No.63:ボードゲーム


 そうこうしているうちに、エリちゃんと明日菜ちゃんが戻ってきた。

 明日菜ちゃんが、ボードゲームを抱えている。


「リアル人生ゲーム:最新版」


 そう書かれている。


「人生ゲームか。懐かしいな」

 俺の家にも、たしかあったはずだ。


「なにがリアルなんだろうな?」

 俺と同じ疑問を、誠治も口にする。


「とにかくやってみましょうよ」

 エリちゃんはそう言って、箱を開け始めた。


 順番を決め、ルーレットを回して進めていく。


「じゃあウチの番ね。ルーレットを回してっと。1,2,3,4,5……なになに? 親の痴呆症が進み入院費がかさむ。5千ドル支払うって、たしかに地味にリアルね」


「不倫相手に自分が既婚だったことがバレる。1回休み……って、何ですか、これ」


「就職先がブラック企業で入社2ヶ月でうつ病を患い、治療費8千ドル支払う……オレ、実家継いだほうがいいのか?」


「えーっと俺は……お金持ちの恋人と結婚、玉の輿に乗る。1万ドル受け取る。いいじゃないか」

 俺はコマの助手席にピンク色のピンを刺した。


「これ、いろいろとリアルすぎねーか?」

「本当ですよね。結構笑えないかも」


 誠治とエリちゃんが、またニヤニヤしている。

 まあ所詮はゲームだからな。

 結局リアル人生ゲームは、俺のトップで終了した。


 そろそろケーキタイムにしよう、ということになった。

 飲み物の注文を聞いて、俺と誠治で女性陣の分も取ってくることにした。

 

 誠治と部屋を出て、ドリンクバーへ向かう。


「で、瑛太。昨日はどうだったんだ?」


「昨日? ああ……」


 ドリンクを注ぎながら、誠治が聞いてくる。


「普通に食事しただけだ。国分寺のカレー屋さんで」


「へぇー、そうか。何かプレゼントとか持って行ったのか?」

 誠治は悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。


「ないない。あ、でもヴィチーノのケーキを持っていったぞ」


「おー、どのケーキだ?」


「フルーツタルトとチーズケーキだ」


「いいチョイスだな。元カノさん、喜んだろ?」


「ああ。それでアパートまで送っていったんだけど……ケーキ食べていかないかって話になって」


「なに?!!」


「ちょっ、誠治、声が大きい」


「大きくもなるわ! それで……部屋に上がったのか?」


「ん? ああ、コーヒーとケーキだけご馳走になった。彼女フルーツタルトが好きだったから、喜んでたよ」


「あー、当然瑛太はそのへん知ってるよな……で、いい感じになったと」


「ならないよ」


「えっ? その流れで何もないのか?」


「ないない」


「それは逆に失礼なんじゃないのか? 朝まで帰らなくても不思議じゃないレベルだぞ」


「失礼って……でも本当にケーキ食べて帰ってきただけだ」


「ふーん……でも、元カノさんからなにか言われたんじゃないのか?」


「……」


「うわー、言われたんだな……」


「いや、まあでも俺は友達から始めたいって話はしたぞ」


「はぁー、もう……さらにややこしくなってきた」


「なにがだ?」


「いいんだよ! 戻るぞ」


 若干キレ気味の誠治と一緒に、ドリンクを持って部屋へ戻った。

 


 部屋に入ると、綾音がケーキの準備をしてくれていた。

 JK2人が黄色い声をあげている。


「綾音さん、このケーキ可愛いです!」


「マジでセンス抜群ですよね」


 2人が絶賛するケーキを見てみると、たしかに可愛らしいクリスマスケーキだった。

 生クリームでデコレーションされた上に、イチゴが6つ。

 可愛いサンタのマジパンに、プラスチック製の緑色のもみの木とリースが飾られている。

 雪代わりのアイシングシュガーが、ホワイトクリスマスを演出していた。


「本当はケーキのサイズ、6号でもよかったんだけどね。奮発して7号にしたよ」


 たしかに5人分としたら大きめかもしれないが、俺たちの食欲からすればあっという間になくなってしまうだろう。

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