No.71:それも無意識だから……


「アタシもバイトしたいなぁ。高校入ってから」


「当面は勉強に集中した方がいいわよ。それに……コンビニとか大変だよ。変なお客さんとかもいるし」


「そりゃあお姉ちゃんだからじゃないの?」


「いや、小春ちゃんだってわかんないよ。十分可愛いし」


「瑛太さんってロリコンなんですか?」


「なんでそうなるかな」

 

 ていうか、小春ちゃんだって普通に可愛いよね?

 学校でも人気あるんだろうな。


 お好み焼きを食べ終えると、明日菜ちゃんと小春ちゃんが食器を流しに運んでくれた。

 そろそろ帰る時間かな


「じゃあ悪いんだけど、来週はお好み焼きはナシということで」


「うー……そうでした。でも試験でしたら仕方ないですね」


「大学生でも勉強しないといけないの? 小春、大学は入ったらずっと遊べると思ってたのに」


「小春ちゃんの大学生のイメージって……」


「なんか毎日お酒とか飲んで、ウェイウェイやってる感じ?」


「現実との乖離がひどいと思うよ」


 そう、もうすぐ大学の後期試験が始まる。

 単位を落とさないのはもちろん、少しでもいい成績を取っておきたい。

 就職する時に有利だろうし。


 名残惜しそうに2人はアパートから帰っていった。

 明日菜ちゃんは「またLimeしますね」と寂しそうに笑っていた。


        ◆◆◆


「美味しかったぁ。やっぱキムチチーズって、鉄板だよね」


「たしかに美味しかったね」


 瑛太さんのアパートを出た私と小春は、歩いて家に戻ります。

 お正月明けの東京は、すっごく寒いです。

 コートを着ているのですが、足元がスースーします。

 厚手のストッキングを履いていても、やはりミニスカートは寒いです。


「ていうかさ、お姉ちゃんたち付き合ってんの?」


「えっ? そ、そういうんじゃないよ」


「そうなんだ」


「う、うん。なんだかね……ライバルも多そうだしね」


「そうなの? へぇー、案外瑛太さんタラシなんだねぇ。ああ見えて」


 そうなんだよ、小春。

 それも無意識だから、タチが悪いんだよ。


 最近私たちは、エリも含めて瑛太さんのお友達と遊ぶようになりました。

 クリスマスパーティー、そしてお正月も綾音さんのアパートで鍋をご馳走になりました。

 毎回毎回、とっても楽しいです。

 大学に入ってからも、こんな日々が続いてほしいって思います。


 でも……同時にわかってしまいました。

 綾音さんは瑛太さんに好意を持っています。

 男性として。

 鈍感な私でも、わかるくらいです。


 綾音さんの仕草や視線、照れ隠しの口調から感じ取れます。

 でも瑛太さんは全く気づいてない様子です。

 それはもう……綾音さんが気の毒なくらいです。


 綾音さんは、とっても魅力的な女性です。

 私なんかよりずっと綺麗でずっと巨乳で、とても優しい先輩で大人で巨乳で、カッコよくて巨乳(ry。

 

 私も人として先輩として、綾音さんが大好きです。

 一緒にいてお喋りして、とても楽しいです。

 でも……恋のライバルになっちゃうって考えると、ちょっと凹みます。


 それに元カノさんもいます。

 クリスマスパーティーの前日に会ったって言ってました。

 きっとその人も……。


 考えても仕方ありませんね。

 選ぶのは瑛太さんです。

 それにこうして一緒にお好み焼きを食べさせてもらってます。

 まあ今日は小春も一緒でしたけど。


 でももし瑛太さんが綾音さんを選んだとしたら。

 私は綾音さんに対して普通でいられるでしょうか。

 あるいはもし逆のケースだったら……。

 たくさんの「if」が頭の中を駆け巡ります。


 これから4年間、私の大学生活が始まります。

 そのうち3年間は、皆同じ大学にいるわけです。

 そんな長い期間、気まずい時間を過ごしたくありません。

 私はなかなか、迷路から出口が見いだせずにいます。

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