No.20:お姉ちゃん彼氏できたの?


「ただいまー」


 今日も瑛太さんに送ってきてもらっちゃいました。

 20分以上歩いてきたはずなのですが、色々おしゃべりをしていたらあっという間に着いてしまいました。


 瑛太さんは素敵な人です。

 優しくて、あったかくて。

 一緒にいると心がポカポカします。


 でも……昨日綾音さんていう人と、一緒にスイーツ天国へ行ったんですよね。

 お友達って言ってましたけど、ちょっと気になってしまいます。

 瑛太さんは素敵な人ですから、他の女性から人気があっても不思議ではないのですが……。


「お姉ちゃん、おかえりー」

 

 上からパタパタと妹の小春こはるが降りてきました。

 小春は中3なのですが、受験もないのでいつも家ではのんびりです。


「ねーねーお姉ちゃん、あの人誰? お姉ちゃん彼氏できたの?」


「なっ……小春、見てたの?」


「うん。なんとなくリビングから外を眺めていたら、お姉ちゃん達が帰ってくるのが見えたんだよ」


 小春は悪戯っぽく笑います。


「なんかさー、すごくいい感じだったよ」


「そ、そんなんじゃないよ。瑛太さんは、そういうんじゃ」


「へぇー、瑛太さんっていうんだ」


 しまった……いつもそうなのですが、小春にペースを握られてしまいます。


「もうどうしたの? 二人とも玄関で何騒いでるの?」


「あ、お母さん、ただいま」


 お母さんまで降りて来ちゃいました。


「明日菜、男の人に送ってもらったの?」


 話が聞こえてしまったようでした。


「え? う、うん……ほら、この間話した人。コンビニで変なお客さんから助けてもらって。それから吉祥寺駅でも」


 コンビニと吉祥寺での事件のことは、お母さんにも話してありました。


「ああ、その人なの。ケーキを持っていったのよね? そう言えば、この間もチーズケーキ持っていったわよね? 同じ人なの?」


「う、うん……」


「あの日大雨だったでしょ? 濡れなかった?」


 ま、マズいです……お母さんの追求が始まりました。


「えっと……実はすっごい濡れちゃって……風邪ひきそうだったから、瑛太さんのところでシャワーを借りて服も乾かしてもらったの」

 私は正直に話しました。


「……瑛太さん、ご家族は?」


 お母さんは目を細めました。


「えーっと……一人暮らし……」


「ええっ!?」


 声が小さくなった私と対象的に、お母さんの声が大きくなりました。


「一人暮らしの男性の家でシャワーお借りしたの? 駄目よそれは。それじゃあ何が起こっても、文句言えないわよ」


「キャァーッ! お姉ちゃん、大胆!」


 小春は一人で盛り上がっています。


 私はお母さんに、ちゃんと説明しました。

 瑛太さんは長野出身の、明青大学の法学部1年生であること。

 シャワーを浴びた私に、スウェットの上下をかしてくれたこと。

 濡れた服を脱水にかけて、布団乾燥機で乾かしてくれたこと。

 ブラウスに瑛太さんがアイロンをかけてくれたこと。

 ちゃんと帰りも送ってくれたこと。


「ふーん……ちゃんとしてる人みたいね。どんなところに住んでるの?」


「どんなって……普通のアパートだよ。ここから歩いて20分ちょっとかな。部屋は2階で、寝るところがロフトになってるから結構広く感じたよ」


「へぇー……じゃあちょっとだけ、安心かな」


「?」


「と、とにかく……会っちゃいけないとはいわないけど、できるだけ早く帰ってくるようにしなさい。それと一度家にご飯でも食べに来てもらったら? お母さんもお礼を言いたいし」


「いいの? その……お付き合いしてる、とかじゃないんだよ」


「いいでしょ? お父さんとお母さんの大学の後輩にもなるわけだから。いろいろお話も聞きたいしね」


「うん……わかった。瑛太さんにも聞いてみるね」


 私は瑛太さんが我が家に来ることを想像してみました。

 なんだかちょっと嬉しくなりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る