考えることにしましょう。


「そうだよね。よし、お姉ちゃん頑張るよ!」


「小春も頑張って、来年の誕生日には瑛太さんにブラをプレゼントしてもらうよ! 目指せ、Cカップ!」


「小春は何を頑張るのよ!」


 モヤモヤしていた気分が、随分スッキリしました。

 帰りにコンビニで、小春にアイスを買ってあげましょう。

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