No.13:は、初めての女性……


「お手伝いすること、ありますか?」


「大丈夫だよ。お客さんは座ってて」


 コーヒーと紅茶、それからケーキを乗せたプレートが2つ。

 大きめのトレーの上に乗せて、テーブルまで運んだ。


「上手にできてるね。これは、チーズケーキ?」


「はい。お口に合うといいんですけど……」


「チーズケーキは、大好きだよ」


 2人でいただきます、と言ったあと、俺はチーズケーキを口に運ぶ。


「美味しい!」


「本当ですか? よかった……」


「甘さもちょうどいいし、味に深みが……これ、ラム酒かな?」


「そうなんです! よくわかりましたね」


「ああ。これはバイト先のチーズケーキより美味しいかも」


「それは褒め過ぎです」


 それから俺たちは、ケーキの話や料理の話をしていた。

 彼女はお菓子を作ったり、料理をするのが好きらしい。

 俺もよく自炊をするので、話題は尽きなかった。


「なんだか今日はごめんなさい。その……押しかけてしまったみたいで」


「全然いいよ」


「その……か、彼女さんとかいたら、申し訳なかったかなって」


「あはは、彼女なんていないよ」


「本当ですか!?」

 明日菜ちゃんは、なぜか今日一番の笑顔になった。


「ん? ああ。もし彼女がいたら、この状況はマズいでしょ? だから家に来るのは困る、って言ってたと思うな」


「……瑛太さん、真面目です」


「普通だろ? それに……」

 俺は記憶を手繰たぐりながら、視線を上に向ける。


「えーっと……多分明日菜ちゃんがこの部屋に来た最初の女性だよ。あ、母親は除いてね」


「えーっ!? 本当ですか? やったぁー!」


 明日菜ちゃんは、バンザイして喜んでいる。


「綾音の家には行ったことがあるけど、来たことはないよな……うん、やっぱりそうだ。明日菜ちゃんが、初めての女性だよ」


「は、初めての女性……」

 明日菜ちゃんは顔を赤らめる。


「い、いや、そういう言い方だと意味が違ってくるでしょ?」


「へ? は、はい、すいません……」

 彼女は耳から煙が出てきそうな表情でうつむいた。


「で、でも……綾音さん……ていうのは、お友達なんですか?」


「え? ああ、綾音は同じ学部の友達で、誠治と3人でよくツルんでるんだ。中野に住んでて場所がいいから、誠治と3人でたまに集まるんだよ。それに綾音のマンション、広いんだ。体感的には、ここの倍ぐらいかな」


「そうなんですね」


 JR中野駅は、新宿からJR中央線で1区。都心にほど近い。

 しかも綾音のマンションは、中野駅から徒歩2分と至近。

 そんな広くて好立地のマンションだが、実は綾音のお父さんが娘の上京に合わせて投資も兼ねて現金購入したらしい。

 つまり綾音のお父さんがオーナーで、家賃も管理費用もタダとのことだ。


 ちなみに綾音のお父さんは札幌近郊に、10棟近いマンションを所有しているらしい。

 10室ではない。10棟だ。

 お金というものは、あるところにはあるんだな。


 そうこうしているうちに、布団乾燥機の音が聞こえなくなった。

 

「明日菜ちゃん、ちょっと服をチェックしてみてくれないか? 半乾きだったら、ドライヤーを使って乾かしてみて」


「あ、はい。ちょっと失礼しますね」


 そう言って浴室の方へ入っていき、脱衣所の前のドアを閉めた。

 俺は部屋の奥から、アイロンとアイロン台を持ってきて用意しておく。


 脱衣所からドライヤーの音が聞こえる。

 やっぱり半乾きだろうな。

 特に生地が厚いと……ブラとか。


「いかんいかん」

 俺は頭を振って、妄想を振り払う。


 しばらくすると、明日菜ちゃんは脱衣所から出てきた。

 下はベージュピンクのミニスカート。

 細くて真っ白な足が眩しい。


 ただ上はまだ俺のスウェットを着たままだった。

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