No.26:合コン
翌週の水曜日。
「なあ瑛太、頼む。頼むから、俺の顔を立てると思って……」
「……」
午後の空き時間、俺は学食で誠治に両手を合わされ拝まれている。
綾音はこの時間、他の講義を受けている。
「合コンなら、他に誘うやついるだろ?」
「いややっぱりさ、ある程度の基準を満たして、且つ人畜無害なヤツの方がいいんだよ」
「それって褒めてるのか?」
今日の夜に予定していた合コンに、1名ドタキャンが出たらしい。
昼食中にそれが分かって、誠治は今埋め合わせに奔走しているという。
「相手は須田塾だ。きっと知的美人が来るぞ。しかも飲み食い放題で2千5百円だ」
須田塾とは、小平市にある須田塾女子大。
英語教育に定評がある。
創業者の須田竹子は、次回の紙幣の肖像画になるそうだ。
場所は吉祥寺の居酒屋で、5時半スタート。
6時前スタートだと、安くなるらしい。
俺は合コンには、ほとんど参加しない。
2度ほど行ったことがあるが、あのノリがあまり好きではないのだ。
ただ……たまには誠治の顔を立ててやることも必要か。
2千5百円の出費は痛いが、まあちょっと高めのディナーと思うことにしよう。
「わかった。今回だけだぞ」
「よしっ! そうこなくっちゃ!」
誠治はなぜか小さくガッツポーズをする。
「オレと高田と山下は先に吉祥寺で時間潰すけど、瑛太はどうする?」
高田と山下の顔が一致しないんだが……。
まあいいか。
「俺はこの格好じゃ行けないぞ。一旦帰って、着替えさせてくれ」
「わかった。じゃあ詳細はLimeするわ」
ありがとな、と俺の肩をポンと叩いて、誠治は学食をあとにする。
忙しいやつだな……。
◆◆◆
講義が終わってから、俺は大学の図書館に寄っていた。
時間には余裕がある。
課題のレポートを書くのに、使えそうな本を物色していた。
15分ほど、図書館で時間を潰しただろうか。
結果的に、これがよくなかった。
中央線に乗り込み、アパートへ戻る。
ところが……新宿で電車が動かなくなった。
「ご乗車の皆様には、大変ご迷惑をおかけしております。中央線高円寺駅構内にて人身事故が発生し……」
……人身事故。
俺が上京して驚いたのが、電車の人身事故の多さだ。
駅のホームや踏切での人身事故……つまりそういうことだ。
東京の闇をここでも感じる。
卒業後、俺はどうするべきなんだろう。
東京で働くのが、本当に幸せなんだろうか。
結局いつもより30分以上時間がかかって、西荻窪に着いた。
完全に遅刻だ。
電車の中から「先に始めてくれ」と、誠治にLimeをしておいた。
急いでアパートに戻り、着替える。
本当はシャワーを浴びたかったが、時間がない。
汗をタオルで拭いて、制汗スプレーでごまかす。
俺はアパートを出て、早足で吉祥寺を目指す。
20分弱ぐらいか。
あまり急いで汗だくになるもの、よくないだろう。
スマホのマップを見ながら、ようやく目的の居酒屋にたどり着く。
ハンカチで汗を拭い、中へ入った。
店員さんに、奥の個室へ案内された。
「おー、待ってたぞ」
一番奥の席に座っていた誠治が片手を上げた。
手前側に、女性陣4人が座っていた。
誠治の隣に、山下、高田の順に座っている。
あれ? 高田、山下だっけ?
俺は一番右端の席に着いて、女性陣と向き合った。
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