No.43:うわっ、美味しいです!


 そうこうしているうちに、料理の方が出来上がったようだ。

 俺は座ったままだったが、明日菜ちゃんも小春ちゃんも料理を運ぶの手伝っている。

 俺も手伝おうとしたが、明日菜ちゃんに止められてしまった。


 テーブルの上にはハンバーグと付け合わせのサラダが乗ったお皿が4枚。

 そして晴香さんがオーブンの中から大きなパエリアを出してきた。

 それを運んでテーブルの中央にのせる。

 

 パエリアの存在感がハンパなかった。

 サフランライスの上に、エビ、イカ、殻付きのアサリ、それとカニカマが乗っかっている。

 見た目も鮮やかで、とても美味しそうだ。


「普通はフライパンを火にかけるだけなんだけど、私は仕上げにオーブンを使うのが好きなのね。表面が香ばしくなるのよ」


「料理研究家みたいですね」

 俺は口にした。


「お料理は好きかな。やっぱり美味しいもの、食べたいじゃない?」


 なんとなく、セレブの食卓を垣間見た気がした。


 明日菜ちゃんが4人分のお茶を用意してくれた。

 全員席について、いただきますと言って食べ始める。


 取り分けてもらったパエリアを、スプーンで口に運んだ。


「うわっ、美味しいです!」

 俺は思わず、そう口にしていた。


 サフランライスがとにかく美味い。

 海鮮エキスをしっかり含んで、風味豊かなのだ。

 そしてオーブン効果なんだろう。

 エビやイカの香ばしさが鼻から抜けていく。

 まさに一流店の味だ。


「そうそう、お米から作らないと、こういう味は出ないんだよね」

 晴香さんは笑顔でそう言った。

 笑うとますます小春ちゃんとそっくりだ。


「瑛太君のご実家って、長野のどのあたり?」


「一応長野市内なんですけど、長野駅から車で30分ぐらいかかりますね。かなり田舎です。夏は涼しくていいんですけど、冬は雪で結構大変です」


「あー、夏は避暑にいいよね。東京の夏は、もう暑くって」


「俺もそう思いました。アパートもエアコンが無かったら、死にそうです」

 実際、熱中症で亡くなる老人も結構いると聞く。


 俺は話をしながら、ハンバーグも堪能していた。

 このハンバーグが、また絶品だ。

 ナイフを入れた瞬間、肉汁がジュワッーと溢れ出てくる。

 晴香さんにどうやって作るのか聞いたところ、タネにお麩を混ぜるのがポイントだそうだ。

 お麩にそんな使い方があるなんて、知らなかった。

 今度試してみよう。


「そうそう瑛太君、言い忘れてたけど、明日菜がなんだかいろいろと助けてもらったみたいで、ありがとう」


「あ、いえいえ。コンビニの時はさすがに俺も我慢ならなくて、しゃしゃり出てしまったんです。でも2回目は、本当に偶然でした」


「もうお姉ちゃん、『これは運命なの!』とか言って、目をキラキラさせちゃってたんですよ!」


「小春!」

 赤面の明日菜ちゃんが、文句を言う。


「吉祥寺駅の時は、俺もびっくりしたよ。まさか同じ女の子が現われるとは思わなかったからね」


「あの時、あの男の人たち本当にしつこくて。で、ちょっと周りを見たら瑛太さんがいて、『えー! なんでー?』って、びっくりしちゃいました」


「たしかにお姉ちゃんとエリちゃんの2人だったら、まあ素通りする男の人の方が少ないかもね」

 小春ちゃんの大人びた意見に、俺も賛同だ。

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