No.28:本当に、本当に会えた
わたしは自分の目を疑った。
本当に、本当に会えた。
自分の斜め前の席。
遅れてやって来た瑛太君が座っている。
友達に、合コンのドタキャンが出たからどうしても来てほしいと頼まれた。
合コンというものに出たことがなかったわたしは、当然断ろうとした。
だけど合コンの相手が明青大で、幹事の男の子が法学部ということを聞いた。
ひょっとして、瑛太君のことを知ってる人がいるかも……。
そんな期待がわいた。
吉祥寺なら国分寺から場所的にも近い。
わたしは合コンに参加することにした。
瑛太君は、わたしの初カレだ。
高2になって、わたしたちは同じクラスになった。
席が隣同士になったこともあって、よくしゃべるようになった。
決してイケメンではないけど、彼の優しい笑顔が素敵だった。
いつも細かいところに気がついてくれて、でも前面に出してこない。
そんな心遣いができる彼を、わたしも好きになった。
高2の秋、修学旅行が終わった後、瑛太君はわたしに告白してくれた。
わたしは即OKした。
「どうせなら、修学旅行前に言ってくれたら、一緒に回れたのに」
わたしはそう聞くと、
「そんなの、いかにも、って感じだろ? 修学旅行のために好きになったんじゃないよ。その前から、とっくに好きだったから……」
顔を真っ赤にして、そう言ってくれた。
本当に嬉しかった。
わたし達はイベントを重ねた。
クリスマス。
ファーストキス。
初詣。
バレンタインデー。
毎日のように学校から一緒に帰って、毎週末のようにデートを重ねた。
でも……3年生になる前の春休み。
楽しいはずの瑛太君との毎日に、わたしは違和感を持ち始めた。
瑛太君は、わたしにキス以上は求めなかった。
それがわたしに、ある種の「退屈さ」を感じさせていたのかもしれない。
おまけに受験もある。
わたし自身、心に余裕もなくなっていた。
「友達に戻った方がいいのかな……」
特に理由はなかった。
でも気がつくと、わたしは彼の前でそんな言葉を口にしていた。
そのときの瑛太君の表情を、わたしは忘れることができない。
多分一生忘れられないだろう。
瑛太君は驚きで目を大きく広げたあと、唇をかみしめて下を向いてしまった。
みるみるうちに、目に涙が溜まっていくのがわかった。
わたしは焦った。
「ち、ちがうの。嫌いになったわけじゃないんだよ。でも、ほら、2人とも受験もあるでしょう?」
わたしは理由にならない理由を口にしていた。
「わかった。努力してみるよ。でも難しいかも。俺、美桜のこと、本当に好きだったから」
そう言うと、瑛太君はわたしの前から立ち去ってしまった。
一人取り残されたわたしは、そこでようやく気づいた。
言葉を間違えた。
選択肢を間違えたと。
3年生になり、わたしたちは別々のクラスになった。
わたしは瑛太君に避けられるようになった。
Limeのメッセージもほとんどが既読無視になって、そのうちに既読すらつかなくなった。
電話をかけても、出てくれなくなった。
「どうして……」
こんなはずじゃなかった。
勝手なのは分かっている。
わたしが悪いのも、分かっている。
でも隣に瑛太君がいない。
あのクシャッとした優しい笑顔を見られない。
彼のさりげない優しさを、感じることができない。
「瑛太君……」
わたしは瑛太君を、それほどまでに深く傷つけてしまった。
それと同時に、わかってしまった。
わたしは瑛太君が確かに好きだったんだ。
本当は、離れたくなかったんだ。
寂しさと後悔の念に、わたしは押しつぶされそうだった。
涙を止めることができなかった。
でも全てが遅かった。
なんとか友達に戻れる機会はないだろうか。
そんな望みも、受験勉強の中でかき消されてしまった。
結局そのまま、わたしたちは卒業を迎えた。
瑛太君が明青大の法学部に進学したことは知っていた。
わたしも結局、都内の須田塾女子大へ進学。
いつかまたどこかで会える機会を待つことしか、わたしにはできなかった。
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