No.27:居酒屋にて


 俺は店員さんに、ウーロン茶を注文した。

 飲み物が来る間、一応挨拶しないとな。


「遅れてすいませんでした。えーと……仲代といいます。よろしくお願いします」


「瑛太、女性陣だけど、こちらから広瀬さん、有村さん、徳永さん、石原さんだ。全員須田塾の1年生。オレたちとタメ」


「……」


 俺は誠治の説明を聞いちゃいなかった。

 全く耳に入らなかった。

 時が止まったようだった。


 俺の正面の女子の隣りの子。

 つまり右から二人目の女子。


 ブラウンのゆるふわなウェーブヘア。

 綺麗な二重で、少しだけタレ目で愛嬌のあるアイライン。

 整った鼻梁と、ぷるんとした艶っぽい唇。

 やさしさと癒やしを全面に感じさせる、その表情。


 薄くメイクが施されていた。

 でもその地顔は、あの頃と全然変わらない。


 その彼女は俺と目が合った瞬間、目を大きく見開いて両手で口を抑えた。


「瑛太君…」


美桜みお…」


 俺の斜め前の席には、徳永美桜とくながみお

 高校の時の元カノが座っていた。


        ◆◆◆


 なんてこった……

 俺は心のなかで呟いた。

 こんな偶然ってあるのか?


 俺以外の皆は、飲み食いしながら楽しそうに歓談している。

 俺は適当に相槌を打っていたが、話の内容は全然入ってこなかった。


 俺は美桜からの視線を時折感じた。

 ただ反応することはしなかった。

 いや、どう反応すればいいかわからなかった。


 美桜、須田塾へ行ったんだな。

 結局地元の国公立じゃなかったんだ。

 全然知らなかった。

 確かに英語は得意だったけど。


 俺はなんとなく、その場に居づらかった。

 トイレに行く回数が多くなった。


「瑛太、あの子と知り合いなのか?」


 トイレの前で、誠治が話しかけてきた。

 おそらく気を使って、追っかけてきてくれたんだろう。

 コイツのこういう所……本当にイケメンだな。


「ん? ああ。高校の時のな」


「例の元カノか?」


 こういう時の誠治は、変に鋭い。

 俺の高校の時の元カノの話を、誠治は知っている。

 無言を肯定と受け取った誠治は、「マジか!」と驚いた後、ハァーっと大きくため息をついた。


「なんつー偶然だよ。こんなことがあるのか?」


「俺も驚いてるよ」


「須田塾に行ったってことは?」


「知らなかった」


「だよなー」


 誠治は腕組みをしながら、運命のいたずらを嘆いていた。


「文句の一つでも、言ってやったらどうだ?」


「文句?」


「つらい思い、したんだろーが?」


「それは俺が勝手に思っただけのことだ。彼女は悪くない」


「瑛太! お前、本当にどこまで人がいいんだよ!」

 なぜか誠治が怒っている。


「どうしたんだ? 誠治が怒ることじゃないだろ」

 そのおかげか、俺は逆に冷静になれた。


「まあ時間もあとちょっとだ。なんとかやり過ごすよ。他の連中にも、迷惑かけたくないしな。戻るぞ」


 俺は席の方へ歩いて戻る。

 後ろから、誠治の盛大なため息が聞こえた。

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