No.61:チキンでかいね!


「皆来てるかな」


「まだちょっと早いですからね」


 俺たちがカラオケボックスの受付に行くと、やはりまだ誰も来ていなかった。

 誠治は一番大きいパーティールームを予約してくれたようだった。

 受付の人に「皆来るまで待ってます」と言ったのだが、先に中に入って準備してもらってもいいですよ、と言ってくれた。

 優しいお姉さんでよかった。


 二人でルームの中に入る。

 テーブルの中央に、明日菜ちゃんがチキンをカバー付きのまま置いた。

 

「チキン、楽しみだよ」


「はい、楽しみにしてて下さいね」


 ちょうどその時、あとの3人が同時に入ってきた。


「うわー、広いですね」


「だろ? これでも結構探したんだぜ」


「たしかに誠治、こういう会場探し得意だよね」


 3人ともそれぞれ、手には食べ物を持っている。

 俺たちは食べ物のセッティングを始めた。

 綾音のクリスマスケーキは、最後でいいだろう。


 テーブルの上は一瞬にして、豪勢な食卓に変貌した。

 中央にはチキンの丸焼き、その横に大きめのピザが2枚。

 エリちゃんが持ってきたサラダボウルが2つと、俺のクリームシチューが5皿。

 

 特に中央にあるチキンの存在感がハンパない。

 それもかなりの大きさだ。


「いやー、チキンでかいね!」

 誠治が感心する。 


「本当はターキーがよかったんですけどね。大きいのが見つからなかったんです」


「七面鳥の丸焼きとか……俺、食べたことないと思うな」


「そうなんですか? 家はクリスマスはターキーが多いですね」

 

 なんでもないことのように、明日菜ちゃんは言った。

 うーん、所得格差が感じられるな。


「すいません、エリのが一番簡単な食べ物で、なんか申し訳ないです」


「そんなことないでしょ。ウチなんかケーキ屋さんで予約して持ってきただけだから」


「オレのピザも、そうだし」


「俺は一応、シチュー作ってきたぞ」


「炊飯器で、でしょ?」

 綾音のツッコミは厳しかった。


 全員でドリンクバーへ行って、好きな飲物を取ってくる。

 

「それじゃあ始めよう! メリークリスマス!」


 乾杯したあと、誠治が持ってきてくれたクラッカーを全員で鳴らした。

 女性陣は3人とも、サンタ帽をかぶっている。

 美少女3人が、さらに輝いて見えた。


 まずはチキンだ。

 明日菜ちゃんが持ってきた大きめのナイフとフォークで、誠治が取り分ける。

 チキンの中には、炒めた人参と玉ねぎが入っていた。


 紙皿に取ってもらったのを受け取り、一口頬張る。


「うわ、香ばしくて美味い」

 俺は声を漏らした。


「ほんとだ。明日菜ちゃん、これかなり手間がかかってるでしょ?」

 綾音が尋ねる。


「えっと、そうですね……朝からちょっと頑張っちゃいました。って言っても、お腹の中を水洗いしたりとか、表面に塩とスパイスを擦り込んだりとかぐらいです」


「へぇー、スパイスは何を使ってるの?」

 今度は俺が聞いた。


「えーと、黒胡椒とオレガノ、それとチリパウダーも少し使いました」


「本当だ、ちょっとピリッとして美味しい」

 エリちゃんも、気に入ったようだ。


 それにしても、かなりのボリュームだ。

 多分これを片付けたら、ピザとか入らなくなるんじゃなかと思うぐらい。


 それから概ね俺のシチューも好評だった。


「炊飯器で作れちゃうんですね。凄いです」


「いや凄くはないけど……俺の中では、炊飯器は立派な調理器具だよ」


「でもお米が炊けなくなるじゃない」


「米は週1か週2でまとめて炊いて、小分けして冷凍だ。これは基本だぞ」


「なんか瑛太、主婦みたいだな。うちの嫁に来い。酒屋を手伝わしてやる」


「ふざけんな」


「ところで……綾音さんは、料理されるんですか?」


「明日菜ちゃん、それ聞いちゃいけないヤツ」

 誠治が茶々を入れる。


「えっ?」


「ちょっと、なんでよ。ウチ、普通に料理するよ。この間、鍋食べに来たでしょ?」


「でも綾音、外食のほうが圧倒的に多いだろ?」


「ゔっ……否定できない」


「まあ綾音の場合、金銭的な心配がないからな」

 俺もツッコんだ。

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