第2話 ただの悪友

「お疲れさん」

カフェのドアが開き、メンバーのひとりであるリトルが姿を見せた。そして、彼に続いて、ODA(オダ)が店内に入ってくる。しかし、もう一人、トラックメーカーのサトシの姿はない。

「あれ?サトシは?」

「帰った」

「どうして?」

「聞いてない、、、」

とリトル。


聞いていないというよりも、聞けなかったというのが正しい。ビネガーととりわけ仲が良かったのがサトシだ。結成から20年のこのグループは、現在メンバー全員がアラフォーではあるが、そのなかでも最年少のサトシは、最年長であるビネガーを昔から実の兄貴のように慕っていた。


グループが解散したのだ。次に、どういう事態になるか、、、リーダーの呼びかけが何を意味するかなんて誰でも分かる。

「さっき社長から電話があった。ビネガーが解雇されたそうだ」

リトルもODAも、カフェのテーブルをじっと見つめて、しばらく何も言わなかった。

「・・・それで、ビネガーとは連絡とれたの?」

リトルが口を開いたが、目線はテーブルの上のままだ。

「いや、まだ連絡がつかない」

「チッ!あのバカが!」


ODAが怒りをあらわにした。


「とりあえずさぁ、まずビネガーをとっつかまえようぜ。あいつを一発なぐらないと、気が済まねぇ!」

ODAが立ち上がった。

「座れ。ビネガーを見つけ出すのは賛成だが、殴ってどうなる?あいつを殴ったらグループは、また活動できるのか?」

「AZ!お前はいつも甘すぎるんだよ。殴っても殴らなくても、俺らは終わりだよ。変わらない。それなら、殴ったほうが、まだ俺の怒りがおさまるんだよ!」

ODAはそういい放つと、乱暴に店のドアを開けて出ていった。

「はぁ、、、」

AZがため息をついた。

「確かに、俺は甘かったのかもしれないな、、、あの時、ビネガーを殴っていればよかったと思う場面がいくつも頭に浮かぶよ」

AZは頭を抱える。ビネガーは、メンバーの中でも、とりわけ女にモテたし、”そういう行為”が好きだった。結婚してからも、浮気した相手は一人や二人ではないのだろう。

「リトル。お前はどう思う?」

リトルの表情は複雑で、怒りとも悲しみともとれない。

「俺は、AZは、間違っていなかったと思ってる。AZは名目上リーダーだけど、俺たちはAZの部下でも何でもない。。。ただの友達だ。俺たちは、なぁなぁで緩い、友達だ。バカやって、酒飲んで、、、ただ、俺たちが遊んで作る曲が最高だったってだけの、悪友の集まりだろ?」


リトルは、それだけ言うと、AZを残して店を出た。


AZは、頭を抱えたままだ。

彼が抱えている頭の中では、皆で駆け抜けた青春の思い出が浮かんでは消えた。思い出の中のビネガーは、いつも笑っていた。

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