第8話 改善プログラムその4(モデル体験)

「はぁ~~~~~・・・」


 初っ端からのため息すまない。

だが、こうならざるを得ない俺の気持ちもわかって欲しい。

確かに、自分のため・・・かどうか今だ正直怪しいと思っている「健康改善プログラム」を受けると言ったのは認める。

実際これまで3つ?程、普段と違う事をやらせてもらえた。そういった意味では、緒方医師の言う「偏った生活」に対しての効果はあったのでは、とは思う。


 が、それにしても、それにしてもだ。


「なんで「顔が悪い」と言われたのに、モデルやらされようとしてるんや、俺・・・」


どなたかこの中に、納得のいく答えをくださる方はいらっしゃいませんかーーー!?


 だがまぁ、・・・悲しい事に、やることに変わりはない。いや、ここで俺が「どうしても嫌」と言えば、緒方医師は聞いてくれるだろう。性格は悪いが、医師として無理強いはしないと思っている。大事なことなのでもう一度言う。性格は悪いが。


「・・・まぁ、ここは乗せられますかね。」


誠に不本意ではあるが、全然興味がない訳では無いのだ。



「場所はここで合っている、よな?」


指定された住所に着いた・・はずだが、「○○スタジオ」といった看板みたいなものは見られない。普通の会社ビルといった感じの建物だ。


「・・・まぁ、前回のレッスン場?も似たような感じだったし、多分大丈夫だろう・・・大丈夫だよな?」


俺はおそるおそる、入口らしきところに入る。中に入ると先日のスタジオと似たような感じで、受付らしきカウンターがあり、ホッとする。受付の男性に話しかける。


「こんにちは。すみません、連絡をしていた瀬崎と言いますが。」


「はい、瀬崎さんですね。・・・!!?」


受付の人が明らかに固まった。え?なになに?


「・・・失礼しました。瀬崎さんですね、お伺いしています。関係者に連絡しますので、少々お待ちください」


そう言うや、受付の人は手元の電話をかける。おそらく内線だろう。しばらくして電話を切ると、こう言った。


「お待たせしました。こちらの関係者証を首にかけてもらって、5階のスタジオB前までお願いします。そこで、えっと、・・・担当のものが待っているそうです。あちらのエレベーターをご利用ください」


「・・・わかりました。ありがとうございます」


受付の人の反応に思う所はあるが、関係者証入りのネックストラップを首にかけ、指示されたエレベーターで5階へ向かうことにした。


・・・ちなみに、受付の人の反応の理由は、この後すぐにわかることとなる・・・



チーン


「スタジオB・・・こっちか」


案内板の指示に従い、スタジオBと思われる方向に向かう。そこで待っていた人は思わぬ人だった。


「いやぁ~、瀬崎さん、お久しぶりです!来て頂いてありがとうございます」


「えっと、・・・お久しぶりです、三橋さん」


俺は人の顔を覚えるのは苦手な方だ。

それでも、先日あった講演会を一緒に聞いただけでなく、その後の交流会にも誘っていただいた人を忘れるはずもない。

・・・でもなぜ、この方がここにいるんだ?


「・・・専務。先日の瀬崎さんが、何故こちらにいらっしゃるのでしょう?」


部下と思われる背の高い女性がこちらの会話に入ってくる。あ、この方、確か先日講演されていた・・・えっと、名前は


・・・って、専務?


三橋さんがバレたかといった表情で、胸元から名刺を取り出す。


「いやいや、先日は名刺も渡さず、すみません。私、こちらにいる「前野」の会社で専務を務めております。改めてお見知りおきを」


「はぁ・・・あ!すみません、改めまして瀬崎と申します」


慌てて自分も持ってきておいた名刺を取り出し、名刺交換をさせてもらう。

そこには確かに「専務 三橋 至(みつはし いたる)」と書かれている。


「・・・あまり驚いていないようですな」


「そのようなことはございませんよ。先日のお話ぶりから、上の役職の方かなと想像はしておりました。でもまさか、専務とまでは思ってませんでしたが」


専務とか会社役員の中でも上の方と話したことが無いので、失礼の無いよう丁寧に言おうとするが、おかしいと自分でも思うレベルだ。


そんな俺を見越したのか、三橋専務が笑ってこう言ってくれる。


「ははは、意地の悪いことをしてすみません。私と瀬崎さんは上司と部下では無いですし、これまで通りの話し方でいいですよ」


「いえ、それは流石に」「瀬崎さん?」


流石と言うか、断ることも見越していたのだろう、すかさず被せてきた。

視線が今までと一変して鋭い。ああ、これが上に立つ者の仕事の目か。


「・・・失礼しました。それではお言葉に甘えて、これまでと同じように話させてもらいますね」


「ええ、それでお願いします」


とはいえもちろん、最低限は失礼の無い言い方は心がけないとな。


「それで三橋・・・さん。今日は何故こちらへ?私が来るのを知っていたようですが」


三橋専務は何でもないように答える。


「それは、聞いていたからですよ」


「・・・緒方さんにですか?」


だとしたら、先日の講演会と辻褄が合う。・・と言うか、それしかないだろう。

そして、俺たちの話を聞いていた前野さんが目を白黒させている様子が見えた。・・・緒方氏の名前でこの反応を見ると、彼女は関わっていないようだな。


が、三橋専務は、さらっとネタ晴らしをした。


「緒方医師はもちろん知っていますが、今回は違いますよ。あなたが先日、電話で話したスタッフから直接聞きました。・・・この企画の責任者は私ですからね」


なんですと?


「・・・と言う事は、先日の講演会でも、私のことはすでに知っていたのですね?」


「流石、察しが早い。ええ、緒方君からあなたが講演会の公聴に来ることも聞いてました。・・・あ、午前中に急遽仕事が入ったというのは、嘘ではないですよ?」


その辺は疑ってない。と言うか、問題ではない。この方に聞くべきことは他にある。


「・・・失礼ですが、念のため聞かせてください。「私の今回の件」全てが三橋さんによるもの・・・と言う訳ではないですよね?」


三橋さんは「おっ?」といった表情で、素直に答えてくれた。


「さすがにそれはありません。私が緒方君に依頼・・・じゃないな。「乗った」のは、この2件だけです。」


三橋さんの答えに対し訝しんでいると、さらに続けてくれる。


「瀬崎さん。「今回のあなたの件」は、おそらくあなたが思っている以上に入り組んでいます。・・・まぁ、複雑にした一人が言う事ではないですが」


その物言いは、目の前の専務さんが「私の件」の事情について知っている・・・と同時に、教えてはくれないだろう事を強く匂わせている。


「正直に言いますと教えて欲しいところですが、駄目ですよね?」


「すみませんが。・・・ただ、この企画を終えれば、近いうちに「本人」が教えてくれると思いますよ」


これで三橋さん、緒方氏、そして「本人」の少なくとも3人が関わっていることはわかった。・・・俺一人に対し、妥当かどうかはさておきだけど。


「結局、「モデル」もやらないといけない、って事ですか・・・もう、ここまで来たらやりますけどね!」


流石に「企画人」の前でやる気のない態度はあかんでしょ。それくらいは大人のつもりだ。

それを察してくれたのだろう、三橋さんが感謝してくれた。


「・・・今回も騙す形になって申し訳ありません。どうか、よろしくお願いします」


「とは言え、私は全体を見ないといけないので、まず詳細を前野君から聞いてください」


隣でやり取りをずっと聞いていた女性に委ね、三橋専務はスタジオに入っていった。

・・・期せずしてこちらのことを色々聞かれた、でも自分にとってはほとんど初対面の女性の方(しかも結構美人)と二人・・・なんだこれ。色々やりにく過ぎるぞ・・・


その私への説明を委ねられた前野さんも、心持ち、やりにくそうに話をはじめる。


「・・・では、改めまして前野です。瀬崎さん、どうぞよろしくお願い致します」


「はじめまして。瀬崎と言います。先日の講演、聴かせていただきました。色々と考えさせられることがあり、ためになりました」


「・・・ありがとうございます。では、本日の企画についてご説明させて頂きます」


「まず本日の企画内容ですが、「当社の新製品のネット向け宣伝PV」の撮影となっております」


「え?」


俺は思わず横やりを入れてしまう。


「いきなりすいません。・・・こちらを紹介いただいた緒方さんからは「スーパーのチラシモデルみたいなものだから、そこまで気負わなくても良いです」みたいに言われたのですが?」


「・・・これは私の想像を含みますが、専務、うちの三橋が「PVと言っても、やることはスーパーのチラシとさほど変わらない!どんな仕事でもやる以上は全力だ」みたいに言っていたのを、その緒方さんがアレンジしたのではないかと・・・」


緒方氏。覚悟しといてや・・・


「はぁ。・・・失礼しました。説明の続きをお願いします」


「よろしいのですか?」


前野さんが意外そうに確認してくる。


「ここまで来た以上、聞くくらいはしますよ。そこから自分がやる・・・まぁモデルの経験のない私には出る幕が無い可能性が高いので、「自分でもやれることがあるか」考えて、難しそうなら正直にお伝えします。・・・私が聞くのもなんですが、それで良いでしょうか?」


質問に対して質問で返すのは無礼とは思う。

だが、今回は明らかに大きな内容だ。自分では役立てない可能性が高い事を先に伝えておかないと、前野さんの時間と労力も無駄にしてしまう。


「・・・いいと思います。少なくとも私は三橋に、瀬崎さんにやって欲しいことを説明するよう言われていますので」


「そうでしたね。重ね重ね、失礼しました。」


「いえ。それでは、続けさせて頂きますね」


「今回、我々が宣伝する新製品は、ざっくり言いますと「ウェアラブル製品のメガネバージョン」となります。」


俺は、詳しくは無いが一般レベルの知識を掘り返して答える。


「ウェアラブル・・・確か、スマホアプリと連動していろいろと行う機械ですよね?」


「そうです。アラームやハンズフリー通話、健康管理が有名ですね。」


「今回の製品はそう言った既存の機能はもちろん、専用アプリを双方ともに有しているなどの条件が整えば、「目の前にいる人の体温や心拍数が数字として表示される」という画期的な機能を搭載した事が最大の特徴となっています。」


ん、それって?


「なお、当初はメガネ、ゴーグル型の形状を想定していましたが、開発費その他諸々の関係で、「片眼鏡型」の形状となっております。」


「「スカ〇ター」じゃん!?」


おもわず突っ込んだ俺に、前野さんは驚く。そして、怪訝そうな表情で言った。


「・・・一部の開発スタッフや三橋も、瀬崎さんと同じ風に言っていたのですが、何か有名なのですか?」


あ、あの国民的アニメを知らない。というか、アニメ自体見ないんだろうなぁ・・・そして、周りも教えていないっと。


「ま、まぁ、一部の業界で有名と言う事で」


「わかりました。・・・そこも皆さんと同じ答えなんですね」


はい、同じ答えになるんですよ。

前野さんは表情を戻すと、説明に戻る。


「その、なんですか、「スカウ〇ー」?はいわゆる一部の俗称で、公式には「ウェアラブル&スキャニンググラス」として販売予定です。」


「え?まだ販売していないんですか?」


「そうです。加えて販売予定完成品の一般公開も、今回のPVで初となります。」


「えっと、それって、会社的に結構大事なPVの気がするんですけど?」


「結構というより、「かなり」大事なPVですね。」


緒方――――!!!


そんな俺の心の慟哭など知るはずもない前野さんは、手に持ったファイルケースから書類を出す。・・・あ、察し。


「今出した書類って、ひょっとしなくても」


「はい。守秘義務の同意書類となります。ここで見た情報は、PV公開まで外部に漏らさない旨を了承してもらって、撮影スタジオに入る形となります」


NOーーーーー!!でも待てよ?


「と言う事はですよ?ここで同意しなければ、今回のモデルの件は「止むに止まれぬ仕方ない事情で断念した」って事になりますよね?」


俺の負方向の会心の提案を聞いた前野さんは、あっけにとられた表情で返す。


「・・・初めてですよ。こう言っては何ですが、ほとんど形式的な守秘義務を提示してそういう反応をされたのは」


「もちろん、瀬崎さんが本気でそうおっしゃるなら私は止められません。が、うちの三橋やこの件を紹介した緒方さんが、それで納得するかは別問題ですよね?」


ですよね~~


「なおかつ」


前野さんはちょっと意地の悪そうな表情で告げる。く、知的キャリアウーマンのこんな表情、卑怯!


「瀬崎さんもかなり興味持ってますよね?「ウェアラブル&スキャニンググラス」。・・・「ス〇ウター」、でしたっけ??」


はい、とっても興味津々です。


「参りました。ペンを貸してください」


「はい、どうぞ」


心なしか面白そうな表情の前野さんからペンを借りると、俺は守秘義務同意の書類にサインをした。


「確かに。では中へどうぞ」


前野さんに続き、ようやくスタジオBに入る。


「さて、さっそく」「あーーーー!?」


説明を続けようとした前野さん以上の声。

驚いて声のした方を見る。そこには驚いた表情で俺を指さしている「美少女」がいた。


「あれ?君は?」

「やっぱり!」


そこにいたのは、「清掃業務」の際に知り合った美少女だった。



「奇遇ですね!あなたも今日の企画を見に来たんですか?」


「見に来たというか・・」


思わぬ人物との再会に思考がフリーズしてしまった俺は、何となく傍らにいる前野さんを頼るように見てしまう。

が、前野さんもまた、驚いた表情でこちらに聞いてきた。


「瀬崎さん。陣内さ・・んと、お知り合いなんですか?」


(うん、陣内?)


話の流れから、該当しそうな人物に目をやる。

その俺の様子を見た少女は、一瞬「?」といった表情をした。が、思い至ったように手をポンと叩くと、


「あ!自己紹介してなかったですね。私は「陣内 渚」と言います!よろしくお願いします!」


「あ、ご丁寧にどうも。自分は「瀬崎 臨也」と言います」


突然の自己紹介に、思わずこちらも自己紹介してしまった。なんだこれ?

俺のキョトンとした態度の何が面白いのか、「プッ」と軽く吹き出す陣内さん。ホントになんだ、この状況・・


「自己紹介って・・・えっと、とりあえず瀬崎さん。お二人の関係を知りたいんですけど?」


再び前野さんに質問されるが、関係って言われてもなぁ。


「以前、たまたま彼女に道案内をしてもらったんですよ」


「・・・それだけですか?」


それだけですよ。・・・いや、彼女がナンパされてたとかはあったけど、それは言うことじゃないでしょ?

などと思っていたら、陣内美少女から


「え、そんな・・・臨也さん。しばらくの間とは言え、私と付き合っていたのに」


「洒落にならないから、そういう誤解を生みそうな発言辞めて―!?」


「・・・・・瀬崎さん?」


眉間にしわを寄せて詰め寄る前野さんと、面白そうにまた笑う陣内さん。

本当に、なんだこの状況~~!?



「冗談っぽく笑っている陣内さんを見ればわかると思いますが、「道案内についてきてもらった」だけですからね。念のため誤解のないようお願いします」


「はぁ・・・」


 半信半疑・・・いや、俺もそうだけど、むしろ状況をまだ把握できていない様子の前野さんは一旦置いといて、陣内さんに尋ねる。


「えっと、さっきちょっと言ってたけど、陣内さんは今回の企画の見学に来たの?」


「はい!ち・・じんに、面白い企画があるからと誘われて・・・と、私の事より、瀬崎さんはなんでここに?」


「ああ、俺は、・・・手伝いみたいなものかな?」


「瀬崎さんには、本企画のモニタリングモデルをして頂こうと思っております」


「へぇ、モデル?」「モデルですか!!?」



言わなくていいのに、前野さんが言った「モデル」という言葉に反応する二人。・・・ふたり?


「今回、一般初お披露目ウェアラブルデバイスの、モニタリングモデルって瀬崎さんなんですね!いいな~~」


いつの間にか近くに来ていた20歳くらいの女性に羨ましがられる。「「誰?」」といった感じで女性と、話しかけられた俺を見る前野さんと陣内さん。俺もとっさには「誰?」となったが、声の主の顔をしばらく見て「あっ!」と気づく。


「ひょっとして、武田さん?」


「はい、武田です!お久しぶりです、瀬崎さん」


元気に挨拶されて、ようやく確信する。


「・・・で、どちら様なんです?」


何故か苛立たしいような、つっけんどんな態度で陣内さんに詰め寄られる。う~ん、どちら様と言われてもなぁ。


「ひと月?いや、ふた月前か。俺がチラシ配りの手伝いに行った時に、仕事を教えてもらった人だよ」


「・・・なんですか、それ。そんな偶然ある訳ないでしょう?」


「君も似たようなもんでしょ!?」


陣内さんに突っ込みを入れてから気づく。

そう言えば、ここにいる3名の女性、「改善プログラム」で関わった人たちばっかだなぁ。


武田さんとは最初の「チラシ配り」。

前野さんとは二つ目の「講演会公聴」。

そして、陣内さんとは三つ目の「清掃業務」で。


こんな偶然あるんだなぁ。・・・偶然か?


俺が考えこもうとしたら、前野さんが思い出したようにつぶやく。


「武田さん。・・・ああ、一般の観覧希望で申し込まれていた方ですね」


「はい、そうです。ええっと・・」


今度は武田さんに、目線で紹介を求められる。・・・めんどくさいから、まとめて紹介しますか。


「こちらにいるのは前野さん。今回の企画の担当をされている方だよ。・・・ですよね?」


責任者は三橋専務だし、多分そうだと思うが、一応確認する。

前野さんはあっけにとられた表情を見せながらも、


「まぁ、そうですね」


肯定してくれた。安心。


「そして、ついでにこちらの子が陣内さん。なんか見に来たらしい」


「ついで。・・・へぇ、ついでですかぁ」


「あ、あはは・・・」


半眼でこちらを見やる陣内氏と、その様子を見て困った表情の武田さん。俺の説明の何が気に食わなかったのだらう?



などと、中身のないやりとりをしていると、不意にスタジオの照明が落ち、真ん中にいる男性のみを照らす。あれは三橋専務?


「大変長らくお待たせしました!この度は当社の新製品「ウェアラブル&スキャニンググラス型式番号「SCWT-01」」の一般公開、ならびにPV撮影にお越しいただき、誠にありがとうございます」


型番、スカウタ〇やん。


「さて、さっそく新製品を見てみたい方も多いと思いますが、まずは当社がどういった会社か知って頂くため、5分ほどの当社のイメージPVをご覧いただきたいと思います。どうぞ!」


三橋専務が合図をすると、スクリーンディスプレイが写し出された。光源を見ると、天井にプロジェクターらしきものが見える。いいな、これ。

個人的な物欲をよそに、会社のプロモーションビデオ、PVが流れる。


「こう言っては何ですが、当社自慢のPVです。瀬崎さん、率直にどうですか?」


「技術的なことはわかりませんのでありきたりな表現で申し訳ないですが、映像や音楽、出演している方たちも、スピーディでカッコイイと思いますよ。」


「そして、恥ずかしながら私自身もですが、どういったことをやっている会社かは知りませんでした。そう言った人たち向けにとっても、わかりやすいと思います」


「確かに」


「わかりやすいですねぇ」


俺の近くでPVを観ていた陣内さんと武田さんが追随してくれる。


「そう言っていただけると社員として嬉しいです。ありがとうございます」


「これでしたら、少し専門的な説明を加えて、採用募集や関連事業の方への紹介にも使えそうですね」


この言葉に、聞いていた3人娘とその場の空気が固まる。

あれ?変なこと言った気はないんですが?


「・・・どういうことです?」


陣内さんが端正な顔で詰め寄ってくる。美少女の近接辞めて―


「えっと、今のPV、「一般の方に会社名を知ってもらう」にはバッチリだし、これ以上の情報があっても退屈だと思う。でも、「働き口として見ている」求職者なら、もう少し専門的な情報があっても興味を持って観てくれるかなって」


「・・・・・・」


前野さんも静かに聞いている。・・・失礼なこと言ってないよな?


「「関連事業の会社向け」と言ったのも同じようなものですが、こちらは個人向けではなく会社向けの情報があればいいかなって」


「つまり、「一般素人向け」、「やや玄人向け」、「関連事業社向け」の3パターン作れるってこと?」


「言い方ぁ~~。・・ま、でもそういうことやね」


俺が言わんとしていることを、陣内さんは完全に、武田さんはなんとなく理解したような雰囲気になる。そして、前野さんは、


「・・・検討させて頂きます。貴重なご意見ありがとうございます」


「いえ、そんな!単なる思い付きですので」


頭を下げる前野女史に慌てて言う。だって、この構図さぁ、


「なんだか、瀬崎さんが悪者みたい・・」


武田さんがボソッとつぶやく。


「ぁ~~!確かにそう見える!武田さん、ナイスゥ!」


「ナイスじゃないでしょ・・・」


ぼやく俺だが、初対面だった武田さんと陣内さんが何となく打ち解けた風に見えたので、まんざらでもない。仲良くなれて、良きかな良きかな。


「・・・実際、悪者ですよね」


少し浸っていた俺は、前野さんがつぶやいた声は聞こえなかった



「ご清聴頂き、誠にありがとうございます!それでは皆様お待ちかね。当社自慢の新製品「ウェアラブル&スキャニンググラス」をどうぞ!!」


 三橋専務の進行に従い、件の新製品が用意される。スクリーンディスプレイも新製品の画像と紹介に切り替わる。気になるその外見は、


「「ス〇ウターだ!!」」


率直的な俺の突っ込みに、近くにいた人の声とハモる。

ハモった相手は・・・陣内さん?


「え?知ってるの?」


「・・・国民的サブカルコンテンツとして、業界一般レベル程度なら」


得意げな表情でサムズアップされた。俺も同じポーズで返す。できるぞ、この美少女。


「見た目は従来のVRゴーグルに近いですが、耳にあてるイヤーパッド部分が大き目ですね!それにいくつかボタンもありますが、あれって直接操作も可能って事ですか?」


こちらはこちらで、興奮気味に前野さんに質問する武田さん。

彼女がかなりの「家電製品オタク」であることを知っている俺はともかく、知らない前野さんは明らかに面食らった表情になる。そうなりますよね~


「・・その通りです。原則は専用アプリを使ってのスマートフォンからの操作になりますが、ゴーグル部分の表示や音量の微調整ならびにコンテンツの表示切替、機能の再現と言ったことは、デバイス単体でも可能となっています」


面食らっても、そこはやはりできる方。的確に返答してくれる。


「え?微調整とかはなんとなくわかりますが、機能の再現というのは?」


俺も気になったところを質問する武田さん。


「ウェアラブルデバイスは基本、出力機器にすぎません。今回はゴーグル型なので、映像出力であるテレビなどが一番近いですね。ですが、今回の製品には小容量ながらプログラム、データの保存が可能となっております」


「具体的にはそうですね。・・・例えばホーム介護の方が、担当する方の体温や心拍数をこちらのデバイスで測れるようにするには、まず最初は介護する側とされる側、双方、専用アプリを使って体温等がわかるように登録する必要があります」


興味深い感じで武田さん。その端で俺、その隣で陣内さんも聞いている。


「ですが、登録して2回目以降は、デバイスにそのプログラムは残っていますのでそこを操作すれば、お互いにスマートフォンが無い状態でも、体温や心拍数の測定が可能です」


おー


「それは便利ですね!」


心の中で感嘆する俺のそれを、10倍したような勢いで讃える武田さん。その目は爛々としていて、いっそ微笑ましい。


「はい。「条件が変わればスマートフォンで登録をし直さないといけない」と言った注意点もありますが、これからの介護医療などに適した機能と思っております」


前野さんが、この製品の開発にどれだけ関わったかは知れない。だが、誇りを持って仕事をしていることは容易にうかがえる発言だった。




「さて、そんな凄い製品のモニタリングと言う事なんですが、・・・本当に自分がするんっすか?」


「・・・往生際が悪いですよ」


だから言い方ぁ~~~。


まぁ、潔くなれない、尻込みしてしまっているのも嘘ではないけど、別に思う所もあり、


「今回の企画で使えるのは、この一基だけですか?」


「・・・不良や事故に対する予備は用意しておりますが、それはあくまで予備です。実際に使えるのは一基と思ってください」


「そうですよね」


予想はしていたことだが、一応、前野さんに聞いておく。さて、どうしたものかなぁ。


俺が逡巡する中、実は三橋専務の新製品に関する説明紹介は続いていた。

武田さん、俺、そして何故かさっきから俺の隣に陣取っている陣内さんもおそらくは「ウェアラブルデバイス」と言うものは知っている。なので前野さんからのざっくりとした説明でも、おおよそ理解できた。

が、一般的には「ウェアラブルデバイス」はまだそれほど知られていないと見て、三橋専務はそこから説明していたようだ。


 その説明紹介も一通り終わり、


「紹介が長くなってしまいましたが、実際に使われているのを見た方が早いでしょう。それでは実演モニタリングをやってもらいましょう」


三橋専務が前野さんと、おそらく俺にこちらに来るようさりげなく示す。

当然ながら前野さんは向かう。


だが俺は、


「・・・武田さんも来てもらえるかな?」


「「え??」」


突然の俺の言葉にキョトンとした武田さんと陣内さんをよそに、俺は武田さんを伴って三橋専務の元に馳せ参じた。


「瀬崎さん?」


怪訝な表情の前野さんと三橋専務に対し、


「三橋さん」


俺は思い切って告げた。


「今回の新製品のモニタリングモデルは彼女、武田さんにお願いするのを提案します」



「・・・理由を伺いましょうか」


自分の依頼に背く事への苛立ちはあるかも知れないが、それ以上に興味深々と言った表情で聞いてきた。・・・まぁ、こう反応してくれると思ったから提案したというのもあるけれど。


「理由は・・・私は以前に数年間、このような電子機器を販売する仕事をやってました。なので、新鮮な反応がどうしてもできないと思ったからです」


ちゃんと聞いてくれているのを確認して、続ける。


「それに較べ、私が薦める彼女、武田さんは、家電量販店でアルバイトはしていますが、良い意味で素人です。でありながら、こちらの製品に対する期待感、熱意は並々ならぬものがあります」


「そう言った「観てもらいたい対象に近いイメージ」の人による紹介の方が、観る側の共感をより得られるのではないかと考え、提案しました」


「・・・彼女の熱意は、私も同様に感じました」


前野さんが追従してくれる。


「・・・・・・。理由はそれだけですか?」


真剣な表情で緊迫感を保ったまま、三橋専務がさらに追及してくる。

あ~~~、流石に正直に言わないと駄目かぁ~~


「あとの理由は、そうですね。・・・30代のおっさん会社員より、可愛い女子大生の方が画的に映えるでしょ?」


俺はあえて、お茶らけて本音を告げた。



「プッ」


静寂の中、吹き出すのをこらえきれないといった様子の人物がいた。

陣内美少女だった。・・・君、結構笑い上戸だよね?


「・・・・クッ」


似たような反応の方を見ると、上司の手前だろう、必死に笑わないよう繕っている前野女史の姿。・・・あなたもですか。


「・・・最後に、瀬崎さん自身は、何をなさるおつもりです?」


俺は、あらかじめ準備しておいた考えを披露する。


「こちらのデバイスを実際に使うのではなく、「スキャニングされる側のモデル」をやらせて頂ければと。こういうのって目立たない割りに、案外知識のいる場合が多い気がするので」


その答えに満足してくれたのか、三橋専務は俺の隣で唖然としている武田さんにやんわりと依頼する。


「・・・ということなので、武田さん。こちらの新製品のモニタリングモデルをお願いしてよろしいでしょうか?」


「あ、はい!是非、お願いします!!」


「家電オタク女子大生」の新鮮な反応に、見守っていた誰もがほんわりしたのであった。




「OKです!いい画が撮れました!!」


「ありがとうございました!!」


 三橋専務曰く、「新製品「ウェアラブル&スキャニンググラス型式番号「SCWT-01」」の一般公開、ならびにPV撮影」が、今終わった。


個人的な感想で言えば、問題なく終わったと思うけど、さて


「そんな心配そうにしなくても、問題なく終えられましたよ。・・・一部の突発的な変更を除けばですがね」


「・・・この度は大変、失礼をいたしました」


改めて三橋専務に謝罪する。


「冗談ですよ。」


笑顔で芯から怒ってなどいないと伝えてくれた上で、


「・・・実際、良い画が撮れていると思います。あなたの提案のおかげですね」


「いえ、彼女の好奇心のおかげですよ」


「それは、間違いない」


PV撮影は終わったと言っているのに、彼女、武田さんは、まだ興奮冷めやらぬ感じで色々質問していた。

途中までは前野さんが答えていたが、素人ならではの根本的な質問が来たかと思えば、オタク特有の細かい質問も来る状況に到ると、きつい所が出てきた。

それに気づいた三橋専務は急遽、実際に本製品を作ったデバイス開発スタッフとアプリデザイナースタッフを呼んで対応させる始末。

当初は困惑していた様子の男性開発スタッフ2名。が、熱心に質問してくれる女子大生に好感を抱いたのか、なるべく詳しく答えてくれていたようだ。

・・・あまりに詳しすぎるので、「すいませーん!ちょっとマニアック過ぎるので、他の質問でお願いします!」と、撮影スタッフに何度か止められていたくらいだ。


「なかなか面白い子だね。瀬崎さんが見つけてきたの?」


「偶然ですよ。」


俺は三橋さんに武田さんと会った「チラシ配り」の一件を話す。


「なので、元から彼女はあんな感じなのだと思います」


「ふ~~ん。・・・まぁ誰が見ても、それはそうだろうけどねぇ」


何か含みのある言い方で気にはなったが、


「・・・お話し中、失礼します。専務、そろそろ」


前野さんがスタジオの時計を示して言った。


「あー、もうこんな時間か。瀬崎さん、すみませんが、次の用事があるので私はこれで失礼します」


「いえ。本日は貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございます!」


素直にお礼を言う。それに満足してくれたのか、


「こちらこそ、なかなか興味深い体験をさせてもらい、ありがとうございます」


こうしてこの場を去った三橋氏は知らない。


・・・後日、部下の一人から、別の面白い企画を挙げられることを・・・



「・・さって、そろそろ止めに入った方がいいんじゃない?まだ当面、止まりそうにないですよ?」


 呆れた表情で言ってくるこの美少女は、


「あれ?まだいたの?」


「いましたよ、も~~・・・」


はぶてたように頬を膨らませる陣内さん。美少女は何やらせても様になるなぁ


「冗談はさておき、確かにそろそろ終わらせないと、彼らにもまだ仕事があるしねぇ」


「えっと、・・・そろそろ終わりますよ。きっと」


(あの雰囲気を止めに行きたくない~~)


が、ジト目の女性二人の圧力に勝てるはずもなく、


「・・・わかりました!実際、彼女を推したのは自分ですし、収集はしますよ・・・」


「安易な提案はするものではない」という教訓を感じながら、肩を落として現場に向かう。


その様子を見ていた旧知の女性二人は、キョトンとして顔を見合わせた後、彼の背中を見て異口同音に言った。


「「それだけでは、ないんだけどねぇ・・」」



「えっと、それでですね、次に聞きたいのは」


「はい、ストーーップ」


 俺は彼女、武田さんの怒涛の質問の隙間を見つけるや、強引に待ったをかける。


「・・・武田さん。元は自分から言っといてなんだけど、スタッフさんにもまだ仕事があるだろうし、そろそろ解放してあげよっか」


「あっ・・・」


我に返って、相手をしてくれているスタッフさん2名の方を見る武田さん。

二人とも、怒ってはいないようだったが若干の苦笑は隠せない様子。

それを見て硬直した彼女は、ギギギっと首だけでこっちを見ると、顔を真っ赤にし、


「す、すいませんでしたーー!」


何だ可愛いぞ、この生き物。


「ほら、謝罪よりもお相手してくれたことにお礼を言わないと」


「あ、えと、・・・たくさんの質問に答えてくださって、ありがとうございます」


今までと一転、もじもじした態度で頭を下げる女性を見て、


「いえいえ。こちらもなかなか興味深い意見が聞けました。ありがとうございます」


「アプリの方も、一般ユーザー視点の良い意見が聞けました。・・・もっと使いやすいよう、改善しますので」


「し、失礼しました―!」


いったい何を言ったんだ、この子?

だけど、本気で怒っている訳ではない様子。・・・いい人たちで良かったね。武田さんがつけていたスカウタ、もとい、新製品のデバイスは、開発スタッフさんに渡すと、そのまま持ち帰ってくれた。

・・・あれって、さっそく改良に取り掛かる?・・・いや、まさかね・・・考えないでおこう・・・


「さって、ではこちらも帰るとしますか」


「はい!」


念願の新製品を思う存分堪能できた余韻がまだ大きいのか、武田さんは上機嫌で返事をしてくれた。



「ところがどっこい、すぐには帰れませんよ」


「いつの時代の人ですか・・・」


 俺の当然の突っ込みに、若干顔を赤らめながら話を続ける前野さん。・・・この人もこういうところあるよね。


「武田さん。」


「え、私ですか?」


てっきり俺のことだと思っていたらしい武田さんは、意外そうな目で前野さんを見る。


「はい。武田さん・・・そこの瀬崎さんのせいかおかげかはともかく、あなたはモニタリングモデルを見事に勤めてくれました。まずはありがとうございます」


「あ、いえ、こちらこそありがとうございます!」


前野さんが30度で敬礼したのに対し、武田さんはそれはもう、ほぼ直角90度にお辞儀する。


「ただ元々あなたは、「一般観覧希望」という形で来て頂いてます。そこで「モニタリングモデル」としての報酬はどうしますかという相談です」


「え?俺には報酬の話、無かったんですけど?」


「・・・瀬崎さんは、ボランティアみたいなものと伺っておりますが?」


「そうでした・・・」


ここに来た経緯を思い出し、愕然とする俺。

その様子を見て、若い女性二人は吹き出すと、


「・・・そういうことでしたら、私は瀬崎さんの代理と言う事で、ボランティアで大丈夫です」


その答えは想定していたのだろう。驚いた様子は見せないが、念のためという感じで前野さんは再度聞く。


「よろしいのですか?プロのモデルと言う訳ではないので大きな金額にはなりませんが、ちょっと良いバイト3時間分程度の給与はお支払いしますよ?」


「あ、付け加えて。そちらの瀬崎さんに遠慮する必要はありませんよ?」


「そうそう、遠慮は無用。・・・って、それは俺の台詞!」


どんどん俺の扱い、ぞんざいになってません?

そんなやりとりに、また二人は吹き出すと、


「そういう事なら、・・・給与という形ではないのですが、希望いいですか?」


「もちろんです。どうぞ」


武田さんは、目をキラキラさせて言った。


「御社の、次の新製品の観覧をまた、是非!させてください!」


らしいなぁ~~


もちろん、前野さんの返事はかなり前向きなものでした。



「あ、大事なことを忘れていました。武田さん、・・・個人情報はどういたしますか?」


個人情報?


「個人情報、ですか?」


俺と同じ疑問を返す武田さん。前野さんがうなづき、説明する。


「プロのモデルさんならともかく、いえ、プロの方でも場合によっては本人とわかる情報を制限することがあります。」


「例えば、「他契約との兼ね合いもあるので、後ろ姿のみ顔出しNG」や、「名前は出さない」と言ったことがありますね」


「今回は「一般のモニタリングモデル」という形なので、お名前は出しません。声も編集で変えることも可能です。・・・ですが、新製品のデバイスは隠すわけにはいきません」


「必然的に顔を映す形になりますので、あなたを知っている方は気づくでしょう。店頭のみで流すので、TVなどより視聴される機会は少ないですが、その辺りのご要望があれば、対応いたします。何か困ることはないですか?」


(・・・ああ、そうか、これ、ここだけの話じゃないんだ。)


今更ながら、大事なことに気づく。


・・・そうなのだ。今さりげなく撮ったこれ、新製品のPVなのだ。当然、店頭などで何度も流される。

しかも三橋専務より渡された会社名、その辺に疎い自分でも聞いたことある知名度だ。全国展開はしていないかも知れないが、少なくとも関東近辺では流されるだろう。

場合によっては、出演している武田さんが有名になるかも知れない。・・・それは良い事ばかりとは限らない。


「ぁ~、そういう問題もあるかぁ~」


隣の陣内さんも気づいたようだ。この子、やっぱり聡いな。


が、当の武田さんからは、驚きの返事が飛び出した。


「あ、それは多分大丈夫です。・・・恥ずかしながら、私全然目立たないので」


「「・・・え?」」


俺は隣の美少女と顔を見合わせた。


「・・・顔、も、自信ないんですが、デバイスをつけている状態なら全体わからないと思いますし、あ、声がおかしいと言う事なら、編集で変えて頂いてください!」


どうやら、謙遜などではなさそう。・・・つまり、単純にこの子、


((天然だ!!!))



 そりゃあ、隣の規格外に綺麗な美少女とか、目の前の知的美女のカッコよさ、アイドルのカリスマ性といったものは無いかも知れない。

・・・が、彼女の見た目は、一般的に可愛い部類だろう。

庶民的可愛さと言うか、「クラスに一人はいる可愛い子」といったレベル。


「なのになんで、この子は自分が目立たないと思っているのだろう?」というのには、・・・実は俺は心当たりがある。


「自分が家電オタクである」事を、隠そうとしていたことだ。


「自分を偽る」まではいかないにしても、大好きなことを周囲に言えない自分を「つまらない人間」と思い込んでしまっていたのかも知れない。


・・・が、少なくとも今回の撮りでそれは無い。つまり、魅力的であろうと言え、


「・・・いえいえ、声がおかしいとかはありませんでしたよ。武田さんが良ければ、そのようにさせて頂きます」


 そのまま受け取った―――!!


・・・やっぱこの美女、できるわ。


「・・・彼女も、美味しいわね」


なんか隣の美少女、物騒なこと言ってるぞ。・・・気持ちはわかるけど、ここはスルーで。


「では、PVの完成形が出来次第、サンプルDVDをお送りさせて頂きます。もし不都合な点がありましたら、その時でも構いませんのでご遠慮なく私までお申し出ください。・・あ、ついでに瀬崎さんにも送りますね」


「どうでもいいですけど、俺の扱い、やっぱ雑過ぎません?」


「サンプルDVD頂けるんですか!? ありがとうございます!!」



 こんな感じで、色々あった「モデル体験」も終わりを迎えた。


・・・実はこの後、帰りにちょっとした事があったのだが、今回の「改善プログラム」とは関係ないので、割愛しようと思う。

いや、別に思い出したくない事とかではないんだよ!?


―――――――――――


(渚視点)


「ただいま~」


「お帰り、渚。・・あら、楽しそうね?」


「あ、わかる?楽しかったよ~。 ・・・色々と」

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