No.54:役割分担


「いつも差し入れ、ありがとうね。最近毎朝いただいてるよ。おかげでこのところ、食パンとか全然買わなくなったよ」


 今日の明日菜ちゃんの差し入れは、スコーンだった。

 来るたびに、スコーンやマフィン、手作り食パンを持ってきてくれる。


「よかったです。家のオーブン大きいんで、一度にたくさん焼けますから」


「あのアイランドキッチンの下にある、ビルトインのやつだね」


「はい。あ、21日もあれでチキンを丸ごと焼いて、持っていきますからね」


「おー、それは豪勢だな」


 持ち込みの物も、大体役割分担をした。

 明日菜ちゃんがチキン。

 綾音がクリスマスケーキ。

 誠治がピザ。

 エリちゃんがサラダ系。

 俺がシチュー・スープ系だ。


「瑛太さんだけ、持っていくの大変そうですね」


「ちょっと重いよね。でも炊飯器で作ってそれごと持っていこうと思ってる」


「なるほど、いいアイディアですね」


 あとはスープ皿が必要だな。

 まあ百均で買ってこよう。

 それと紙皿は、各自持参っていうことにしてある。


「ところで最近コンビニのバイト、どう?」


「えっ? まあ、順調ですよ」


「変に絡んでくる客とかいない?」


「ああ、それは大丈夫ですね。ただ……」


「ただ?」


「え? あ、まあ、手紙とか渡されたりしてます」


「ああ……例えばLimeのIDとか書いてあるやつ?」


「そうですそうです。どうせ捨てちゃうんですけどね」


「まあそうだろうね」


「実はコンビニのバイトも、そろそろやめようかなって思ってるんですよ。できればカフェみたいなところでバイトしてみたいなって思ってます」


「ああ、いいんじゃないかな」


「ヴィチーノとか、どうですかね?」


「あそこはとりあえず高校生は雇ってもらえないよ。だから大学に入ってからだね」


「そうなんですね。残念です」


「詩織さんに聞いてみようか? ひょとしたら春休みから働かせてもらえるかもしれないし。って言っても、詩織さん自身、卒業だけどね」


「あ、そうだったんですね」


「うん。大手商社に就職が決まってるんだ」


 そうなると、明日菜ちゃんと同じバイト先になるのかな。

 それはそれで楽しそうだけど、きっとお客さんの間でも人気の店員さんになるだろうな。


「あとお母さんから、そんなにバイトしたかったら時給払うから、家の仕事手伝ったらって言われてます」


「ああ、その方がいいんじゃない? どんな仕事なの?」


「まあ伝票や領収書の整理ですね。まとめて計算して、パソコンに入力する、みたいな感じです」


「へぇー。それって普通に一般の会社の経理みたいな仕事だね。そっちの方が、いいんじゃない?」


 なによりご両親は安心だろう。


「はい。ただ元々バイトを始めたきっかけというのが、社会勉強をしたかったからなんですね。だからそういう意味では、ちょっと違うのかなって」


「ああそっか。なるほどね」


「まあでも、ちょっと考えてみます」


「そうだね。時間もあるし」


 それから俺たちはまた、クリスマスパーティーについて話し始めた。

 話題は尽きなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る