No.25:んー! おいひいれふ


「そういえば瑛太さん、この間私が初めてこのアパートへ来た女性って言ってましたよね?」


「うん、そうだね」


「それで……この間、綾音さんが来られた時は、誠治さんも一緒でしたよね?」


「ああ、そうだ」


「ということは、ここのロフトは……その……そういう目的で使われたことはない、ってことですよね?」


 赤面の明日菜ちゃんが、反撃してきた。


「そ、そういうことになるかな」


「そうだったんですね。ふふっ、なんだかちょっと安心しました」


「お、俺だって経験ないからね」

 言ったあと、しまった、と思った。

 口を滑らせてしまった。


「へっ? そ、そうだったんですね……なんか、すいません」


「あ、謝らないでくれる? 余計に恥ずかしくなるから」


 俺たちはお好み焼きを挟んで、お互い顔を赤くしたまま下を向いていた。

 鉄板のジューッていう音だけが、やけに大きく聞こえた。


        ◆◆◆


「んー! おいひいれふ」


「熱いから気をつけてね」


 明日菜ちゃんは、ハフハフしながらお好み焼きを頬張った。

 天使のような笑顔が、パァーッと広がる。

 俺まで嬉しくなってくる。


「焼きたてを食べると、やっぱりおいしいです」


「まあお好みソースをつければ、大体ハズレないよね」


 俺はあまりの熱さに、水を一口飲んだ。


「この間、お母さんに怒られてしまいました」


「どうして?」


「一人暮らしの男性の家で、シャワーなんか借りちゃダメだって。何されても文句言えないよって」


「い、いや、そうかもしれないけど……あの時は仕方なかったでしょ?」


「はい、そうなんですよ。それに……瑛太さん、とても優しかったです」


「その言い方だと、俺、やっぱり変なことした感じになっちゃうよ」

 俺はまた、ちょっとからかうつもりで言った。


「なっ……もう……今日の瑛太さんは、やっぱり意地悪です」

 

 顔を赤らめて、下を向いてしまう……。

 その仕草が、いちいち可愛いのだ。


「でも、やっぱり夜遅い時間は来ないほうがいいかもしれないね。ご両親、心配するだろうから」


「え? でも……」


「そのかわり週末のお昼にでも、また来ればいいよ。俺は土曜日は昼も夜もバイトだけど、日曜日は夜だけの場合が多いんだ。だから日曜のお昼にお好み焼きをすれば、また一緒に食べられるよ」


「えー、本当ですか? 嬉しい!」

 暗い顔が一転、満面の笑みだ。


「毎週日曜日は、お好み焼きの日です! 決めました!」


「いや、別に無理して毎週来なくても」


「ダメです! 毎週来たいです! あ、でも……瑛太さんのご都合もありますよね……」

 

 また急にテンションが下がった。

 忙しいな……。


「まあ予定はその都度、確認すればいいよ。俺も明日菜ちゃんと一緒にお好み焼き食べるの楽しいしね」


「本当ですか? もう……瑛太さん、やっぱり優しいです」


 明日菜ちゃんはそう言って、やわらかく微笑んだ。

 

 表情をコロコロと変える明日菜ちゃんは、とても魅力的な女の子だ。

 俺はこの子のことをどう思っているんだろう……。

 俺は自分の気持ちを、持て余していた。

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