第16.5話 多忙で充実な日々

「瀬崎さん、こんな感じでどうですか?」


「どれどれ?お、凄い!」


彩音ちゃんが作っているバーチャルアバターを確認する。

仮決めの為、アニメキャラみたいな外装デザインはなく、マネキンみたいな3Dデザインだけだが、思った以上にスムーズに動いているように見える。


「これは十分いけると思う。念のため、こんな感じになると島津さんに報告しておこうか。こちらに来てもらうね」


「あ、じゃあ、私が呼んできます!」


言うや否や、この本大会の「サプライズプロジェクト」ルームを飛び出す渚氏。俺は苦笑する。


「内線で連絡するつもりだったのに」


「きっと役に立ちた・・・身体を動かしたいんですよ、渚ちゃんは」


「あ~・・ここんところずっと、この部屋でPC作業ばかりだからね」


プロジェクトを始めて、今日でちょうど10日。

まずはバーチャルアバター制作をしないと先に進めないため、必然的にそうなってしまった。


「悪いね。彩音ちゃんばかりに負担かかって」


「いえそんな!ここ数日は流石と言うか、渚ちゃんも作業ができるようになって、助けてもらってますし」


あの子、超人過ぎるだろ。


「瀬崎さんに至っては、常に大変じゃないですか!」


「そうかなぁ?」


コンコン


ノックの音。あれ?もう島津さん呼んでくれたのかな?

扉を開けて対応する。


「はい?」


「あ、瀬崎さん。お忙しいところすみません」


扉の前に立っていたのは、この会社の社員の方。確か今回の大会のメインとなるゲーム機材の担当の方だった気が。


「大会機材の動作チェックに不具合がみられまして。ちょっと来てもらえませんか!?」


俺は専門外だが、この10日間、「雑用」として社内を奔走した結果、それなりに顔が知られていた。

そのためか、サプライズプロジェクトに関わらず、大会に関することで人手が足りない際は、このように呼ばれることが増えたのだ。


バツが悪そうに彩音ちゃんの方を見ると、「それ見た事か」と言った表情で言われた。


「大丈夫ですよ、瀬崎さん。島津さんが来たら確認してもらいますので」


「・・よろしくお願いします」


―――――――――――――――――――


(彩音視点)


「島津さん連れてきましたー!・・って、あれ?瀬崎さん?」


「瀬崎さんなら、機材の不具合で呼ばれて、さっき出ていったよ」


「え・・?そんにゃ~~・・」


あからさまに気落ちする渚ちゃん。彼女のこんな姿は、学校でも、友達として過ごす様になった最近でも、滅多に見られない貴重なものだ。


「機材の不具合報告だったら、私の方に来るべきなんだが」


・・島津さんは今回のイベントの総責任。言われてみればそうだ。


「それは島津さんの方がこわも・・瀬崎さんでも、対応できると思ったからじゃないです?」


凄い。・・ビックリするくらい、どちらのフォローにもなってない!


島津さんも同じように思ったのか、目をパチクリしている。


「・・まぁ、瀬崎さんの手に余れば、島津さんの方に来ますよ。と言う事で、先にこちらのチェックをお願いします!さっちゃん、お願い」


「わかりました。・・島津さん、チェックお願いします」


私は気を改め、これまでの「仕事」を見てもらう事にした。




「どうでしょう・・?」


島津さんは、しばしの思索の後、


「・・良いと思います。充分にイベントで披露できる出来ですね」


やった!


「やったね、さっちゃん!」


「では引き続き、アバターそれぞれの外装デザインに取り掛かりますね」


「あ、そのことなんですが、渚さん、いいですか?」


「もちろんです! へっへ~~」


島津さんの合図を受けて、渚ちゃんが、あっ!なんか悪い顔してる!!

・・いや、どっちかって言うと、「悪戯する」表情。・・・こんな顔でも様になるから、渚ちゃんは「陣内渚」なのだ。


「外装デザインは、JINNAIの公式マスコット、「ジーンくん」と「アイちゃん」をベースにする許可をもらってきました!」


「へっ?」


しまった。なんか変な声が出ちゃった・・でも、これは仕方がないよね?


「えっと、ごめん。・・公式マスコットがなんって言いました?」


「何度でも言うよ! 「JINNAIの公式マスコット」が、「バーチャル化」するの!さっちゃんのアバターデザインで!」


いや、あーた、さっきはそんなこと言うてないでしょが。


思わず脳内発言が粗野になってしまった。ここは、


「・・島津さん、本当なんですか?」


「またもや裏切り!?」


とりあえず渚ちゃんは放っておこう。・・あ、ちょっと、こんな時の瀬崎さんの気持ちが分かったかも。


「本当ですよ、武田さん。「今回の記念大会で披露するにふさわしい」と会議で決定し、当社の公式マスコットをバーチャル化することとなりました」


「え、でも、そんな大役、・・・いいんですか?」


「武田さん、」


島津さんは、いつもよりさらに真剣な表情で、私の目をまっすぐ見て告げた。


「私はそれも踏まえた上で、先程のOKサインを出したんです」


頭をガーンと打ちのめされたようになった。


「何かあったとしても、責任は総責任の私にあるし、なんならうちの会社も取ります。それくらいの会社だと、私は思ってますよ?」


最後の言葉は、私だけではなく、ここにいるもう一人にも言ったように感じた。


「・・ということだから、さっちゃん、ますます張り切っていこ―!」


それも聞かないようにできる「陣内渚」は、やっぱりすごい!


「はい!精一杯やらせて頂きます!!」


その時突然、部屋の扉が開いた。


「あ、よかった!島津さん、いらしてたんですね!」


そこには、あせりを示す瀬崎さんの姿が。


「すいません、ちょっと来てもらえませんか?私ではちょっと、対応できなさそうで・・」


その様相に、私たち三人は何故だか、揃って顔を見合わせてしまった。


「わかりました。武田さん、渚さん、そういうことであとはお願いします」


「わかりました」


「りょうかいです!」


そうして、大の大人二人は、風のように去ってしまった。



・・・・・・・


「・・なんだか締まらないね、さっちゃん」


「そうだね。でも、」


私は、親友と呼べる人に向かって、まっすぐに告げた。


「・・・こういうのも私、案外好きかも。誘ってくれてありがとう、渚ちゃん」



さぁ、イベント、成功させるぞ!!

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