No.44:デリケートな話


「そうだ、お母さん。来年の夏休みなんだけどね、瑛太さんのご実家に皆で遊びに行こうって話をしているの。いいでしょ?」


「別にいいけど、大人数で押しかけて瑛太君のご実家がご迷惑じゃないかしら」


「いえ、家は古い家なんですけど、部屋は3部屋ぐらい空いてますから。避暑代わりに皆で来てもられえば、両親も喜ぶと思います」


「えーっ! じゃあ小春も行きたい!」


「もちろん来てもらって構わないけど、小春ちゃんだけ高1ってことになっちゃうけど、いいかな?」


「えーと……じゃあお友達も誘っていいですか?」


「ちょっと小春」

 明日菜ちゃんが止めに入った。


「もちろんいいよ。お友達と一緒に来るといいよ」


「本当ですか! ありがとうございます」


「もう小春ったら……ごめんね、瑛太君。ダメなものはダメって言ってくれていいからね。それに週末のお昼に、明日菜もなにかご馳走になってるみたいで……ご迷惑じゃない?」


 晴香さんが、デリケートな話を出してきた。

 さて、どう話したものか……。


「いえ、もともと週一ぐらいで余った食材を適当に混ぜて、お好み焼きを作っていたんです。冷蔵庫の掃除も兼ねてなんですけど……それで明日菜ちゃんに一緒に食べてもらっているので、助かってるのは俺のほうなんです。それにいつも差し入れを持ってきてもらってますし」


 でも多分晴香さんが聞きたいのは、このあとの部分だろう。


「それにお昼間に来てもらった方が……その、俺も一人暮らしですし……夜だと帰りも心配ですから。あっ、もちろんそんな時は送って行きますけど」


 こんな感じで伝わっただろうか。


「それに寝るところは、ロフトだったしね」

 明日菜ちゃんは、晴香さんにイタズラっぽい笑顔を向けた。


「も、もう! 今言うことじゃないでしょ」

 晴香さんが何故か焦っている。


「ねえ、この間もロフトの話、してたよね? それって何か意味あるの?」

 小春ちゃんの頭の上に、クエスチョンマークが出現していた。


         ◆◆◆


「お邪魔しました」


 俺は玄関で、晴香さんと小春ちゃんに挨拶をした。


「またご飯でも食べに来てね。主人も大学のお話を聞きたいと思うわ」

「瑛太さん、また来てくださいね」


 とてもフランクな一家だった。

 今度来るときは、もっと野菜とか持ってこよう。

 実家のお袋に頼まないとな。


「ありがとう、明日菜ちゃん。すっごく楽しかったよ」


 玄関を出て門の外まで見送りに来てくれた明日菜ちゃんに、そう伝えた。


「私も楽しかったです。でも……あっという間に、時間が経っちゃいました」


「本当だね」


「もう帰っちゃうんですね」


「ん? ああ、バイトもあるしね」


「寂しいです」


 シュンとした表情でうつむいた明日菜ちゃんを、俺は見つめていた。

 相変わらずの不意打ちだ。

 そんなこと言われたら……帰れないじゃないか。


「またLimeするよ」


「え? 絶対ですよ」


「ああ」


「いっつも私が送らないと、瑛太さんからLimeしてくれないじゃないですか」


 美少女が口を尖らしている。


「そうだっけ?」


「そうですよ」


「わかった。連絡するから」


「はい。あ、ごはんの時、写真を撮って送ってくれてもいいですよ。私みたいに」


「そうだね。そうするよ」


「その……やっぱりたまにで、いいです。なんか……ごめんなさい……押しつけちゃ、ダメですよね」

 急にしおらしくなった。


「ああ、まあ写真を送れそうなものが作れた時は、そうするよ。大体はそんなにいいものを食べてないけどね」


「それはそれで、心配です」


「大丈夫だよ。それじゃあ、行くね」


「はい、気をつけて帰って下さいね」


 俺は美少女に背中を向け、南野宅を後にした。

 曲がり角で振り返ると、明日菜ちゃんが小さく手を振ってくれた。

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