No.60:パーティー当日


 翌日22日は、夕方からクリスマスパーティーだ。

 朝からバタバタと忙しい始まりとなった。


 まず西荻窪の100均へ行き、買い出しをしてきた。

 メラミン製のスープ皿を5枚。

 紙皿やプラスチックのカトラリーも、一応買っておいた。


 簡単に部屋の掃除と洗濯をした後、料理に取りかかる。

 鶏もも肉を軽く炒め、大きめに切った根菜類と一緒に炊飯器の中へ入れる。

 そして水を入れて、スイッチポン。

 最後の10分で炊飯器の蓋を開け、クリームシチューのルーを溶かし牛乳を加える。

 後はそのまま放置するだけ。

 夕方には味が染みて、美味しいシチューになっているはずだ。


 午後の4時前、俺のスマホが振動した。

 Limeのメッセージ。


 明日菜:こんにちは。荷物が重いので、夕方お母さんの車で吉祥寺まで送ってもらう予定です。よかったら一緒に行きませんか? 車でそちらに寄るようにします。


「これは助かるな」


 実際シチューを入れた炊飯器を、吉祥寺までどうやって持っていこうか考えていたところだ。

 ここはお言葉に甘えることにする。


 瑛太:いいのかな? とても助かります。それじゃあ行くときに、アパートに寄ってもらえるかな?


 明日菜:わかりました。家を出るときに、またLimeしますね。


 俺はシャワーを浴びて、身支度をする。

 そうこうしているうちにいい時間になった。

 明日菜ちゃんからLimeが来た。

 俺は外に出て、待つことにした。


 しばらくすると、アパートの前で車が止まった。

 右ハンドルのシルバーの欧州車。

 SUVタイプで、見るからに高級車だ。


 後部座席のドアが開いて、明日菜ちゃんが降りてきた。


「お待たせしました、瑛太さん」


「ありがとう。助かったよ」 


 明日菜ちゃんは先に後部座席に乗り込み、俺はその隣に座った。


「晴香さん、ありがとうございます。荷物が重いので、助かりました」


「いいのよ、ついでだし」


 車はスムーズに走り出した。

 音も振動も静かだ。

 実家の国産車とは、えらく違う。


「今はカラオケボックスで、食べ物持ち込みとかできるんだね。知らなかったわ」


「そうみたいですね。俺もやったことなかったんですけど」


「そうそう、それから帰りなんだけど……明日菜には車で迎えに行くからって言ったんだけどね」


「ちょっと、お母さん」

 明日菜ちゃんが、話に割り込んでくる。


「明日菜が『瑛太さんに送ってもらうから、いい』って言うのよ。悪いんだけど、頼んじゃっていいかな?」

 晴香さんは、かまわず話を続けた。


「あ、はい。もちろんです。ちゃんとお送りします」


「すいません、お願いします……」

 うつむき加減の明日菜ちゃんは、恥ずかしそうにそう言った。


 白のタイトセーターに、赤のチェックのミニスカート。

 今日は黒のストッキングを履いている。

 そしてチキンらしき荷物を、膝の上に乗せている。

 見たところ、かなりの大きさだ。

 俺も同様に、炊飯器が入ったスポーツバッグを膝の上に乗せている。


「チキンは自分で焼いたの?」


「はい! 朝から頑張っちゃいました」


「時間かかったんじゃないの?」


「そうですね……大きいので、中まで火を通すのに時間がかかりました」


「それは楽しみだ」


「瑛太さんのは、何シチューですか?」


「クリームシチューだよ。ああでも、よく考えたら鶏肉でかぶっちゃうな」


「いいじゃないですか。クリスマスですし、今日は鶏づくしです」


 5分ほど走ると、目的地のカラオケボックスに着いた。

 

「ありがとうございました」


「はーい。じゃあ楽しんでね」


 俺はお礼を言うと、晴香さんは運転席から片手を上げて送り出してくれた。

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