No.21:かっ、可愛いーー!


「ねえ、ウチも瑛太のアパートでご飯食べさせてよ」


 昼休みの学食。

 俺は無料の天かすとネギを大量に入れた、きつねうどんを啜っていた。


「いや、いいけど……中野からわざわざ西荻にしおぎに来ることないんじゃないか? それだったらいつもみたいに、綾音のマンションでメシ会やればいいだろ? 部屋だって広いんだし」


「やべぇ、やっぱコイツ分かってねえ……」

 誠治が何か言った気がするが、昼休みの学食はとにかく騒がしくて聞こえない。


 ここ2-3日、綾音がやたら俺のアパートに来たいと言い始めた。

 わざわざ遠回りする必要がどこにあるんだろう。


「まあ綾音はまだ瑛太のアパート、行ったことないだろ? だから1度ぐらいいいんじゃないか?」


「そ、そうだよ! 1度ぐらい行かせてよ!」


「いや、まあいいけど……」

 なぜか誠治が加勢してくる。


「せっかくだから、餃子パーティーとかどうだ?」


「えっ? 俺が準備するのか? あれ結構大変なんだぞ」


 誠治の提案に、おれはひるむ。


「違う違う。冷凍餃子か生餃子を買っていけばいいんだよ。瑛太、ホットプレート持ってたろ? あれで焼くだけだ」


「あーなるほど。それなら簡単そうだな」


「餃子の飛車角ひしゃかくで、売ってるぞ」


「飛車角でそんなのあるんだな」


 餃子の飛車角ひしゃかくは、餃子で有名な中華料理の全国外食チェーンだ。


「わかった。じゃあいつにする? 今日は俺も誠治もバイトのシフトが入ってるから、明日とかどうだ? ちょうど金曜日だし」


「ウチは大丈夫」「俺もOKだ」


 あっという間に、金曜の夜の餃子パーティーが決まった。


        ◆◆◆


 金曜の夕方、俺たち3人は大学近くの飛車角に寄った。

 そこで生餃子を買うことにした。


「何個あればいいんだ?」


「うーん、オレは結構食うぞ。一人前6個入りか……15人前90個でどうだ?」


「いいんじゃない? それこそ余ったら冷凍でもしておけばいいんだし」


 結局生餃子を90個買った。

 結構な出費になってしまったな。


 3人で中央線に乗り、西荻窪で降りる。

 俺はアパートに向かう途中で思い出した。

 

「そういえばドリンク類がなかったわ」


「じゃあコンビニ寄ってくか?」


「ウチもデザート買いたい」


 俺は少し躊躇したが……アパートから一番近いコンビニへ行くことにした。

 

「明日菜ちゃんがバイトしているコンビニ行ってみよう」


「おっ? 今日シフト入ってるかな?」


「え? 明日菜ちゃんって例の美少女でしょ? 行こう行こう!」

 何故か綾音がかなり乗り気だ。


 俺たちはそのコンビニに入った。


「いらっしゃいませー」


 甲高い可愛らしい声……カウンターの内側に、明日菜ちゃんがいた。


「こんにちは、明日菜ちゃん」


「瑛太さん! それに、誠治さんも。どうしたんですか?」


「これから瑛太のアパートで餃子パーティーなんだよ。その前に飲み物を買っていこうと思ってさ」


 コンビニの制服でも、明日菜ちゃんは眩しいぐらい可愛かった。

 彼女目当てにくるお客さんも、結構いるんじゃないか?


 ふと見ると……俺たちの後ろで綾音が固まっている。


「綾音、どうした?」


「……かっ……」


「蚊?」


「かっ、可愛いーー!」


 綾音がいきなり後ろから俺たちを押しのけて、カウンターへ張りついた。


「ね、ねえ! なんで髪そんなにツヤツヤなの?! シャンプー何使ってんの?! トリートメントは?! 顔もほとんどすっぴんだよね!? 化粧水、何使ってんの!? なんでそんなにウエスト細いの!? 特別なダイエット」


「お、落ち着け、綾音」


 綾音が壊れていた。

 俺は今にもカウンターを乗り越えていきそうな綾音を、全力で止めた。

 明日菜ちゃんはドン引きで顔を引き攣らせ、後ずさりしている。


「あ、明日菜ちゃん、コイツがこの間話してた綾音だよ」


「えっ? あ、はい。えーと……初めまして、綾音さん。南野明日菜です」


「瑛太、やっぱりこの子可愛い! お持ち帰りできないの? カード一括払いで!」


「綾音、目を覚ませ!」

 実は綾音、美少女好きなのか?


 俺たちは綾音をなんとかカウンターから引き剥がし、ジュースとデザートを買いに回った。

 興奮状態の綾音を誠治が外に連れ出し、俺が支払いをする。


「ごめん、騒がせちゃったね」


「い、いえ……大丈夫です。今日は瑛太さんの家で食事会か何かですか?」


「ああ、3人で餃子パーティーでもしようかという話になったんだ。明日菜ちゃんもバイト終わったあと、一緒に来るかい?」


「えー、行きたいです! でも、バイトがあるので……今日は無理です」

 明日菜ちゃんは、目に見えてシュンとしてしまった。


「そっか。じゃあ、またの機会だね」


「はい、お好み焼きをやるときは、呼んで下さいね」


「ははっ、大丈夫。ちゃんと覚えてるよ」


 俺は会計を済ませて「それじゃあ」と声をかけてコンビニを出た。

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