No.24:お好み焼き
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
日曜日の12時ちょうど。
明日菜ちゃんは、俺のアパートにやってきた。
今日の明日菜ちゃんは、ブランドロゴが入ったタイト目のTシャツにグレーのパーカー。
下は黒のホットパンツで、今日も真っ白な生足が眩しくて目がくらみそうだ。
洋服の色合いは地味だが、とにかく彼女のスタイルの良さが強調されている。
どうやら俺は、彼女の姿に見とれていたらしい。
「あ、あんまり見ないで下さい……恥ずかしいです」
「あ、ご、ごめん。あんまりスタイルがいいから、見とれちゃったよ」
「もう……そういうこと、言わないで下さい……」
明日菜ちゃんは恥ずかしいのか、両手で太ももを押さえて隠そうとする。
頬を紅潮させ、前かがみになった彼女の胸元から覗いた下着が目に入る。
い、意外とおっきいな……。
だ、だめだ、いろいろと。
「お、お腹すいた? さっそくお好み焼きを作ろうか?」
「え? はい、お好み焼き、楽しみにしてました!」
明日菜ちゃんの表情が一転してパァーッと明るくなった。
「あとこれ、朝食のときにでも食べて下さい」
手渡してくれたのは、マフィンだった。
多分手作りだろう。
10個ぐらい入っている。
「こんなにたくさん、いいの?」
「はい、マフィンなら一度にたくさん焼けますから」
「ありがとう。朝食にいただくことにするよ」
それから俺は、お好み焼きの準備に取り掛かる。
準備といってもキャベツをベースに、後は余った肉やら野菜やらを適当に混ぜてタネを作るだけだ。
「俺は週1ぐらいのペースで、お好み焼きを作るんだよ」
「そうなんですか? 頻度が高いですね」
「ああ。一人暮らしで自炊してると、野菜とか肉とかどうしても余ってしまうんだよ。それで傷んで駄目になってしまう前に、適当に混ぜてお好み焼きにするわけ。つまり、冷蔵庫の掃除が目的だね」
「あーなるほど、そういうことなんですね。うちのお母さん、どうしてるのかな?」
「できる主婦は、その辺をきちんと計算して使い切るんだろうね」
「えー、うちのお母さんが、できる主婦っていうイメージでもないですけど」
「でも何十年もやってるベテランだよ? 俺たちの世代とはデキが違うさ」
「そういうもんなんですかね」
俺はタネをかき回して、ホットプレートの温度を確認した。
「それじゃあ焼いていくね」
ホットプレートの上にタネを落とす。
ジューッという音が、食欲をそそる。
明日菜ちゃんは、俺の部屋を見渡している。
これで来るのが3度めだが、まだなにか物珍しいのだろうか。
「改めて見ると、瑛太さんのお部屋、割とひろいですよね?」
「ん? ああ、寝るスペースがロフトだからじゃないかな」
「あ、そうか! ロフト、いいですね。憧れます」
そう言って彼女は、部屋のロフトを見上げた。
「誠治には不評だったけどね」
「え? どうしてですか?」
「ん? ああ……」
俺は言いよどむ。
「部屋も広く使えるし、いいじゃないですか」
「そうなんだけどね……俺じゃなくって誠治が言うには、だよ」
一応断りを入れておく。
「その……女の子が来てさ、例えばいい雰囲気になったとするじゃん」
「へっ? は、はい……」
明日菜ちゃんの顔が赤くなった。
しまったな……言わなきゃよかった。
「それで……さらに盛り上がって、さあこれからって時に、ベッドに行くのにハシゴを登らないといけないだろ?」
「え? あーそういう……女性は冷めてしまうのかもしれませんね」
彼女はそのままうつむいてしまった。
誠治に「ロフトはだめだ。即刻引っ越せ!」と言われたことがある。
すべての基本がそういう視点であることに、ある意味誠治の
だがそもそも生活の基本は、そこじゃないだろ?
まあ俺は経験がないから、余計にそう思うだけかもしれないが。
「お母さんが、ちょっとだけ安心って言ってた意味がわかりました」
「ごめん、何だって?」
お好み焼きの音で、明日菜ちゃんの声がかき消される。
「な、なんでもないです」
「明日菜ちゃんも、やっぱりロフトだと、その……気になったりする?」
俺はちょっとからかい気味に聞いてみた。
「へっ? そ、そんなの経験ないからわかりません!」
顔を真赤にして、ちょい怒の明日菜ちゃんは可愛いかった。
「もう……今日の瑛太さんは意地悪です……」
そう言って形の良い口元を、少し尖らせた。
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