No.46:寄せ鍋


 12月に入ると、さすがに寒くなってきた。

 それでも長野のことを思えば、比べものにならないのだが。


 綾音がテーブルの真ん中にある、鍋の蓋を開けた。

 鍋から湯気がモワっと立ち込める。


「おー、美味そうだ」

 隣で誠治が喉をならす。


 寒くなってきたから、ウチで鍋でもしよう。

 突然そう言い出したのは、綾音だった。

 バイトのない日の夜に予定を合わせ、綾音のマンションに集まった。


 白身魚、鶏、えび、豆腐、白菜、春菊、人参、えのき……。

 とにかく寄せ鍋の具材だ。

 それに白飯もあるから、もうそれで立派なご馳走だ。


「今年、結構寒くなるの早くない?」

 誠治は豆腐を頬張りながら、聞いた。


「そうか? 東京の寒さがどれぐらいかわからんけど……こんなもんなのか?」


「そうそう。北海道、こんなもんじゃないから」


「うわっ、そういやあ2人とも雪国出身だった」


 綾音は北海道だから、やっぱり俺より寒さには強いんだろうか。


「別に北海道だからって、寒さに強い訳じゃないからね。普通に寒いものは寒いよ」


「まあ確かにそうだな」

 綾音の意見に、俺も同意する。

 雪国育ちが全員、スキーやスノボが上手いわけじゃない。


「それにしても、綾音の部屋広いよな」

 俺はフローリングの広い部屋を、改めて見渡した。


 45平米前後あるらしい。

 しかも中野駅から、徒歩2分。

 もし賃貸だったら、いったいどれくらいの家賃になるんだろう。


「ベッドも広いしな。男連れ込み放題じゃん」


「誠治、帰りたいの?」


「すいませんでした」

 


 鍋の具材がなくなったところで、最後にシメの雑炊を作る。

 これが出汁が効いてて、最高にウマいヤツだ。


「で、どうなの?」

 誠治が俺に聞いてくる。


「なにが?」


「まあいろいろだな、瑛太の場合」

 誠治が変なニヤけ方をする。


「明日菜ちゃんの自宅にメシ食いに行くぐらいだから、そうとう仲良くなったんだろ?」


「べつにそういうわけでもないぞ」


 あれから明日菜ちゃんとは、以前とそれほど変わらずだ。

 ただLimeの頻度は少し高くなったくらい。


「いいねぇ……パエリアとかご馳走になっちゃてさ」 

 綾音が意味ありげに言う。 


 明日菜ちゃんの家でパエリアをご馳走になったと学食で話をしたところ、その翌日に綾音が「じゃあウチで鍋をやろう」と言い出した。


「ああ、なんていうかセレブのお宅だったな。ご両親も明青OBとOGのカップルだから、親近感を持ってくれてるみたいだ」


「なるほどな。貿易会社経営とか言ってたもんな」

 ため息をついている綾音の横で、誠治が話を拾う。


「そういう誠治はどうなんだ?」


「ん? オレ?」


「そう、エリちゃんと」


「ああ、まあ普通。普通に連絡取るし、この間ファミレスで飯食ったぐらい」


「そうなのか?」


「ああ、特に進展なし。まあ友達だな、友達」


 誠治は勝手に話を締めてしまった。

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