11.5話 <外伝>女性三人、寄ればかしまし
話は、「株式会社「YASAKA」の新製品紹介PV撮影」終了後まで遡る。
もう少しわかりやすく言えば、「スカウ〇ー」っぽい新製品のモデルを、おっさん会社員が逃げた後の話だ。
――――――――――
(前野視点)
PV撮影を終えた後、今回モデルを勤めていただいた「武田 彩」さんに改めて正式な書類に書いてもらう。
本来こういうのはモデルをしてもらう前にやるものだけど、今回はそんなの無理・・・「あれ」は、いきなりすぎでしょう。
「前野さん、これで大丈夫ですか?」
書いてもらった書類に不備がないか確認する。
「・・・・・大丈夫です。ありがとうございます」
「良かった~~。こういった書類を書くの慣れてないからか、緊張して疲れました」
「慣れてないとそんなものですよ。お疲れ様でした」
「終わりましたか?」
タイミングを測ってたかのように、女子高生がひょこっと顔を出す。
彼女の名前は「陣内 渚」。テレビなどはあまり観ないため芸能人などに疎い私ですら、タレントやアイドルと言われてすんなり納得できるような容姿の持ち主。学校の成績も良いらしい。それに加えて「大企業「JINNNAI」の社長令嬢」という天が二物も三物も与えたような人物。私と渚さんが出会ったきっかけも、現在の部署のトップである「三橋 至」専務が彼女の父である「陣内 隆利」と懇意にしているからである。
「ええ、終わりましたよ渚さん。お待たせしてすみません」
「待たせちゃってごめんなさい。渚さん」
「いえ、そんな待ってないんでいいですけど、って、渚さん・・・?」
あ、渚さんが初対面の女性から名前呼びされて困惑してる?
「えっと、名前呼び、駄目でしたか?」
「・・・べつに、問題ないですけど」
渚さんが照れてる!?・・・珍しいし、年相応でなんだか微笑ましい
「良かった!あ、私のことも彩って呼んでください」
「あ、それは遠慮しときます」
冷めた表情で返答する渚さん。「え~、なんでぇ~?」とじゃれつく武田さん。・・・本気で嫌がっている訳じゃなさそうだし、いいかな?
「・・・君らホントに仲良しやね?帰るぞ~」
呆れた表情で声をかける瀬崎さん。あれ?
「え?瀬崎さんも一緒に帰ってくれるんですか?」
「・・・自分でモデル頼んどいて、先に帰るほど非情じゃないつもりだから」
ああ。至極ごもっとも。
「前野さんも今日はありがとうございました。失礼します」
「前野さん、ではまた」
「ありがとうございました!失礼します」
別れの挨拶をされ、私はとっさに言った。
「待ってください。私もそこまでご一緒します」
(・・・なんで、私あんなこと言ったんだろう?)
まぁ、気分転換と言う事で。残務はあるけど、急ぎはないからと自分に言い聞かせる。
3人の行き先を聞いたところ、駅までは一緒と言う事でそこまで一緒に行くことになった。
その途中、街頭モニターで新作映画公開予定の宣伝が流れていた。
「あ!この映画「僕の選んだ恋人」って、話題になってますよね!」
「・・・言われてみれば、ネットでちょっと見たような」
「ニュースでちょっと聞いた気がしますが、話題なんですね」
はしゃぐ武田さんに、流行とかに疎い渚さんや私が冷静に答える。
「・・・私もそんなにトレンド詳しくない方ですけど、お二人、相当ですよ?」
・・・自覚してます。と、「男性の方はどうなんだろう」となにげなく瀬崎さんの方を見ると、
「ああ、映画できたんだ。・・よかった」
なんとなく感慨深そうな声で呟いていた。あれ?
「・・・よかったって、珍しい感想ですね?」
私と同じ事に気づいたのか、渚さんが詰め寄っている。
「え?・・・なにが?」
(ぁ、瀬崎さん、動揺している?)
「なにがって、こういう時の感想って「楽しみ~」とかじゃないですか?・・・まぁ、瀬崎さんなら「そうなんだ。知らない」も大概ありそうですけど」
「・・否定はしない」
しないんだ。悪いけど、確かにそんな感じがする。
「なのに「よかった」って、映画製作に何か関わってたりするんですか、瀬崎さん?」
「うっ・・・」
困ったようにそっぽを向く瀬崎さん。やがて、
「関わったっていうか、ひょんなことから演技指導っぽい事をやったんで」
「「演技指導!?」」
驚いて同時に聴き返す渚さんと武田さん。私も驚いた。
「え?演技指導なんてできるんですか!?」
「誰ですか!?知ってる俳優さんですか?」
興奮して詰め寄る二人。気持ちはわかる。・・私もそうしたいし。
「だから、演技指導っぽいのだって。・・名前は確か、皆瀬さんって方」
「「皆瀬って、皆瀬瑠衣!?」」
またハモった。渚さんも今かなり有名な「皆瀬瑠衣」は知っていたらしい。
「え、なんで?瀬崎さん、あの「皆瀬瑠衣」と面識あったんですか!?」
「面識って言うか。俺もよくわからないんだけど、」
女性二人に追い詰められ、しどろもどろに説明する瀬崎さん。
それを聞いていて、私は思い至った。
(これは、三橋専務の差し金のようね)
「皆瀬瑠衣が三橋専務の姪」というのは、社内では結構有名な話だ。専務自身は自分のことを言うタイプではないが、こういったネタは自然と回ってくるのが会社と言うものだ。
そんな三橋専務が、1度会っただけの人物に姪御さんを任せる。どうやら、瀬崎さんをかなり買っているよう。
「まぁ、そんな感じだから、俺はそれっぽい素人意見を言っただけ!うまくいけたのは、皆瀬さんの実力なんだよ」
「・・・ふーん、そうなんですか」
冷めた目線で何故か瀬崎さんを見る渚さん。
「渚、さん?」
「あーっと!駅に着きましたね。瀬崎さん、前野さん、送ってくれてありがとうございます!」
「たけ、彩さんも同じ方向って言ってましたよね?じゃあ、ご一緒しましょう」
「あ、えっと・・うん」
挨拶もそこそこに、渚さんは武田さんを連れて駅に入って行った。なんともはや。
「いきなりどうしたんだろう?」
さあ?・・・何となくわかる気はしても、私は教えませんよ?
「えっと、前野さん、改めで今回はお世話になりました。三橋専務にもよろしくお伝えください」
「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」
そして、私も、瀬崎さんとその場は別れた。
それからしばらく後。
私は「個人的な頼みで申し訳ないのだけれど」という前置きで、三橋専務にあることを頼まれた。
少し考えて、私はある人物にこのことをスマホで伝える。
返事はすぐに来た。
「私も「元々」その映画完成披露試写会には行く予定でした。楽しみです。」
彼女の行動力は、やはり凄い。
映画完成披露試写会の日。
試写会が終わってすぐ、私は「代理」としての一応の責務を果たすべく、奔走した。
そうした後、ある方を見つけて思わずこう呼びかけていた。
「「「あ、いた! 瀬崎さん!」」」
瀬崎さんと渚さん・・・そして皆瀬瑠衣さんと合流する。
皆瀬さんとは初会話をさせて頂いた。
・・・私が皆瀬さんと話して受けた印象は、「芯の強い人」と言うのが一番大きい。
もちろん、アイドル特有のオーラみたいなものはある。でも、「特別」というよりは「親しみのもてる」イメージ。・・生粋の美形である渚さんの方が、あるいはオーラを感じさせるかも知れない。
それよりも、「自分の望むことは、なんとしてもやり遂げる」信念を貫くタイプの人に私は見えた。それはきっと芸能人向きの性格だろう。
だから、元々OLだったと聞けば、それが合わなかったのも容易に想像できる。「会社」と言う組織においては、アルバイトや平社員、いわゆる下っ端はまず従順であることを尊ばれる。それは日々の業務を「回していく」上で不可欠だからだ。もちろん、「より良くする」為の改善案やアイデアは言っても良いし、上司はそれを受け止めるべきだろう。でもそれは「日々の業務をきちんとやっている」事が前提だ。
私もまた、「言われたことをこなす」事ができないとは言わないが、「納得しないと乗れない」我ながら面倒な性格なので、似通ったタイプかも。・・OL時代の彼女に会ったらヘッドハンティングしていたかも知れない。
そんな風に考えていると、ひょんなことで渚さんが「株式会社「JINNNAI」の社長令嬢」と瀬崎さんにバレた。監督に挨拶に行く渚さんと皆瀬さんを見送ると、
「・・前野さん、知ってたんですよね?」
「当然ですが?」
残った瀬崎さんからの追及に、努めてサラリと返す。
・・内心、面白がって柄にもなく少しはしゃいでしまったのは、秘密にしておこう・・・
渚さんと皆瀬さんが挨拶から戻り、再び4人となって会話をする。
渚さんが瀬崎さんと出逢ったきっかけが「ナンパから助けた」と言うのは初耳だったけど、彼女が意識しているきっかけと言う点ではすんなり納得できた。・・これだけじゃない気もするけど。
その後、瀬崎さんがお手洗いに外れて女性三人になった後、今度は私と皆瀬さんに出会いの話が振られた。
・・・彼女がカードを隠す以上ではないけど、とり立てて言う事ではないので「事実」だけ伝え、私は開放してもらった。
そして、皆瀬さんの番になり、なんともオモシロ・・痛ましいことに
「どんな感じの演技指導だったんですか!?」
「知ってるじゃないですか―――!?」
思いっきり突っ込みを入れる皆瀬さんに、思わずにやけてしまった。
「って、え?ホントなんで知ってるんです?」
素直に不思議がる皆瀬さんに、私と渚さんが説明する。
「そんなことがあったんですね・・・」
「はい。・・無理強いはしません。もし良ければ教えてもらえたら」
無理強いしないと言うより、そもそも彼女は言う必要など全くない。・・ただ、私が何となく聞きたいだけだし、おそらくもう一人の彼女もそうだ。
「・・・あの頃、私は不安だったんです」
ぽつりぽつりと、皆瀬さんが語ってくれる。
「期待の新人とか言われても、私はアイドルとして若くないし、容姿も他の方と比較して格別良い訳ではないと思っています」
彼女の視線が一瞬、渚さんの方を向いてしまうのは、致し方のないこと。
「だから私は、演技でも歌でも、実力でチャンスを掴むしかない。そう思って出来る限り頑張ってきましたし、今もそうです」
ああ、やはりこの方はそういった方だった。
「・・もちろん失敗も何度もしました。その度、自分で考え、あるいは周りの皆さんの力も借りて、何とか超えて来れたと思っています」
「今回の問題でも、これまで同様、自分で考え、周りの方々とも相談しました。・・でも、心のどこかに腑に落ちない所があって、私は普段は頼らない至おじさんに相談したんです」
そこまで言って、ハッと気づいた感じで慌てて弁明する。
「あ!違いますよ!?至おじさんが嫌いだとか頼りにならないではないんです!至おじさんは社会的地位が高くて、姪の私に、ちょっと甘い所があるので私の方がなるべく頼らないようにしているんです」
三橋専務に、子どもさんはいないと聞く。例え仕事一筋でも、かわいい姪の頼みならなるべく答えたいと言うのは容易に想像がつく。
・・・まぁ、仕事と言う訳でもないのに、私に代理を依頼している時点でわかりきった気はするけど。
「そんな訳で、至おじさんに藁にもすがる思いで相談すると、こんな返事が返ってきました。
「演技の役に立つかはわからないが、面白い考え方をした人物と先日友人になった。その友人に頼んでみようと思う」
・・・そうして、引き合わせてくれた方と言うのが、・・瀬崎さんだったんです」
・・・・・・
何となく場に静寂が訪れる。
その静寂を破ったのは、3人の中で一番若くて一番の美少女だった。
「・・・まぁ、なんというか、「瀬崎さんっぽい」話ですね」
私も、そして皆瀬さんも、同時にうなづいていた。
「そして瀬崎さんと会って、・・最初は何も聞かされてなかったらしく、ただ唖然としていました」
それはわざと伝えなかったのだろう。・・・まったく、専務のようなタイプは意地が悪い。
「でも、私が詳細を伝えると、・・・あの人は、目の色を変えて真剣に考えてくれました」
・・・・・・
私も彼女も何も言えなかった。
「そして、私の問題の演技を一通り見た後、・・・私自身にも周りの方々にも無かった観点からの助言をしてくれました。結果、その助言が見事に当たり、私は最後までいけたと思っています。彼が最初に告げたように、今回たまたま上手くいった偶然かも知れません」
皆瀬さんは少し顔をあげて、やや興奮したように言い放つ。
「・・・それでも、初対面の私にあれだけ真剣になってくれたことに感謝したいんです!」
・・・・・・・
彼女は照れたように続けた。
「えっと、と言っても、私が勝手にそう思っているだけで、瀬崎さん自身は誰に対してもそうなのかも知れないですけど」
・・・その考えは、私も否定しない。
私も同じ考えだからだ。そして多分、聞いていたもう一人の彼女も、同様に考えている。
それでも彼女は、強いから、教えてあげる。
「・・・そうでもないんじゃないですか?」
「えっ?」
渚さんは、皆瀬さんに対し、労るように恥ずかしそうに、言った。
「この映画の完成の宣伝を見た時、・・・嬉しそうに言ってましたよ。「良かった」って・・・」
「え?・・・ええっ!?」
芸能界に疎い私ですら知っている有名女優が、みるみる間に顔を赤らめるという光景を、私はこの時初めて見た。
「あれ?皆瀬さん、顔が赤いですよ?お酒飲まれました?」
だからこんな風に方向違いの質問をされても、私も彼女も彼女も答えない。
・・・だってこれは、「乙女の秘密」なのだから。
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