No.47:綾音はどうなんだ?


「元カノさんとは、その後どうなの?」

 今度は綾音から。


「ああ、特に何もないよ。あれから会ってないし。ただLimeは結構くるかな」


「そうなんだ」


「まあ高校の時の共通の友達がどうしてるとか、そんな感じ。あと彼女のアパート、古いらしくてな。よくGが出るらしい。あと排水管もよく詰まるって言ってた」


「うわー、それ無理! Gとか出たら、ウチもう寝られない!」


「北海道って、やっぱり寒いから出ないのか?」


「出ないことはないけど、飲食店ぐらいだよ。一般家庭には、ほとんど出ないと思う」


「そうなんだな。オレん家、普通に出るぞ。まあスプレーして新聞に包んでポイだけど」


「イヤー! 絶対ムリ!」


「まあここは綺麗だから、出ないだろうけどな」

 俺は綺麗なフローリングを見ながら、そう言った。


「俺たちの話ばかりじゃなくて、そういう綾音はどうなんだ?」


「えっ?」「おっ?」


 綾音だけじゃなく、なぜか誠治も反応した。


「考えてみれば、綾音あれだけ人気あるのに、浮いた話が無いな」

 

 俺は以前から不思議で仕方なかった。

 これだけ美人で、スタイルだっていい。

 俺はよく綾音と一緒にいるけど、男の視線を感じることもしばしばだ。


「なんで無いと思う?」

 綾音が質問を質問で返してきた。


「性格?」


 即答した俺の顔面に、鍋つかみが飛んできた。


「いてっ……冗談。冗談に決まってるだろ?」


「マジ最悪……」


「今のは瑛太が悪いな」


「ごめんごめん」


 それから綾音の機嫌が直るまで、数分を要した。


        ◆◆◆


 翌日、昼休みの学食。


「ていうか、なんでオレを鍋に呼んだんだよ」

 

 ウチの向かい座った誠治が聞いてくる。

 瑛太はちょっと遅れて来るらしい。


「だってぇ……」


「綾音がヘタレてどうすんだよ? 綾音のアパートで二人っきりで鍋やって、その胸にぶら下がってる武器を使うトコだろ?」


「誠治、本当にそのネタ好きだね」


「嫌いな男はいない」


 清々しいほどに残念なヤツ。


 自分でも分かってる。

 瑛太は鈍感だから、伝えるならきちんと伝えないと。

 でも二人っきりで鍋やって、もし気まずい思いをしたら。

 もう鍋どころじゃないでしょ?

 翌日学校で、どうやって顔を合わせたらいいの?


「やっぱりもう少し、時間をかけることにする」


「……まあ綾音がそれでいいんだったら、いいけどな」


「明日菜ちゃんの方も、あんまり進展ないみたいだしさ」


「まあ、そうだよな。瑛太も辛抱強いと言うかなんというか……」


「そこがいいとこじゃん」


「そうだけど……」


「それより意外だった」


「なにが?」


「誠治、エリちゃんって子と進展ナシなんだね」


「ん? ああ、そのことか」


「もうとっくに手つけて、ヤッちゃったかと思ったよ」


「お前、オレをなんだと思ってんの?」


「野獣?」


「容赦ねえ」


「何の話だ?」


 誠治と軽口を交わしている間に、瑛太が来た。


「誠治が野獣だって話」


「ちげーだろ!」


「いや、違わないな」


「なんでだよ!」


 やっぱり思うんだ。

 ウチはこんなやり取りが、どうしようもなく楽しい。

 確かに瑛太ともっと仲良くなりたい。

 でもこんな日常が崩れるかもしれないなんて、そんなこと本当に考えたくないんだよ……。

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