No.05:絶対に運命だと思うんです


 これは絶対に運命だと思うんです。

 1度ならず、2度までも助けていただいたんですから。


 最近始めたばかりのコンビニのバイト。

 普通は高3ともなれば、受験でバイトなんかできません。

 でも私はもともと明青大学にエスカレーターで進学する予定でした。


 学校の成績は悪くありません。

 ていうか、常時学年で1桁の順位です。

 他大学への外部受験も少し考えました。

 でも両親が2人とも明青OB、OGの夫婦で、なんとなく私が明青に行って欲しそうな雰囲気を感じ取っています。

 もちろん両親は「好きな大学に行きなさい」って言ってくれてますけど。


 幸い我が家は金銭的には問題なさそうです。

 父親が貿易会社の経営者です。

 主に欧州から家具を輸入卸しているようで、買付けのため海外出張も多いです。


 お小遣いにも不自由はありません。

 もっとも私自身、そんなにお金を使うこともないです。

 趣味の料理やお菓子作りには、そんなにお金はかかりません。


 ただこのままでは、何も知らないお嬢さんになってしまう。

 社会勉強のため、両親に頼んで近所のコンビニでバイトすることを許可してもらいました。

 

 そんな甘い考えで始めたことに、神様が罰を与えたのでしょうか。



「だから万札出したって言ってんだろ!?」


 

 え? この人、なに言ってるの?

 そんなわけないでしょ?

 機械にも5千円って出てるし。


 あの日、金髪のヤンキーっぽい怖いお兄さんが、私にお釣りが5千円足りないって凄んできました。

 あの時店長は不在で、バイトの先輩もバックヤードで搬入の作業中でした。

 私は怖くて、足が震えていました。

 誰も助けてくれない……。

 

 金髪のお兄さんは、私のLimeのIDを教えろと迫ってきました。

 私は一瞬、逡巡しました。

 IDを教えて、あとでブロックすればいいかも……

 とにかくこの窮地を脱したい。

 そんな安易なことを考えていた、その時でした。


「お兄さん、あれ、監視カメラね」


 後ろに並んでいた男性が、金髪のお兄さんに話し始めました。

 え? 監視カメラってそんなに高精度なの?

 店長も教えてくれませんでしたよ。


 結局金髪のお兄さんは、出ていってしまいました。



「えらい目にあったね」



 その人は、優しい目で私にそう言ってくれました。

 サイドを短めにした、清潔感のある髪型。

 奥二重で、優しそうな澄んだ瞳。

 顔を少しクシャッとして笑う、その表情。

 決してイケメンではないかもしれませんが、全身から滲み出るその優しさと包容感。


 私は一瞬にして、心臓を掴まれてしまいました。


 その人はボトルの水を購入して、出て行きました。

 もう会うこともないのかな……。

 でもご近所さんだったら、また来てくれるかもしれない。

 また会ってお礼を言いたい。

 そう思っていました。


 それがまた今日も会えるなんて。

 またナンパで困っていたところを、助けてもらうなんて。


 しかも!

 しかもですよ。

 明青大の1年生でした。

 来年は同じ大学の先輩後輩です。

 これはやっぱり運命だと思うんです。


 マクドでご馳走までしてもらっちゃいました。

 それにLimeまで交換してもらいました。

 仲代瑛太さん。

 私は頬が緩むのを、止めることができませんでした。

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