第二章
No.67:初詣
年が明けて1月3日。
「寒いですね」
「そうだね……特に明日菜ちゃん、スカート短いから」
「うん、スカートが短いのは良いことだ」
「誠治さん、犯罪です」
俺と明日菜ちゃん、誠治とエリちゃんの4人は、夕方JR中野駅北口で綾音を待っていた。
クリスマスパーティーで集まった俺たち5人は、年が明けて初詣に行こうという話になった。
なぜ中野に来たかと言うと、「せっかくだから、夕方からウチで鍋でもしようよ」という綾音の誘いがあったからだ。
「お待たせ」
ロングコートに身を包んだ綾音がやってきた。
首元には、薄茶色に黒と赤のチェックのマフラー。
俺がクリスマスパーティーでプレゼントしたやつだ。
「綾音、明けましておめでとう」
「あけおめ」
「「おめでとうございます」」
俺たちは新年の挨拶もそこそこに、中野通りを北方向に歩き出した。
新井薬師か新井天神北野神社か、どちらかに行く予定だ。
「誠治さん、荷物持ってもらっちゃってすいません」
エリちゃんが恐縮しながら言った。
「全然OK。こんなに大きなお重だったら、さぞかし食べごたえがあるだろうし。今から楽しみだ」
誠治が手にしているのは、エリちゃんが持ってきた3段重ねの重箱だ。
某有名料亭の、お節料理の重箱らしい。
話によると、エリちゃんの叔父にあたる人がわざわざエリちゃんの家に手配をしてくれたらしい。
ところがエリちゃんの家でも、既にお節のお重は手配済みだった。
1セット余ってしまったので、せっかくだから俺たちの集まりに寄贈してくれたということだ。
ありがたい話である。
「そうそう、実はその叔父さんの息子さん、つまり私の従兄弟にあたるんですけど……私と同じ年で同じ高校、来年から明青大に入るんです。機会があったら紹介しますね」
「へーそうなんだね。明日菜ちゃんは、知ってるの?」
「はい、松倉君ですね。クラスは違いますけど、エリの従兄弟ですからよく知ってますよ」
「あと3ヶ月もしたら、オレたちも2年かぁ……早いなぁ。後輩とか、入ってくるんだな」
「その前に試験があるわよ。ウチも勉強しないと、ヤバいかも」
「ゲッ、そうだったな……オレ、後で賽銭はずむわ」
「結局誠治は神頼みなんだな」
そう、3週間後には後期試験がある。
うちの大学はとりあえず2年には上がれる。
だが1・2年の成績が極端に悪いと、3年には上がれない。
まあ普通にやっていれば大丈夫なはずだが……。
わいわいと喋りながら、20分程歩いただろうか。
結局近い方の新井薬師へ俺たちは入っていく。
やはり大勢の参拝客で賑わっていた。
結構な数の露店も出ている。
俺たちは手水舎で手を清めて、本殿への階段を上がる。
賽銭を入れ、二礼二拍手。
俺は手を合わせて祈る。
最後に一礼して、階段を降りた。
「さて、お約束だ。おみくじを引いていこうぜ」
誠治のその一言で、俺たちは寺務所へ行き全員おみくじを引いた。
明日菜ちゃんが大吉。
綾音が吉。
俺とエリちゃんが小吉。
そして誠治が凶。
「凶って! 凶って、どういうこと? 正月早々、こんなの引くか?」
「日頃の行いだな」
「日頃の行いよ」
「納得です」
「お気の毒ですけど……」
ほぼ全員納得の結果となった。
「明日菜ちゃん、大吉だったんだね」
「そうなんですよ、瑛太さん。今年はいい年になりそうです!」
笑顔満面の明日菜ちゃんだった。
それから女性陣は、おみくじの隣で売っていたお守りを見ていた。
ここは可愛いデザインのお守りが売っていることで、ちょっと有名らしい。
よく見ると小さなランドセルの形をしたお守りが売っていた。
色も青や赤やピンクといった、可愛らしいデザイン。
エリちゃんと明日菜ちゃんは、早速買っていた。
俺たちは中野駅に向かって、来た道を戻っていく。
これから綾音のアパートで、鍋パーティーだ。
「瑛太は何お願いしたの?」
「とりあえず試験がなんとかなりますように、ってとこかな」
本当は他にもいろいろお願いしたのだが。
「ふーん……」
「綾音は?」
「内緒」
「なんだそれ」
「私は楽しい大学生活を送れますようにって、お願いしました」
明日菜ちゃんが横から楽しそうに答えてくれた。
「明日菜ちゃんは大丈夫でしょ、おみくじも大吉だったし。まあウチも吉だったから、文句言えないけど」
「おみくじの話をするんじゃねぇ」
誠治がへそを曲げている。
「まあテスト、頑張れよ」
「他人事だな、瑛太! ここは協力体制を敷こうじゃないか」
「相互協力になるんだったら、いいけどな」
「冷たいな! 綾音もそう思うだろ?」
「頑張ってね」
「世知辛い!」
横で明日菜ちゃんとエリちゃんが、ケラケラと笑っている。
俺たち5人は道幅を占領しないように気をつけながら、三角形の形をした大きなビルの前を通り過ぎていった。
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