第13話 After(ただし Sister)

俺と武田さんが出演したYASAKAのPVが巷に流れ始めてから、およそ2週間が過ぎた。

・・・と言っても、俺に関しては自分自身でも「どこに出てるっけ?」と探さないといけないレベルなので、出演したと威張れるほどではない。まぁ、威張る気なんて毛頭ないけど。

なお、新商品「SCWTー01」は3日前に発売されている。発表から約10日での販売開始となかなかにスピーディー。


 だけど、俺自身は新製品はおろか、店頭でPVが流れている様子すらまだ見ていない。

(今日休みなんで、ちょっと見てこようかな?)

などと思っていると、スマホに電話の着信が。いったい誰だ?


「・・・武田さん!?」


なんてタイムリーなと思いつつ、スマホを取る。


「はい、瀬崎です」


「ぁ、武田です。お忙しいところすみません。・・ちょっといいですか?」


スマホの向こうからは、ちょっと困った感じ。


「いいですよ、今日は仕事休みですし。なにかありましたか?」


「はい。例のPVの件でちょっと問題が生じまして・・」


まぁ、俺にかけてくる内容はそれしかないよね。


「どうしました?周囲とかご家族の方から何か言われました?」


「あ、えと、・・周囲からも私は大丈夫ですし、家族からも問題無いんですけどちょっと妹が」


妹さん?そう言えばいるとは、ちょっと聞いた気がするけど・・


「・・と、とにかく、良ければ妹に会ってもらいませんか!?」


なんでそうなるの!?


・・・・・・・


 と言う訳で、武田さんの妹さんと会うことになりました。ホントになぜ?


経緯を簡単に聞くと、武田さんがYASAKAの新製品PVのモデルをやっていることは、妹さんの高校でも話題になっているらしい。あら~

でもってその妹さん。どちらかと言えば内向的なタイプだし、身内のことで自慢したりする事は無い。だけど逆に、モデルをした経緯とか撮影の様子とか頻繁に聞かれても答えられないのが申し訳ないそうで。

その際に親しくなった子から、「じゃあ、お姉さんに聞けばいいんじゃない?」とアドバイスをもらったものの、どうもその武田(姉)さんからの説明ではピンとこないらしく・・・なんとなくわかる・・

もう一人の当事者である自分に、白羽の矢が立ったという状況のようだ。

・・・まぁ、彼女をモデルに推薦したのは他ならぬ自分だし、ご指名ならば行きますか。



で、待ち合わせのカフェに到着し、武田さんとその妹さんらしき子の姿を見つけるが、そこにもう一人、


「・・・なんで、君がここにいる?」


「こんにちは~、瀬崎さん」


武田さん(妹)と思われる子の隣に座り、面白そうに手を振っているのは、


超絶美少女JKの「陣内渚」氏だった・・・




「いやー、みんな想像通りの面白いリアクションだった~。ありがと~、さいちゃん」


三者三様にあっけにとられる自分らを尻目に、陣内さんはそんなことをのたまう。


「・・うん。繰り返しになるけど聞くぞ。なんで君がここにいる?」


「!そう、なんで渚さんが?」


「渚ちゃん、この方とお知り合いなの?」


完全に主導権を握った渚氏がゴチャゴチャのこの状況を仕切ろうとする。・・まぁ、ゴチャゴチャにしたのは本人だけど。


「はい、落ち着きましょう。まずはさいちゃん自己紹介。瀬崎さんは座りません?お店の方が困ってますよ?」


「あ、ああ・・」


「う、うん・・」


俺が空いている武田(姉)の隣の席について、待っていたのかすぐに来た店員さんに注文をお願いする。店員さんが席を離れると、すぐに自己紹介をしてくれた。


「えっと、はじめまして。彩ねえ・・武田彩の妹で「彩音(さいね)」といいます。高校3年です。」


改めて妹さん、彩音さんを見ると、「眼鏡をかけた内気な文学少女」と言った印象。でも顔はもちろん、雰囲気、話し方も「あ、妹だ」と思わせてくれる程度に似ている。


「そして私は、さいちゃんこと彩音ちゃんと同級生の陣内渚でーす」


「知っとるわ。・・いや、同級生って同じクラスってこと?」


「いえいえ、そんな同じクラスだなんて!!同じ学校の高校3年同士です!!」


「あっと、・・つまり、クラスは違うってことね」


「ですです!」


同じクラスって所に何故か敏感に反応する彩音さん。その理由を知っているのだろう、横でニマニマと様子を見ている渚氏。く、そんな表情でも画になるから質が悪い!


「じゃあ、俺も自己紹介するね。瀬崎臨也。見ての通り普通のおっさん会社員です」


「「いえいえ、おっさんだなんて!」」


「うん、おっさんだ」


俺の親父的なギャグに真面目に反応してくれる武田姉妹と、わかった上で飾らない渚氏。対照的だなぁ・・いや、後者が失礼なだけか。まぁホントだし気にしないけど。


「それで、本題だけど、」


「その前に、紛らわしいから「彩」さんと「彩音」ちゃんでいいんじゃないです?あ、可愛い姉妹を呼び捨てにしたいなら、許可を取ってくださーい」


・・・呼び捨ては論外だわ。


「えっと、じゃあ、武田さんたち、その呼び方でいい?」


「え!?」


「まさかの初対面呼び捨て!?」


「わーお、大胆!」


「違う違う!「彩さん」と「彩音ちゃん」って呼んでいいかなってこと!こっちも本人たちの許可いるっしょ?」


「・・ああ、そういうことですか」


「なんだつまんない。このチキンやろう」


えっと、彩さん?なんで若干沈んでるんでしょう?あと、そこの美少女は発言に気をつけやがれください。


「え?え?」


いきなりのこのノリに、目をパチパチしながら見回す彩音ちゃん。初対面の彼女には悪いなぁ・・・



「えー、では。武田姉妹を今後「彩さん」と「彩音ちゃん」と呼ばせていただきます。よろしいでしょうか?」


「問題ありません」


「えっと・・お姉ちゃんが良いなら」


よし。これでやっと本題に戻れる。


「失礼します。こちらご注文のブレンドでございます」


話の腰を折るつもりは当然ないだろうが、絶妙なタイミングで先程注文していたブレンドコーヒーが置かれた。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


よろしいです。お仕事お疲れ様です。


店員さんが離れるのを確認すると、気を取り直して本題に。


「さてじゃあ」「その前に!」


ええい、渚氏!


「まだあるんかい!?」


「・・声に出ちゃってますよ?」


おっと、こりゃうっかり。じゃなくて、


「陣内さん、まだなにかあるん?」


「そうそう、それです」


人差し指でこちらを指さし、何故かジト目の渚氏。


「人を指さすんじゃありません。って、どのそれ?」


「呼び方です。ヨ・ビ・カ・タ!なんで私だけ苗字呼びなんです?」


「なんでって、君は兄弟姉妹いないでしょ?え、いるの?」


「・・いないですけど」


「だったら必要ないじゃない。Q.E.D.証明終了」


「そうだけどそうじゃなくて!・・・わかっててやってますよね」


「いや~、「証明終了」は、一度は言ってみたい台詞だよね!」


「・・気持ちはわかるから、余計苛立つ~~」


「私はその元ネタ自体知らないかも・・」


「瀬崎さん瀬崎さん」


見かねて忠告しようと、隣から耳元に小声で話しかけてくる。うん、相変わらず距離感、変だよね。


「話が進まないんで、意地悪してないで渚ちゃん名前呼びしてあげてください」


「いやー、ごめん、反応が面白くて」


「それはわかりますけど」


「もしもーし?聞こえてますよー?」


再びジト目抗議の渚氏。うん、俺は聞こえるように言ったもん。

・・彩さんは本気で聞こえてないと思ったのか、飛び上がってたけど・・


「じゃあ、陣内さんは渚・・氏呼びでいい?」


「なんで!?」


「いや~、今更「渚ちゃん」は違うし、「渚さん」は、なんて言うか俺が負けた気になるから、その中間の「渚氏」で」


「どんな基準ですか・・」


「どうしよう、お姉ちゃん。意味がわからないかも・・」


む、我ながら、武田姉妹を戦々恐々とさせてしまった。・・が、


「ぬう、・・そういう事なら。不本意ですが「渚氏」で妥協しましょう」


「え、わかったの?」


「渚ちゃん、すごい・・・」


「わかったのか・・・」


「なんで瀬崎さんが驚いてるんですかぁー―!?」




「さて、和気藹々となったところで、本題を始めようか」


テーブルに肘をつき口元で軽く手を組む、いわゆる「ゲンドウさんポーズ」を決める。


「・・・職場のデスクとかならともかく、喫茶店でそのポーズは礼儀正しくないですよ」


「あ、ごめん」


渚氏に指摘され、慌ててポーズを解く。うん、このネタも知ってるかぁ。


「えっと、・・・だいたいなんとなくわかりました」


唐突に彩音ちゃんからコメント。うん、それは、わかってない時の台詞なんだよなぁ。


「つまりお姉ちゃんはそちらの瀬崎さんにそその・・・勧められてモデルをやったってことですね」


うん、一見間違ってないけど、多分大筋で誤解されてるーー!


「えっと、さいちゃん?別にお姉ちゃん、瀬崎さんに言われて嫌々モデルやった訳じゃないから」


「・・・じゃあ、そもそもどこで、お姉ちゃんと瀬崎さん知り合ったのよ」


・・まぁ、彩音ちゃんから見たら、普通に学生やってると思ってた姉からいきなり「大企業のPVモデルやりました」報告。そのきっかけがこの人です!とか言われたら、関係を疑問視されても仕方ないかぁ。まさか、「4話参照で」なんて言えないし・・


「・・わかった。モデルを依頼したのは俺だから、その経緯含めて説明するよ。ちょっと長くなるけど、いいかな?」


「もちろんです。そのためにお呼びしたので」


俺は、語弊がないか隣の彩さんの反応を見ながら、俺と彩さんが会った時からモデルを依頼するまでの経緯を説明した。


「・・・ということで、彩さんの家電に対する知識と熱量を買って、当初俺がやる予定だったデモモデルを、急遽依頼したんだよ」


「彩さん、可愛いですしね~~」


「渚氏突っ込まないで・・・それも考慮したのは、否定しないから」


「えっと・・」


可愛いと言われ、照れてもじもじする彩さん。そういう態度は、男どもに勘違いされるから注意しようね。


「・・・わかりました。確かに、見せてもらったPVのあや姉は、ビックリするくらい活き活きしてました。それ自体が理由と素直に受け止めることにします」


「そうご理解いただけると、助かります」


流石、武田の妹さん!


「・・じゃあ、この話はこれで終わりって事で、渚氏?」


「はい?」


何が面白いのか、ニヤニヤ顔で聞いていた渚氏に切り出す。


「では改めて、・・君はなんでここにいるの?」


「・・・いいじゃないですかぁ~。話も終わったようだし今更そんなこと~」


「私も・・・気になります」


好奇心旺盛な農家の御令嬢!・・・ではないけど、偶然出たその台詞に動揺する俺・・と、様子を見るにたぶん渚氏。


「お姉ちゃん・・その台詞」


妹さんもコレ、知ってた―――!!


「え?え?」


自分以外の3人の反応に、先程の妹と同じような反応をする姉であった。



「私がここにいる経緯かぁ~。そりゃあ説明しますけど、さっちゃんの方が、最初からちゃんと説明できますよ?」


「「え?」」


 今までが今までだったので、つい自分も彩さんも渚氏が乗っかってたと思ってたけど、彩音ちゃんがきっかけ?


「・・・何か、不本意なこと考えてません?」


ノーコメント。俺と彩さんは、彩音さんの方を向く。


「そうですね。では私から、つい先日あったことをお話します」


―――――――――――


 彩音ちゃんの告白が始まる。


「私はアニメや漫画、ゲームが好きだけど、至って普通の女子高生です」


あ、やっぱそうだったんだ。


「運動神経は壊滅的だし、勉強も平均点行けばいい方かな?くらいです。お姉ちゃんの足元にも及びません」


彩さん、そんなに成績いいんだ。


「だから学校では、目立たない日陰者です。ぁ、でも学校生活が嫌とかじゃないですよ?趣味の合う子も結構いますし。ただ客観的に目立つ存在じゃないってだけで」


反射的に渚氏を見る。この子はいろんな意味で目立ちそうだなぁ・・

「ジロジロ見ないでもらえます?」みたいな表情を返されたから、話にまた集中する。


「・・・そんなある日、普段は連絡ごと以外は特に話さないクラスメートから聞かれました。「YASAKAの新製品のデモに出てるのって、武田さんのお姉さんってホント?」と」


ぁー、ここで繋がる訳か。


「彩姉からそのことは聞いていたし、隠す必要もないと言われてたので、私は正直に「そうですけど」と答えました。その瞬間!世界が変わったのです!!」


どうでもいいけど、この子、話の盛り上げ上手いなぁ・・


「「えー、本当!?」「ナニナニ!?」「今話題のYASAKAのモデルって、武田さんのお姉さんだって!」「ちょ、マジ!?」」


「・・・ダイジェストで言うと、こんな感じになりました」


「・・すんごい事になっちゃったわけだ」


「そんな事になっちゃったの?大企業のPVって凄いんだねぇー」


一人だけ若干ズレたコメントをする隣の女性を、3人そろって凝視する。


「え、なに?」


俺は瞬時に妹さんに目くばせすると、即座にコクリと大きくうなづき返された。そして、その隣の美少女とヤレヤレと首を振り合うと、3人揃って、大きくため息をついた。


「3人揃って、何なの―!?」


お姉さんは、当面考えてください。



「・・まぁ、話を戻しますと、クラスの多くは「いろいろ聞きたい」。でも私は「よく知らないので答えられない」という状況が出来ちゃった訳です」


ぁー、それでか~。・・・あれ?ところで問題の人は?


「そんな時です!ざわめく教室のドアをバーン!と開ける方がいました。・・その音で瞬時にクラスメイトは黙り、私含めて全員が開いたドアの方を見ました。そして別に意味のざわめきが起こったのです!」


あ、ここで渚氏登場な訳だ。


「容姿端麗にして才色兼備の社長令嬢。我が校で知らない者はない、「陣内渚」その人が悠然と立っていたのです!」


話に浸っている彩音ちゃんに聞こえぬよう、小声で残った3人で確かめ合う。


(・・実際、そんな感じだったのん?)


(表現は多少大げさですけど、大体そんな感じでしたよ?)


(うっわ・・)


彩さんが若干引いた。わかるわぁー


「そしてその我が校の至宝、陣内渚はこう言ったのです。「武田彩音さんはどちらです?」と」


「瞬間、周囲は静まり私が反射的に「あ、私です」と手を挙げて「そう・・」と歩み寄ると、クラスメイトは瞬く間に道を開けました。モーゼの十戒ってこんな感じだったのかなって、初めて分かった気がしました」


「いや、それはわかってはいかんでしょう」


思わず突っ込むが、完全に話に浸っていて聞こえていない彩音ちゃんは、次の言葉で締めくくった。


「そして、こう言ったのです。「はじめまして。私は陣内渚。あなたのお姉さんの武田彩さんとはお知り合いなので、彩音さんとも親しくしてもらえませんか?」と・・・」


うっわ、そんなこと言ったの!?


慌てて当人を見るに、恥ずかしそうな顔でコクリ。マジですか!?


「・・・それから先は、あまりに怒涛の展開に、私は放心状態になってしまいました」


駄目じゃん。


「その後は私が。・・と言っても一言、さいちゃんのクラスの方々に言っただけなんですけどね」


「「武田さんのお姉さんのPV撮影の件は、私も実際に立ち合っていたので知ってます。聞きたい方は、わたしに聞いてください」と」


「そんなこと言ってたの!?」


「あ、やっぱり聞いてなかったんだ。ええ、言いましたよ。あ、でも、実際に聞かれたことは無いから、その辺は安心してください」


「聞ける訳なんて無いよぉ・・・」


彩音ちゃんが、脱力したような表情と姿勢になる。うん、なにが?


「えーっと、ごめん。彩音ちゃん、なんで聞ける訳ないの?」


「それは、渚ちゃんが「特待クラス」の生徒だからです」


「特待クラス?特待性を集めたクラスってこと?」


「基本的にはそうなんですけど・・」


彩音ちゃんはどう説明したものかと、首をひねりながら続ける。


「えっと、うちの学校って、結構歴史が長いんですよ。そして特待クラスの歴史も長くて」


「ふむふむ」


隣で一生懸命説明している友人を傍目に、面白そうに見ている渚氏。ええぃ、もう!


「なんて言うか、あるんですよ。「特待クラスを下手につつくと、洒落にならないことになる」って風潮が」


「そんな漫画みたいなことがあるの?」


軽く首を振って、続ける。


「少なくとも現代にそんなことあっては問題ですし、・・無いとは思います。ただ、私達が産まれるずっと前には、退学になった事例もあったとか言われてるので・・・」


「あー、なるほど。だから、今回のようなネタは「下手につつかないよう」みんなしちゃってるって訳だ」


「・・・多分そうだと思います」


「ハァ~~」


その学校特有の事情を聞いて納得した。彼女が脱力する訳だ。


「つまりは、・・・今、俺がここにいることは、彩音ちゃんにとって特に意味はないって訳だ」



・・・・・・・



「あ、バレちゃいました?」


 テヘッと悪気の無い表情であっさりと認める。・・まったくこの子は。


「・・えっと、意味がないってどういうことですか?」


聞き逃して気づかなかったのか、彩さんが聞いてくる。コクコクと、あれ?彩音ちゃんも?


「ここに俺が呼ばれた理由、思い出して?「学校で聞かれた時に答えられるよう事情を知っておきたい」ってことだったでしょ?」


「「あ」」


流石に気が付いたようだ。


「そう、そもそも今の時点で「彩音ちゃんはクラスメイトから聞かれない」万が一聞かれたとしても、「実際に現場を見ていた渚氏は知っているから答えられる」」


「・・・つまりは、渚氏が彩音ちゃんと友達、いや、知り合いになった時点で問題は解決してたってこと。」


「その通りです。Q.E.D.証明終了・・・」


く、「Q.E.D.返し」された。ちくしょー!


「「だからそれ、なんなんですか!?」」



自分たちだけが知らないことにブーたれる武田姉妹に、「そんな漫画があって・・」みたいに簡単に説明する。思い通りの展開に満足したのか、渚氏はお花を摘みに席を外していた。


「しっかし、渚氏にはやられたなぁ・・」


本人がいない間のここだけトーク。


「・・でも、これで学校は本当に大丈夫、さいちゃん?」


「・・・まず大丈夫だと思うよ、彩姉」


彩音ちゃんは、ここだけの話を打ち明けてくれた。


「渚ちゃん本人も良く気づいてないみたいですが、うちの学校で「陣内渚」という存在は、特待クラスの中でも別格の一人なんです」


「・・と言うと?」


「具体的にはうちに限らず全国レベルで優秀な生徒会長。あ、もう引退しているから元生徒会長ですね。と、元生徒会副会長。この二人が全国トップ2と言われています」


「渚さんはまさか、ナンバー3?」


姉の指摘に、妹は首を振る。


「渚ちゃん、「陣内渚」は肩書を断っただけで、実質的にはナンバー1と言われてるんです。事実、トップ2の二人も「陣内渚だけは侮れない」と公言しているそうです」


「・・どういう世界だよ」


だけど真顔で彩音ちゃんは続ける。


「冗談みたいに聞こえるでしょうが、少なくともうちの学校では常識レベルの話です。仮に渚ちゃんは良くても、ライバル視しているトップ2が黙っていない可能性も十分にあります。だから、安易につつくことは誰もしないと思います」


「・・・まったく、色々とんでもないな」


「何がとんでもないんです?」


いつの間に戻ってきたのか、気づけば至近距離で聞いてくる渚氏。この子も距離感おかしいんよ!!


「ああ、とんでもなく、渚氏が恥ずかしがり屋って話をしてたんだよ」


途端、渚氏は顔を真っ赤にする。


「は、恥ずかしがり屋って、何が!?」


「あ~、言ってもいいんだ。・・・まぁ、ここにいる以上、言わせてもらうくらいの権利はあるよね?」


「・・・・・・」


「なになに?何の話です?」


「???」


武田姉妹に、説明する。


「事態は確かに解決している。・・でも、彩音ちゃんの中ではどうだった?だから彩さんも俺も説明することになったんだろう?」


「???」


まだわからない様子。えーい、説明が難しいな。


「言い方を変えるよ。事態が解決したってことを、渚氏が彩音ちゃんに伝えるにはどうすればいい?」


「それは」


「そう。さっきの台詞が伝わっていないようなので、もう一度伝えればいい。・・・でも、それはなんか決まり悪くないか?」


「え、それじゃあ」


彩さんは気づいた模様。俺はうなづいて、続ける。


「そこで渚氏は一計を案じた。「今みたいに話の流れを持って行けるように」」


「そのために一から説明する状況を作るには、学外の人物が最低必要。できれば初対面で関係のある人物。俺はうってつけだった訳だ」


「・・・・・」


「それって・・」


耳まで真っ赤にしてそっぽを向く渚氏を微笑ましく見ると、そのまま彩音ちゃんに伝える。


「彩音ちゃん。渚氏はただ、こう君に伝えたかったんだと思う。「学校の方は大丈夫だよ」って。でもひねくれ者だから、自分からじゃなく、不自然じゃない形でね」


「渚ちゃん!!」


涙目で彩音ちゃんは渚氏に背後から抱き着く。彩さんからも涙が。


・・・俺も、涙こらえるので必死だわ。


「・・・瀬崎さん、くさいんですよ」


「・・ああ、我ながらそう思うよ」


彼女は涙を見せない。でも、明らかな涙声で言った。


「でも・・・ありがとう・・・」

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