第10話 完成披露試写会

「瀬崎さん。・・・今から、少し会えます?」


「・・・またいきなりですね。緒方さん」


 俺は仕事中、原則スマホは見ない派だ。

今日の仕事が終わってスマホを確認すると、およそ一時間前に緒方氏からメッセージが届いていた。内容は「気づいた時で良いので電話ください」。

時間が経ち過ぎているので申し訳ないと思いつつ、一応電話を掛けてみるとこれである。


「まぁ大丈夫ですけど、どこへ向かえばいいですか?」


「えっと、ここは、喫茶「悠久」ってところですかね?」


「・・・・・ちなみに、近くに目立った店あります?」


「ブティック「道玄坂」って言うのがあります」


「会社のすぐ近くやんけ!!」


俺は即座に電話を切ると、急いでここから200m程にある喫茶店「悠久」に向かった。

向かっている俺を窓越しに見つけ、ひらひらと手を振る緒方氏。その光景を見た瞬間、めっちゃイラっとしました まる



「いやー、お疲れさまです。瀬崎さん」


「・・・お疲れ様っス、緒方さん。待たせてすみませんね」


「いやいや。ここに来たのは、ほんの30分くらい前なのでお気になさらず」


 相変わらず皮肉が通じないなぁ、この人。

俺は店員さんにホットコーヒーを注文し、席に座る。


「それでなんでここに?もちろん偶然ではないですよね?」


「もちろん、偶然ではないですよ」


緒方氏は俺が来た方向、すなわち俺の勤めている会社の方を見て言った。


「・・状況がやや特殊ですが、瀬崎さんが私の受け持つ患者の一人と言うのは間違いないですからね。「例の」病気の可能性含めて、「ストレスのありそうな職場」か見るのに、会社近くの環境も関係すると言うのが私の持論ですので」


「なるほどなるほど。・・・嘘ではないでしょうが、一番の理由は?」


「そりゃあ、瀬崎さんの慌てる様子で面白がるためですよ。・・・あ、」


「うん、そうだと思いました」


そんなバカな会話をしていると、店員さんが頼んでいたコーヒーを持ってきてくれた。


さて、定型的な挨拶はこのくらいにしますか。


俺はコーヒーを一口すすると、真面目な表情で本題に入る。


「それで今回の要件と言うのは?「例のプログラム」関係ですか?」


こちらの変化を察した緒方氏。彼もまた表情を真面目にするも、


「ん~、プログラム関連と言われればそうかもですが、あの件は私の考えたプログラムと言う訳じゃないですから、どうでしょうね~」


ワザとらしく歯切れ悪く返答する。

俺もわざとらしくため息をつくと、すっぱり言った。


「単刀直入にお願いします」


「招待状を預かってきました」


そうそう、こんな風にきっぱり言ってもらった方がわか・・・らない、だと・・・?

俺は冷静になるよう、眉間を抑えながら、確認する。


「すみません、招待状って言いました?」


「言いましたよ」


戸惑う俺を、緒方氏は面白そうに見ている。ええい、その目ヤメイ。


「・・・降参です。どういう事か説明してもらっていいですか?」


「本当にわからないのですか?」


わかりませんとアメリカン風ジェスチャーで返すと、緒方氏はやや呆れたように説明を始めた。


「「僕の選んだ恋人」と言う映画が今度公開されると言うのを、ニュースとかで聞いたことはないですか?」


「それは聞いたことありますよ。確か、皆瀬さんも出る映画で・・・え?」


「そういう事です」


緒方氏はバッグから、一通の封筒を取り出し、テーブルに置く。


「「皆瀬瑠衣」さんからあなた宛てに、映画の「完成披露試写会」の招待状です。どうぞ」


「えっと・・・」


俺はこの状況に、動揺を目の前の人物に正直に伝える。


「すんません。・・・「完成披露試写会」なんてテレビの中の話と思ってたんで、どうリアクションすればいいか」


「プッ」


突然吹き出した緒方氏。


「・・笑わなくてもいいでしょう」


「いや、ごめん。君を笑った訳じゃないんだ。私も招待状もらった時、同じ感じだったと思うと、つい」


「え?緒方さんももらったんですか?」


「そりゃあ、そうだ。私も君と一緒に行っただろ?」


「確かに・・」


なんで俺は、自分だけもらったと思ったんだ?恥ずかしすぎるだろ。


「と言うより、俺も緒方さんもたった一度、しかも10分ちょっとでほとんど会話もしていない。なのに、「招待状」なんてもらっていいものなんですかね?」


「招待状を送る相手なんて、その人次第だよ。逆に受け取らないと、相手に失礼とも言える」


「それは・・・そうですね」


俺はテーブルの上の招待状を手に取る。


「せっかく頂いたので、行けるようなら行きます」


「ああ。確かに渡したからね」


その後は、俺と緒方氏は軽く近況を話し、別れた。



 家に帰り、招待状を開けて確認する。子どもではないが、初めてなのでちょっと緊張した。

中身に目を通し、肝心な披露試写会の日時を確認する。


「ちょうど休みの日だ・・」


断る理由など何もなかった。



―――――――――――――――


 「映画完成披露試写会」当日。


「うー、緊張する・・・」


思わず口に出てしまった。「いい大人が何を」という方も多いと思うが、このような芸能界っぽい所に行くのは初めてなので、許して欲しい。

しかも・・・しかもだ!


「緒方氏、急な仕事で来れないかぁ・・」


仕事は大事だ。それは仕方ない。でも、でもさ、


「なんやねん、この「出来れば皆瀬さんからサインもらってきてね。テヘッ」って!?しばくど!!!」


あ、我ながら超大物芸人さんばりに言えた!だって、本気で思ってるもん。

ただでさえ「全く知っている人のいない未知の場」で、「一応レベルでしか面識のない主演女優さん」からサインをもらえと?

無理ゲーにもほどがある!!そんなゲームあったら、少なくとも俺は買いません・・・買えません。


「せめて、招待してくれた皆瀬さんに迷惑が掛からないよう、目立たない所でじっとしていよう。そうしよう」


 こんな風に思っていた時期もありました・・・




「みなさま!本日は、お忙しい中お越しいただき、誠にありがとございます!これより映画「僕の選んだ恋人」の完成披露試写会を始めさせて頂きます!!」


 司会進行の男性から始まりの挨拶が行われると、一斉にカメラ音とフラッシュが生じる。うぉ?報道陣の数すっご!!


「まずは本映画の監督を務めた永井より、挨拶をさせて頂きます」


監督と紹介された男性が壇上に立つ。へぇ、結構若いんだなぁ。


などなど思っている内に、「さっそく映画を観ていただきましょう」と言う事で、映画の上映が始まる。

招待された席は・・あれ、結構いい所じゃない?偶然かな?

素直にラッキーと思いつつ、映画を観させていただきましょう。




 エンドロールが流れ終わる。


素直に余韻に浸る。なんだろう?感動もだけど、それよりも「人生について考えさせられる」感じ

ぶっちゃけアニメ好きゲーマーなので、知っているアニメ映画ならまだしも、邦画の良し悪しなど自分がわかるはずもない。

それでも自分なりに「僕の選んだ恋人」と言う映画の感想を言うなら、「意外性の勝利」?

事前に「皆瀬さん演じるヒロインが主人公から選ばれない」という情報を知っていたにも関わらず、上手くやられたと思う。

最終的に選ばれた「もう一人のヒロイン」は、劇中ほとんど目立ったことはしていない。にも拘らず思い返してみると、「目立たないところで好きな人の事を考えて行動していたんだろうなぁ」と想像できるのだ。

まったく、映画監督って凄いなぁ。・・・今後は邦画もチェックしようかな?



 映画の余韻冷めやらぬうちに、今度は舞台挨拶のため主演俳優の方々が壇上に。そこには皆瀬さんの姿もあった。

つつがなく舞台挨拶が進む中、「今度の映画で大変だったところがあれば一言」と言う質問に対し、


「今回、主演と言う初の大役を頂きながら、まだまだ未熟な演技のため、撮影中はご迷惑をかけてしまう事が多々ありました。それでも、監督さん始め・・・色々な方々の御助力を得て、本日無事に映画をお届けすることができて、本当に感謝しています!」


と言う皆瀬さんのコメントが、一番印象深かった・・・



 舞台挨拶が終わり、許可された取材はここまでなのか報道陣の方々が撤収を進めている。俺はと言えば、


(招待状に書かれていたプログラムだと、次は招待者だけのレセプションらしいけど、・・正直気後れするさ・・どうすっべ??)


などと、心の中で似非田舎者口調になるくらい狼狽えていた。だって世界が違うんだもん。

・・・ちなみにレセプションは「招待会」とか言う意味らしい。ググった。


などと馬鹿なことを考えながら会場に向かうと、


「やっぱりそうだ!すいません。失礼ながら、ちょっとお話良いですか?」


声を掛けられた方を向くと、自分より少し若いと思われる見た目の男性が。腕章をつけているので、映画スタッフの方の一人だろう。


「あ、はい。・・・ええっと?」


そこで戸惑ってしまう。声をかけてくれた方の名前がわからないのだ。

それどころか会ったことも・・・いや、どこかで?


声を掛けてくれた男性も、「何と言えばよいか」と言った感じで苦笑とも照れ笑いともとれる表情で話してくれる。


「私のことがわからなくても仕方ないですよ。・・・多分、5,6年前くらいに一度会っただけですから」


5,6年前と言えば・・・あ!?


「ひょっとして、私からパソコンを買ってくれた方ですか!?」


「そうです!その節は、本当にお世話になりました!」


俺はその時のことを鮮明に思い出した。




 当時俺は、某大手家電量販店に勤めていた。平社員で販売実績も良いとは言えないが、キャリアと知識はそこそこだったと思う。

担当は「パソコン周辺機器」の販売である。その日普通に接客していると、CGを勉強しているというあるお客様と妙に会話が弾んだ。

そして会話を進めるうちに、「実はPCそのものも買い換えようと思っているのですが・・・」となった。一応、その予算を聞いてみると、現行機種の中くらいのスペックの値段。お客様のしたいことを考えると、スペック的に厳しい。


だがそれは、メーカー製最新現行機種での話だ。


俺は、主に裏方で作業をしている後輩社員がつい先日やっていた仕事を思い出す。「すいません、少々お待ちください」とお客様に断り、その場を離れた。

無線レシーバーでその社員のいる所を確認し、見つけるや否や開口一番すぐに確認。


「ごめん。この前やってた二つ前のあれ、まだある?」


いきなりで驚く後輩社員。だが、すぐに理解し、


「まだありますよ!すぐに売れる状態です!」


「サンキュ。ちょっと抑えといて」


「了解です!!」


冗談交じりに敬礼する後輩社員を後に、俺はPCフロア長・・PC部門で一番偉い人の所へ向かった。


「・・・いや、さすがにその値段では出せんぞ」


想定していた答えであったが、そこは食いつく。


「そこをなんとか、お願いします!!」


PCフロア長は、考え込みながら俺に尋ねる。


「・・・と言うか、おまえPC担当じゃないだろ。なんでそこまで必死になるん?」


「そりゃ、このお客様に使って欲しいからですよ」


当たり前のように俺は答える。PCフロア長はため息をつくと、


「・・・さっきのプラス2万。それならいいぞ」


「ありがとうございます!」


十二分に破格な値段だった。




「大変お待たせしました。お客様、最新モデルのPCではありませんが、今のトップ・・から2番目くらいのスペックのデスクトップPCがお客様のご予算・・・プラス1万で買えますが、ご検討いかがですか?」


息せき切らして戻った開口一番の店員の台詞に、お客様は目を真ん丸にする。・・・あれ?俺、やっちゃった?


「・・・えっと、どういう事でしょうか?」


「あ、すみません、えとですね」


お客様に詳しく説明する。

他の系列店舗の展示で使われていた2世代前の最高スペックPCが、たまたまうちの在庫にあって、すぐに販売ができること。

それを確保し、上長と掛け合ってどうにかお客様の予算プラス1万で販売できるようにしたこと。

(・・・できればお客様希望の予算で買えるよう、フロア長には予算マイナス1万で提示したんだけど、そこまでは無理だったかぁ・・・)


「二つ前のモデルですが、当時のメーカー最高スペック。現行最高・・には正直若干劣りますが、お客様のやりたいことには十分対応できると思います」


黙り込んでしまうお客様。・・・うああ、PCを買いに来た訳ではないのに、勝手にやり過ぎたか?んでも、あれはこのお客様に使って欲しいのは嘘じゃない・・・ええい、言うのは最後までだぁ!


「展示に使ってはいましたが、うちで既に初期化中です。メーカーサポートももちろんつきます」


メーカー製にこだわらなければ、「オーダーメイドPC」や「自作PC」と言う手も浮かんだ。・・だが、「自作」はもちろん「オーダーメイド」もある程度ハードの知識のあるユーザー向けであり、サポート面は弱い(だから安めで提供できると言うのもあるだろう)。

今いるお客様は、話を聞く限りPCソフト的な知識はかなり高い(むしろ俺以上かも・・)と思われるが、ハード的な面では知識と言うより興味自体ほとんどなさそうだった。

以上の事から、俺がこのお客様に今できる精一杯の提案をする。


「あ、もちろん、今この場で判断しなくて大丈夫ですよ。お客様が良ければ1週間ほどお取り置きさせて頂きます。ご検討いかがですか?」


お客様は、「う~~ん」と小さく唸ると、


「・・・すいませんが、今、その商品を見ることはできますか?」


「はい、可能です!少々お待ちください」


状態を見て検討してくれると言う事だろう。俺は喜んで後輩社員の元へ向かった。




「お待たせいたしました。」


在庫のあるバックヤードから、俺がデスクトップPCの本体。

・・・そして、後輩社員がモニターを持ってついてきてくれた。往復するつもりだったので、感謝。


「へー。そんなに汚れとか傷も無いんですね。動きも問題なかったですか?」


「それはもちろん、こちらの彼が責任持ってやってくれているので、大丈夫です」


自信をもって答える自分に、後輩社員も続く。


「はい!私が責任をもってやっておりますので、ご安心ください!」


後輩社員の自信のある言葉が決め手となったのか、お客様は、


「・・・わかりました。では、それをください」


おっし、購入決定。


・・・は? 「購入」?


「えっと、失礼ですが、本日ご購入でしょうか?お取り置きではなく?」


「購入ですよ」


「驚かされてばかりの店員を驚かすことができた」と言った表情で、お客様は断言する。

これ以上自分が言っては本当に失礼だと思ったが、後輩社員が


「えっと、すみません。私から見てもお客様は迷っていらしたようなので、よく購入まで踏み切ったなぁ、と」


余計なこと言わないの!でも個人的に聞きたかったので、ナイス!!


「ああ。「店員さんが提案してくれた時点」で買うつもりだったんですよ。ただ、自分にとって安い買い物じゃないので、清水の舞台から降りる覚悟をしていただけです」


「最初から買うつもりだった、ですか?」


「ええ」


お客様は当たり前のように言ってくれた。


「ここまで必死に薦めてくれるパソコンなんて、すぐに使いたいに決まってるじゃないですか」


「!!先輩!梱包作業は自分がやるんで、本体バックヤード置いたら、お客様とお会計に行ってください」


「あ、いや、それは悪い」


「やらせてください!」


「あ、ああ。それじゃあ、お願い」


どうでもいいが、お客様の前でそんな風に話すんじゃありません。

本体をバックヤードに持って行き、後輩社員に梱包を任せると、俺はお客様の所へ戻りお詫びした。


「すいません、うちのスタッフが変にはしゃいでしまって・・・」


「いえいえ。・・・それより、先程の方以外の店員さんにもなんか見られてる気がするんっすけど」


「大変、申し訳ございません!」


俺は平謝る。みんな~、頼むよ~~

精一杯のフォローをする。


「もちろん!お客様に悪い点はございません。・・・こちらの事情で申し訳ないですが、おそらく、担当者以外が今回みたいな高額商品を販売するのは珍しいからかと・・」


「え?PC担当じゃないんですか?」


「ご安心ください。元々はPC担当なので、私も知識はあります。ではレジまでご案内しますね」


「あ、はい」


レジに移動中もさり気に見られている感じ。ホントに頼むよ~~



ここはかなり大きな店な事もあり、効率化のため接客担当の他にレジ打ち担当が別にいる。もちろん、自分でレジ打ちをやってもいいのだが、レジ打ちの女性スタッフが空いているようだったのでお願いする。


「すいません。レジお願いします」


「あ、瀬崎さん。・・?商品はどこに?」


「えっと、パソコンでっす。持ってきますね」


「は?」


俺はお客様に断り、梱包しているであろう後輩スタッフの所に取りにその場を離れる。



「あの人がパソコンを・・・へぇ~」


「そんなに珍しいことなんっすか?」


「あ、申し訳ありません。珍しいと言いますか、PC担当以外の方にリピートが来て購入されるケースはそんなに無いもので」


「・・・リピートじゃなく、即決なんですが?」


「え!?」


「やはり、珍しいことなんですね」


そんなやりとりがあったことを、瀬崎は知らない。



「ごめん。梱包できてる?」


「あ、瀬崎さん!ちょうど終わったところっす!」


「ありがとう!持って行くね」


「待った待った」


急いでレジに戻ろうとした俺を止めたのは、いつからいたのかPCフロア長。


「瀬崎、・・・おまえ、これ決めたの?」


「あ、はい。値段出してくれてありがとうございました!」


「プラス2で?」


 俺は苦笑いで誤魔化す。


「いや~、よく聞いたらプラス1でした。はっはっは」


フロア長は、眉間を抑えながら続ける。


「んで、何?今日だけとか言っちゃったの?」


「そんなの言いませんよ。1週間取り置きできるとお伝えしたんですが、今日買ってくれると言う事で。いや~、剛毅なお客様で良かったです」


「・・・・・」


・・・沈黙が怖いっす、フロア長。


「・・・はぁ~」


諦めたようにため息をつくと、


「販促用のUSBメモリまだ残ってるから、それ、おつけして」


「へ?」


「・・あと、ネット契約同時特典のセキュリティソフトあったろ?あれも特別につけていいぞ」


「えっと、いいんっすか?」


販促品と言っているが、購入したなら総額5000円程度。実質5000円の値引きと言っていい大盤振る舞いだ。


「プラス1万即決してくれたお客様へのお礼だ。さっさと行った!」


「はい!ありがとうございます!」


俺は慌てて、お礼もそこそこにレジに戻った。



PCフロア長は呆れ半分で、瀬崎の後輩社員にぼやいた。


「こんなファインプレイ見せられて、そのままにできるかよ」


「ですよね~」


そんなやりとりがあったことも、瀬崎は当然知らない。



「大変お待たせしました。あ、お客様。上より許可が出たので、こちらもサービスでお付けしますね」


「USBメモリはそんなに大容量ではありませんが、最低限必要なデータのバックアップには十分かと思われます。セキュリティソフトも持ってて損はないですよ。どうぞお使いください」


「「え?・・・え??」」


「それではお会計、お願いしまーす」


目が点になるレジの子とお客様を尻目に、お会計も無事に終える。(ちなみにクレジット一括だった。剛毅!!)


売り場の外までお客様をお見送りした際は、「思わずいい買い物ができました。ありがとうございます」と言ってくれたのが印象的だった。




以上。回想終わり!

・・・で、その時のお客様が、今ここにいる映画スタッフさんと言う訳で。


「いえ、そんな。私は店員としてやれることをしたまでですよ。その後、特に問題は無かったですか?」


「問題どころか、今でも快適に使わせてもらっています!」


この言葉にはびっくり、そして素直にありがたく思う。

PCの買い替えは2,3年に一度が相場。長くて5年程度と言われるからだ。


「・・正確には、最新のCGグラフィックでも問題ないオーダーメイドモデルも仕事用に買って使ってますが、趣味で使う分には全然問題ないので現役です!」


この言葉には納得。そして、お客様・・・いや、CGグラフィッカーさんかな?がハード面でも詳しくなっているらしいことに、他人事ながらちょっと嬉しくなった。


なんて、ちょっと朗らかな気分に浸っていると、


「・・・おい、誰だあのきょ・・・ん、ん。・・・スタイルの良い女優のような美人は?」


そんなざわめき声が聞こえ、汗がさーっとなる。

あ、うん、さすが芸能界。美人さんがいっぱいいらっしゃるって事だね、うん。


「現役でCGグラフィックのお仕事ですか!よかったですね!やりたい仕事ができて」


「あ、はい!・・・えっと、どうかされました?ちょっと顔色が悪いみたいですけど?」


「あ、すいません。何でもないですよ」


だが、この世には天使も神もいないらしい。追い打ちらしき、さらに大きなざわめきが、


「お、おい、見ろよ、すっげー美形・・・あんなタレントいたか?」


「なに、あの子!顔もプロポーションもとんでもないレベルじゃない・・・いったいどこの事務所の子!?」


「いや、どこかで見たぞ・・?芸能界とはまたちょっと違う所で・・・」


あ、俺、急用思い出したわ。うん、そうだ、皆瀬さんとかには悪いけど、持病の癪が急用って事で、


「なんだか周囲が騒がしいですね?えっと、汗もひどいですが、本当に大丈夫ですか?」


「え、ええ、全然全く、これっぽっちも大丈夫ですよ」


何とか深呼吸して立て直・・せそうにない!


「そうですか?あ、そうだ!せっかくまた会えたことですし、良ければお名前とか教えてもらうと嬉しいんですけど」


「え、名前、ですか・・?私は」



「「「あ、いた! 瀬崎さん!!」」」



「あ、いた!」じゃなくてむしろ、「あ痛ぁー」だよ!!

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