第16話 eスポーツ大会(企画編)
「失礼します」
島津さんに伴われ、応接室と思われる部屋に入る。そこには、
渚氏。超美形女子高生「陣内 渚」さんと、その同級生で先日会った「武田 彩音」さん。
そして、野上さん。現在売り出し中の女優「皆瀬 瑠衣」のマネージャーにして、自分のかつての職場の部下でもある「野上 千絵」さん。
・・この始めてみる組み合わせの3名が、どういう訳かいた。
「瀬崎さん、こんにちは~」
「・・えと、こんにちは」
「どうも、お疲れ様です」
「ぁ、お疲れ様です。 ・・・ いやいや。なんで、君たち、いるの?」
「「えっと、それは・・」」
「話すと長・・くはそれほどない、事情がありまして~」
聞いた3人中、一人だけ違う反応をする超美形女子高生を見て、俺は瞬時に、おおまかを察した。なので、
「・・・うん。島津さん、本題をお願いします」
「あっ、そうきますか!!」
不満の声はこの際無視。・・最近無視スキルの使用多いなぁ・・
そんな自分たちを見て、島津さんが話を続ける。
「・・・どうやら、瀬崎さんは3名ともすでに面識があるようですね。では、紹介は省いて、早速、本題とさせて頂きますね」
「まず、・・そうですね。陣内渚さんは、「とある方の紹介」で本大会の運営補助の学生アルバイトとして、こちらに来られています」
「・・「とある方の紹介」、ですか?」
「はい。あくまで、「とある方の紹介」です」
俺も大人だ。その辺の事情はこれ以上聞かないようにしよう。
「彼女はこれまでにも何度か、こう言ったイベント行事の「裏方業務で」手伝いないし、アルバイトで来ていただいてます。瀬崎さんがお知り合いという事なら、彼女の優秀さは、私が言うまでもないでしょう」
「まぁ、その辺は・・」
渚氏の方をチラッと見る。予想した通りドヤ顔だった。
「わかりますよ。・・・大変、不本意ですが・・」
「なんでです!?」と言った反論の声が聞こえた気がするが、これもスルーの一択。
「それでは残りのお二人は?」
「はい。・・「とある方」が渚さんに今回のアルバイトを紹介する際、この様にも言ったみたいなのですよ」
「「他にも知り合いを何人か連れてきていいよ。」と」
・・おっと。なんだか、めまいがしてきたぞ?
「それで彼女が、連れてきた知り合いというのが、」
「はーい。私の親友のさっちゃんこと「武田彩音」さんと、現在売り出し中の女優、「皆瀬瑠衣」さんでーす!残念ながら、ご本人はお仕事と言う事で本日の打ち合わせには、マネージャーの野上さんに来てもらいましたぁ!」
してやったりという顔で、元気にネタ晴らしをする渚氏。
この場にいる残り3人の表情を見ると、揃って「どうしたものか・・」と言った表情をしていた。見える範囲に鏡が無いので確認はできないが、間違いなく自分も似た様な表情だろう。
気づいた時には、この問題児のこめかみをグリグリとしていた。
「イタイイタイ!! 瀬崎さん、なにすんの!!?」
「うるさい。どこの世界に「アルバイトを一緒する知り合い」に「売れっ子女優」を呼ぶやつがいる!?」
「え?ここに?」
あざとさ2割、キョトン9割の声でのたまった。よし、「グリコの刑」倍速モードだ!
「イダイイダイイダイ!!!!!」
「・・じゃれ合うのはそのくらいにして、」
野上さんが仕切り直すように「コホン」と、会話に割り込む。ちなみに島津さんは、「意外なものを見て苦笑い」している様子だった。
「今回、渚さんが行ったのは、厳密に言うと、ただ「知り合いを呼んだ」というだけではないのです。・・・「株式会社JINNAIからの、「女優皆瀬瑠衣に向けての」正式なイベント出演オファー」という事になっています」
うん??
「えっと、つまりどういうことでしょ?」
違いをとっさに理解できなかった自分に対し、野上さんが説明してくれる。
「渚さんが、「ただの友人として」うちの皆瀬を誘ってくれたなら、オフを活用もしくはお忍びと言った形で、一緒にこれまで渚さんがやっていたような「裏方業務」を一緒にやっても、事務所的には「一応」問題ありません」
・・それでも「一応」なんだ。
「ですが、今回は「会社を通じての」イベント出演オファーと言う事になっています。つまり、今度行われるeスポーツ大会のどこかで「女優 皆瀬瑠衣」を出して頂く必要があります」
「ああ、そういう事ですか。・・それはちょっと考えないとですね」
「ええ。・・だいぶ考えないといけないんですよ」
思案顔の野上さんを見て、とりあえず元凶にもう一度グリコの刑をしようと思った。が、流石に逃げられた。
「ふっ、仏の顔も三度まで!」
「・・・ねぇ、彩音ちゃん。本当にこの子が、学校ではそんなに凄い扱いなの?」
「そのはずなんですが、・・・私も自信が無くなりました!すみません!!」
「まさかの裏切り!!」
おっさんと女子高生二人のやりとりに、島津さんが困惑している。この辺で辞めておこう。
「3人がこちらにいる理由はわかったのですが、島津さん、「通常ではない企画運営」の内容とは?」
「はい。・・・この度行われるeスポーツ記念大会で「皆瀬瑠衣」さんがゲスト出演する「サプライズ企画」を「責任者として担当」して頂きたいと思います」
俺は態度に出すのは悪いと思いながらも、頭に手をやらずにはいられなかった。
「・・・すいません」
「いえいえ。・・私が瀬崎さんの立場だったとしても、そうしたと思います」
器の広い方だ。
「ありがとうございます。ですが、申し訳ありません。突然、始めて来る会社の企画担当責任者と言われましても・・」
「それに第一、一緒に企画担当する方々にも納得いただけると思いませんし・・」
「いえ、納得してますよ?」
横からの声。渚氏だ。
どういう事か尋ねようとする前に、野上さんからも追撃が来る。
「はい。・・と言いますか、「瀬崎さんが担当すると言う事も含めて」、うちの皆瀬はオファーを受けてますので」
「・・・・・は?」
またもや、会社人としてあるまじき反応をしてしまったが、これも見なかったことにして島津さんはこう言った。
「瀬崎さん。・・改めまして」
「この度行われるeスポーツ記念大会で「皆瀬瑠衣」さんがゲスト出演する「サプライズ企画」を、「こちらにいる3名と一緒に」責任者としてご担当して頂ければと思います」
むしろ語尾が、こちらの心情を図ったものとなっていた。
「・・・ご愁傷様です」
彩音ちゃんの言葉が、唯一沁みました。
・・・・・とりあえず、
「プログラムにどう組み込むかは、先程の会議のおおよそのラインで考えていいんですね?」
「! はい。大きな変更があればお伝えしますが、基本的にあれでいけると思います」
「サプライズと言う事は、大会後半が望ましいんですよね?」
「そうですね。私は予選と決勝の間の休憩時間か表彰式の後を想定しました。が、その辺りもお任せします」
よし、では。・・の前に確認とっておかないとだろうなぁ。
「島津さん。出向中ではありますが、うちの会社の仕事もない訳ではないので、上司に確認をとってもよいですか?」
「はい、もちろんです。」
「では、少々失礼し・・あっと、詳しい業務内容は言わない方が良いですよね?」
バツは悪いが念のため聞くと、島津さんは苦笑して答えた。
「もし詳しい内容報告が必要なら、私が代わってお伝えしましょうか?」
「・・たぶん、そこまでは大丈夫だと思います。少々失礼します」
俺は会話が聞こえない程度に距離を置いて、上司である課長に連絡を入れることにした。
―――――――――――
(渚視点)
「・・島津さん、島津さん」
「何ですか、渚さん?」
私は、高校に入った辺りから度々こちらでアルバイトをしている。・・今回みたいに社長である父から紹介されることはあるけど、あくまで一高校生として。
もっとも、父が創った会社自体が好きと言う事もあり、小さな頃からよく見学をさせてもらったりはするのだけれど。
島津さんはその頃からの顔見知り。なので結構、気軽に話せたりする。
「瀬崎さん、何かやらかしたんですか?」
「やらかしたと言う訳ではないんですけど・・」
島津さんが、「どう説明したものか」という態度を取ったのを見て、私は察した。
「ちょっと想定以上のことをされた感じ、だったりします?」
「そんな感じです!よくわかりましたね?」
私はその返答になんとなく満足し、電話をしている瀬崎さんの方を眺めながら小声でつぶやいた。
「・・だから、呼んだんです」
―――――――――――――
「すいません、お待たせしました。上司に確認しましたが、問題なくこちらの業務に集中できそうです」
「助かります。ではこちらの部屋をこのまま使って構いませんので、早速企画決めをお願いしますね」
「え?島津さんは?」
「私は大会全体の責任者なので、やることも行くところも多いのですよ。こう見えて。ですので、あとで概要報告はして頂きますが、瀬崎さんよろしくお願いします」
あ、本当に全部任せる気だ・・
「それでは失礼します。あ、私のいる部署はそちらの渚さんが知っているので、何かあったら彼女から聞いてください」
そう言い残し、島津さんは部屋を出ていった。
「ではよろしくお願いしますね、責任者さん」
「・・・・・・はぁ」
「そこまでわざとらしくため息つかなくても!?」
「・・あいかわらずですね」
「・・・なんと言うか、お疲れ様です」
早速「部下」から、三者三様の声を頂きました。
「・・まぁ、ため息ばかりついていても始まらない。そんなに期間もないことだし、決められるところから決めていかないと」
「そうなると、皆瀬が出る場面とかでしょうか?」
野上さんの言葉にうなづく。
「だね。島津さんの言うように、「予選と決勝の間の休憩時間」か「表彰式の後」が現実的だと思う」
「はいはーい。提案と言うか要望!」
「黙れ元凶」
「ヒドイ!!」
だが、渚氏がこれくらいで自分の主張を引っ込めるはずもない。
「・・・まぁ、聞くだけ聞きましょう。どうぞ」
「私も、皆瀬さんと一緒に仕事したい!」
「却下」
「ヒドイ!!!」
と、お決まりのやり取りを済ませると、改めて尋ねる。
「・・皆瀬さんと一緒の仕事をするってことは、表舞台に出るってことだぞ?渚氏は、メディア露出好きでは無いのだろう?」
抜群なほどの容姿端麗で、大会社の社長令嬢。芸能界入りしている方が自然なのに、それをあえて断っているくらいだ。
「なるべくなら顔出ししたくないけど、皆瀬さんとは仕事してみたい」
無理ゲーみたいな条件辞めて。
「・・じゃあ、「着ぐるみ」でも着てやってみる?」
「着ぐるみ・・・いいかもですね」
「さっちゃん!?」
俺の投げ槍ともいえる言葉に、思わず賛同したのは彩音ちゃんだった。
「もちろん着ぐるみ自体は冗談の域ですが、要は、顔出ししないで表舞台を務められれば良いってことですよね?」
「MC。声だけの出演とか?」
野上さんが思いついて言う。
「それでもいいですが、せっかくのゲームの大会です。・・アバター。「バーチャルキャラ」としての出演はどうでしょう?」
「バーチャルキャラ!?」
バーチャルキャラとは、ざっくり大まかに言うと、ネット世界、「バーチャル空間における独自のキャラ」だ。そこにいるのは、「あくまでその場所におけるオリジナルキャラ」であり、年齢、性別含め、演じている人物と隔絶していても、悪意が無い限りは基本問題ない。
そして、そういったキャラの素性を詮索することは、本人が了承しない限りはタブーとされている。
「確かに今回の条件にはうってつけだけど、そう簡単にバーチャルキャラなんて作成できないでしょ?今の状況で島津さんたちに依頼するのも難しいし」
「・・最低限のものならば、半月あれば、私が作れると思います」
「彩音ちゃんが?」
これには驚いた。最近の学生さんはパソコンの授業もあると聞くが、そんな所まで教わっているのだろうか?
反射的に、彼女の同級生である渚氏を見る。察したのか、首を振って答える。
「流石に、授業では習いませんよ。さっちゃん、そんなことできたんだ」
「なんと言うか、趣味が高じてと言うか・・」
なるほど。そう言えば彩音ちゃんはオタク、サブカルチャーが好きと言っていた。俺を含めオタクの中には、「観る」だけでなく「自分で作る」ことも楽しむ人もいる。彩音ちゃんが、それだったのだろう。
「ゲームの大会だから、実現できれば受けは良いだろうな。・・待てよ?渚氏はそれでいくなら、皆瀬さんもそれでいけるか?」
「皆瀬さんは顔出ししないといけないんじゃ?」
「途中まではバーチャルにしとくんだよ。声はボイスチェンジとかにしておいて、大会終了後、中の人がステージに出てくる。となればサプライズにならないかな?」
「いいですね、それ!」
渚氏が賛同。よし。
「野上さんも、それでどうかな?」
「いい演出だと思います。皆瀬も承諾するでしょう。でも、彩音さんの作業負担が大きいのでは?」
「・・作業は増えますが、中身が1体できればそれをコピーして、外側のデザインを変えればいいだけ。なので、何とかなると思います」
「デザインに関しては、さっちゃんが教えてくれれば、私も手伝えると思う!」
「よし。なら、この案で進めよう」
「まずは、彩音ちゃんが渚氏と皆瀬さんが動かすバーチャルアバターの作成。渚氏が、その補助と大会当日のMCと操作。当日の操作に関しては、逆に彩音ちゃんが補佐してあげてください」
「そして皆瀬さんが、大会当日のアバター操作とステージパフォーマンス。野上さんはそのサポートを、できる範囲でお願いします」
「俺は、全体の手伝いと日程調整・・・いわゆる雑用をします!扱き使ってください!」
「「「ハイ!!」」」
「・・・えっと、ご容赦の程、お願いします・・」
こうして、急遽できた部下3名の女性の笑顔で、「eスポーツ記念大会サプライズプロジェクト」は始動した。
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