No.30:で、どうすんだ?


「送らなくて、大丈夫か?」


「うん、平気。この時間だったら乗り換えも順調だし、30分ぐらいで家に着くよ」


「そうか」


 ひとしきり涙を流した後に顔を上げた美桜は、スッキリした表情だった。

 そして「瑛太君、またわたしとお友達になって。Lime送ってもいい?」と言ってきた。

 1年前は俺もツラくて、美桜と友達に戻れなかった。

 でも今なら大丈夫だ。

 その時にできなかったことを、また始めればいい。

 お互いのLime IDは変わっていなかった。

 連絡を取り合うことを約束した。


「今度さ、国分寺に来てよ。中央線で15分だし。美味しいお好み焼き屋さんがあるんだ」


「お好み焼き……」


 一瞬俺の脳裏に、日曜日の光景が浮かんだ。


『んー! おいひいれふ』


 天使のような笑顔で、お好み焼きを頬張る。

 さらさらの髪に、綺麗な二重まぶた。

 アイドル顔負けの、清楚系美少女。

 からかうと頬を染めて、下を向いてしまった……。


「……お好み焼きじゃなくても、いいんじゃないか」


「えっ? 瑛太君、好きだったよね? お好み焼き」

 

 覚えてたのか。


「別にお好み焼きじゃなくてもいいよ。美味しいカレー屋さんとかもあるし。また一緒にごはん、食べに行こうよ」


「ああ、そうだな。そうしよう」


 吉祥寺の改札口で、俺は美桜を見送った。


        ◆◆◆


「ちょ、ちょっと待って! なんでまたそんな展開になってんの!?」


 俺の目の前で綾音は立ち上がり、大声でそう言った。


 デジャブだ。

 これ、前にもあったよな?


 お昼時の学食。

 綾音は、周りの学生の注目を一身に浴びている。


「落ち着けって、綾音。そんなに興奮することじゃないだろ?」


「もう元カノとか……なんでそんなに、いろいろ拾ってくるかな……」

 綾音は何か呟きながら、少し暗い顔でその場に座る。


 俺たちはいつものように3人で学食に集まり、昼食をとっていた。

 誠治が「あの後、どうした?」と聞いてきた。

 どうやら誠治は、俺が「お持ち帰り」したと思っていたらしい。


 俺はあれからの出来事を、2人に正直に話した。

 そして美桜とまた、友達になったことも話した。


 話をしている間、誠治はずっと仏頂面だった。


「瑛太は本当にそれでよかったのか?」


「どういう意味だ?」


「だって瑛太、あんなにツラい思いしてたろ? いまさら友達とか……オレじゃ耐えらんねーわ」


「ああ……前にも言ったけど、俺がツラかったのは彼女が悪かったからじゃないんだよ。俺だって友達に戻れるものなら戻りたかったしな。だからこれでよかったんだ」


「あーもう……まあ瑛太はそういうヤツだったよな」


 誠治と綾音は、2人同時に小さなため息を吐いた。


「で、どうすんだ?」

 誠治が聞いてくる。


「どうするって?」


「その美桜ちゃんが、ヨリを戻したいって言ってきたらどうする?」


「いや、それはないだろ」


「いやでもな、いまさら友達になりたいっていうのは、そういうことを含んでいるような気がするぞ」


「そうなのか? 考えてもみなかったぞ。でも……まあその時はその時に考えるしかないんじゃないか?」


「そうか……」

 誠治の不満そうな表情が気になる。


「そうだよね……人の気持ちなんてさ、制御できないもん」

 綾音が呟いた。


「どうだろ。まあ先のことはわからないよ……」

 俺はそう言うのが、精一杯だった。

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