No.03:2度目の遭遇


 俺たちが通う明青大学は、東京23区内に位置する私立大学。

 学生数合計が3万人を超えるマンモス大学だ。

 俺は長野の実家から上京し、アパート暮らしをしている。


 うちの実家は普通のサラリーマン家庭で、決して裕福ではない。 

 学費は奨学金を利用。

 実家の親にはアパートの家賃と水道光熱費を払ってもらっている。

 当然その他の生活費は、俺がバイトをして稼ぐことになる。


 なんとなく東京での生活というものに憧れていた。

 田舎者あるある、なのかもしれない。

 しかしこんなにお金がかかるとは思わなかった。

 ちょっと遊びに行けば、すぐに財布の中身が軽くなる。

 また色々な誘惑も多い。



「瑛太、ちょっとTシャツ見に行くの、付き合ってくんね?」


 授業が終わり、誠治が俺にそう言ってきた。

 俺も誠治も、同じJR中央線で通学している。

 ちょうど今日はバイトもない。


「いいぞ。マクドでも奢ってくれるか?」


「いや、牛丼の並で手を打ってくれ」


 誠治は自宅生だが、意外と金銭感覚がしっかりしている。

 だから価値観と言うか、結構馬が合うのだ。

 女の子にチャラいところは、全然合わないのだが。


 ちなみにマクドっていうのは、マックドーナッツのこと。ハンバーガーからドーナツまで、取り扱い商品の多い日本最大のファストフードチェーンだ。


「新宿にするか? それとも吉祥寺きちじょうじまで行くか?」


「落ち着くから吉祥寺にしよう。帰りも楽だしな」


 俺のアパートは西荻窪にしおぎくぼ、誠治の自宅は三鷹みたか

 あいだに吉祥寺を挟んで、JR中央線で2区間だけ離れている。

 本当はもっと学校に近い所に住みたかったが、親から家賃の安いところを探せと厳命を受けた。

 それでも俺としては、広めでキレイなアパートの方がいい。

 妥協点を探していたら、たまたま西荻窪で良さそうな物件を見つけた。

 それに俺は個人的に吉祥寺の街の雰囲気が気に入って、吉祥寺まで徒歩圏内であることも決め手だった。


 俺たちはJR中央線で、吉祥寺まで移動する。

 東京の人の多さには、いまだに慣れない。

 新宿なんかは、人の多さだけで酔ってしまう。


 それに……この電車に乗っている人たちの表情。

 寝てる人、スマホを弄る人、つり革に掴まったまま目を閉じている人……。

 特に社会人らしい人たちの表情に、感情が宿っていない。

 自分も4年後にはそうなっているのか……

 なんだか東京という街の闇を感じてしまっている。


 吉祥寺駅に着く。

 誠治は「改札の外で待っててくれ」と言って、トイレに行ってしまった。

 俺は先に出口へ向かう。


 Suicaで改札を抜けて、柱の横で待機する。

 ふと正面に目をやると、10メートルぐらい先だろうか。


 濃緑色こみどりいろのブレザーを着た女子校生が2人。

 その横に、私服の男2人組。

 男2人組がJK2人に、一方的に声をかけているように見える。


 何気なしに見ていたが……まあ、明らかにナンパだろうな。

 そのJKの片方が、明らかに迷惑そうに眉根を寄せて……


 (あれ……?)


 ツヤツヤの黒髪ストレート。

 やや丸顔で、綺麗な二重の眼差し。

 その細身で可憐な、清楚系美少女。


 あの時の、コンビニ店員だった!

 やっぱりあの子、高校生だったんだな。


 俺はじっとその4人の様子を眺めていた。

 すると俺の視線を感じたのか、そのコンビニ店員のJKと視線が合った。


 彼女は大きく目を見開いた。


 そして何か口元が動いた気がしたが、それからまた視線を男2人組の方へ戻した。

 彼女の視線は、俺と男2人組の間を往復するようになった。

 もう一人のポニーテールのJKに目を移すと、やはり迷惑そうな表情だ。


 

 さてと……どうしたもんかな。



「ワリぃ。お待たせ」


 トイレから戻ってきた誠治に、俺は一瞬だけ視線を合わせて言った。


「誠治、悪いけど一芝居付き合ってくれ」


「へ?」 


 キョトンとしている誠治を置いて、俺は10メートル先にいる4人組と距離を詰める。

 後ろから誠治の「あーそういう事ね」っていう呟きが聞こえた。


「ごめん、待たせた」


 俺はJK2人組に声をかける。

 黒髪の美少女は俺の顔を見て目を大きく見開いたあと、パァーッと明るい笑顔になった。


「ゴメンね、ケイちゃん。コイツがさぁ、トイレ長くってさぁ」


 誠治がポニーテール女子の肩に手を置く。

 彼女も一瞬驚きの表情を浮かべたが、視線を黒髪美少女の方へ向けてアイコンタクトしたあと、ちょっとぎこちなく微笑んだ。


 ケイちゃんって誰だよ? 

 それにトイレが長かったのは誠治だろ、というツッコミは置いといて……


「ちょっと腹減ったから、何か食べに行こうか」


 俺はそう言って、彼女たちに移動を促した。

 移動する俺たち4人に、男2人組はなにやら呪詛めいた言葉をブツブツ吐きながら立ち去っていった。

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