No.68:鍋パーティー


「お邪魔しまーす」


「うわー、広くて素敵!」


「どうぞどうぞ。むさ苦しいところですが」


「誠治、お前が言うのはおかしい」


 綾音の部屋に入ると、JK2人組が歓声を上げた。

 とは言っても、綾音らしいシンプルな内装の部屋だ。


「皆、おなかすいてる?」


「おう、腹減ったな。結構歩いたし」


「誠治には訊いてない」


「厳しすぎる!」


 確かに往復で40分以上歩いたからな。

 俺も結構空腹だ。


「って言っても、鍋とごはんしか用意してないけどね。エリちゃんのお節に期待しようか」


 そう言って綾音は鍋の準備を始める。

 具材は既に、準備しておいてくれたみたいだ。

 俺たちは運ぶのを手伝う。


 ローテーブルの上に、カセットコンロを準備する。

 その上に土鍋を乗せて、火をつけた。


「さてエリちゃん、重箱をお披露目してもいいかな?」


「はい。誠治さん、お願いします」


 誠治はエリちゃんが持ってきてくれたお重の風呂敷を解いた。

 中から立派なお重が現れる。

 皆が注目する中、誠治は一番上の蓋を開けた。


 全員の口々から、歓声が上がる。

 一番上の段には、数の子、田作り、黒豆、ごぼう、紅白かまぼこ、栗きんとん、伊達巻などが、所狭しと並べられている。

 色どりも盛り付けも、見事だ。

 2番めの段には、海の幸。

 中央には大きな伊勢海老が鎮座している。

 その周りには焼き魚や紅白なますで埋められている。

 3番めの段には蓮根、里芋、人参などの煮付けや、野菜の肉巻きなどが入っていた。


 俺たちはお重が1段ごと開く度に、歓声を上げていた。

 少なくとも俺は、こんなに見事なお節料理を見たことがない。

 俺たち全員、スマホで写真を取っていた。


「お鍋が完全に霞んじゃうわね」 


「そうでもないぞ。さすがに5人でお節だけだと足りないし」


 しかし……見るからに高級そうなお節の重箱だ。

 一体いくらするのかな……。

 そんな下世話なことを、俺は考えてしまった。


 20分もすると、土鍋から湯気が出てきた。

 全員コップにウーロン茶を注いだ。

 土鍋の蓋を開けると、再び歓声が上がる。


「おー鍋も美味そうだ。綾音の寄せ鍋、美味いんだよなぁ」

 誠治の言う通り、確かに綾音の寄せ鍋は美味しい。


「そういえば、寄せ鍋多いかも。前回も確かそうだったよね?」


「どうだったかな……」

 俺は記憶を手繰り寄せる。


「思い出した。その時、なんで綾音に浮いた話がないのかって訊いたんだっけか」


「そうそう。そうだったわね……」

 綾音はちょっと呆れたように言う。


「え? 瑛太さん、そんなこと綾音さんに訊いたんですか?」

 明日菜ちゃんが、ちょっと非難めいた言葉を上げる。


「そーなんだよ、明日菜ちゃん! それで瑛太、なんて言ったと思う?」


「綾音、いいだろ? その話は……」


「性格だ、って」

 俺の制止も虚しく、綾音はそう言葉にした。


「うわあ……」

「それはちょっと……」

「だろだろ?」


 JK二人も誠治もドン引きである。


「だ、だから冗談だって言っただろ?」


「瑛太さん……それは反省が必要な事案だと思います」


「はい、すみませんでした……」


 明日菜ちゃんの指摘に、俺は素直に謝罪した。


 気を取り直して……鍋である。

 綾音が「二杯目からは、各自で勝手に取ってね」と言いながら、全員分を取り分けてくれた。

 俺は炊飯器から、全員分のご飯を茶碗によそった。


 いただきますの声が揃った。

 寄せ鍋を食べながら、お重からお節をつまむ。

 どちらも文句なく美味い。


「体が温まるな」

「うわ、お節の伊達巻うまっ」

「伊勢海老、案外食べるところ少なかったですね」

「綾音さん、この鍋の出汁ってなんですか?」

「ああ、これは手抜きして市販のやつだよ」


 わいわい言いながら、俺たちは鍋とお節を楽しんでした。

 クリスマスの時もそうだったが、新年に仲間とこんな風に鍋を囲んでいる自分がちょっと不思議だった。

 長野から東京へ出てきた時はどんな生活になるのか、俺はちょっと心配していた。

 あの時に自分に聞かせてやりたい。

 お前の大学生活、すっげー楽しくなるぞ。

 しかもこんなに美少女に囲まれてな、と。

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