No.48:小春も行きたいって……


「うー、寒ぃ……」


 バイトの帰り、俺は吉祥寺からアパートまで歩く。

 寒いので、早足で歩けば体も温まる。

 ちょうどアパートに着いてドアを閉めた時、ポケットのスマホが震えた。


 明日菜:お仕事お疲れさまでした。アパートに戻られましたら、教えて下さい。できれば音声通話をしたいのですが、いいですか?


 なんだろう、と思いながら「今戻ったよ」とメッセージを返す。

 すぐに長いバイブレーション。


「もしもし」


「あ、瑛太さん、こんばんは。今大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だよ」

 俺はキッチンの椅子に座る。


「また日曜日のお昼にお邪魔したいのですが、いいでしょうか?」


「ああ、全然問題ないよ」


 ここのところ、日曜日のお昼は明日菜ちゃんとお好み焼きタイムが定着しつつある。


「それでですね……ちょっとお願いがありまして」


「なんだろう?」


「はい、実は……小春も行きたいってゴネてまして……」


「あー」

 俺は苦笑する。


「本当は連れて行きたくないんですけど……でもとりあえず1度連れていけば、しばらくはいいと思うんです。ご迷惑でしょうか?」


「全然そんなことないよ。一緒に来るといいよ。皆でお好み焼き食べたほうが、美味しいし」


「すいません……」


「ついでにお母さんにも声をかけたら?」


「やめて下さい……声をかけたら、本当に行きかねません」


「ははは」

 私も行く、って言ってる晴香さんを想像すると笑えてきてしまった。


「ちゃんとご迷惑をおかけしないように、言い聞かせますので」


「大丈夫でしょ。小学生でもないんだから」


「中身は小学生と変わらないですよ」


「お姉ちゃん、厳しいね」


「甘やかしては、いけません」


 俺はまた笑ってしまった。

 要件はそれだけだったが、それからまた15分ぐらい話をした。

 今日学校や家であったことを、屈託なく話してくれる。

 そんな明日菜ちゃんとの会話を、俺は楽しんでいた。


        ◆◆◆


「こんにちはー」

「お邪魔します」


 安アパートに似つかわしくない、可愛らしい声が2つ響いた。

 日曜日のお昼時間、明日菜ちゃんと小春ちゃんの姉妹はやってきた。


「どうぞ、入って」


 二人は玄関から、中へ入ってきた。


「へぇー、こんな風になっているんだ」

 小春ちゃんは興味津々のようだ。


「瑛太さん、これ明日の朝にでも食べてください」

 明日菜ちゃんは、ビニール袋を俺に差し出した。

 中を見てみると、食パンが一斤入っていた。


「これ、もしかして手作り?」


「はい。ていうか、ブレッドメーカーで作ったやつですけど」


「へぇー、こんなに綺麗にできるんだね」


「それめっちゃ簡単ですよ。材料入れてスイッチポンで終わりです」


「もー小春。確かにそうなんですけどね」


「早速明日の朝いただくよ。楽しみだ」


 俺はキッチンで、お好み焼きの用意をする。

 ふと小春ちゃんを見ると、ロフトの方を見上げている。

 予想通り、興味津々のようだ。


「小春ちゃん、よかったらロフト登ってもいいよ」


「えー、いいんですか?」

 小春ちゃんが目を輝かせる。


「ちょっと小春! 瑛太さん、本当にいいんですか?」


 俺は小春ちゃんが来ると聞いて、絶対にロフトに興味を持つと確信していた。

 なのでロフトの上は、しっかりと掃除しておいた。

 ついでにトイレも念入りに掃除した。


「明日菜ちゃんも、一緒に登って見ておいでよ。あ、パジャマが掛け布団の下にあるから、それは出さないでね」


「えっ? は、はい……私もいいんですか?」


「もちろんいいよ。って言っても、なんにもないけどね」


「はい。じゃあ、私も登らせてもらいますね」


「あ、ちょっと待った! その……2人ともスカートだろ? だから登るときと降りる時、俺は向こう側を向くから」


「え? あ、そ、そうですね。なんかすいません……」


 今日の明日菜ちゃんは、チェックのミニスカートにピンクのセーター。

 小春ちゃんは、ブルー系のロングワンピースだ。

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