第4.5話 経過報告 その1

「瀬崎さん、こんにちは。さて、早速プログラムの状況を聞きましょうか」


以前の診察から半月が過ぎ、俺は再び緒方医師の所に診察に来ていた。

「健康改善プログラム」第一回目の経過報告のためだ。


俺は、向かった先であったことをそのまま伝える。

緒方医師は基本話を聞いて相槌を打つだけだが、要所要所で


「その時、瀬崎さんはどう感じましたか?」


みたいに質問してくる。なるほど、診察らしい。

俺はまぁ、嘘をつかない範囲で正直に答える。


「なるほど、わかりました。それでは、プログラムを引き続きお願いします」


「え?それだけですか?」


それだけかい!?俺は正直に尋ねる。


「私のえっと、「内面性顔面悪性症」ですっけ?に対しては、良くなってきているのでしょうか?」


「正確には「内面性顔面悪性傾向化症候群」ですね。・・・申し訳ないですが、この手の症状はすぐに改善が見えてくるものではありません。」


「プログラムを進めていくうちに徐々に良好になっていくものです。ただ、悪化してしまうケースもあります。なので、お手数ですが定期的に経過報告をお願いしているのですよ」


「はぁ・・」


そう言われると、これ以上愚痴は言えない。


「あ、そうだ、思い出した。瀬崎さん。日程上、次はできれば「講演会を聞く」プログラムを行ってもらえませんか?」


「あ、はい、そのつもりでした。予約も、もうとってあります」


あっさり答える俺に、緒方医師は珍しく感心したように話す。


「ほう・・・流石、仕事が早いですね」


「仕事じゃないんですけどね・・・」


苦笑する俺に、緒方さんはまぁまぁと軽くなだめる。


「それではよろしくお願いします。何かあったら連絡ください」


「わかりました。では失礼します」


「お大事に」


お大事なんだろうか?などと思いつつ、俺は診察室を後にした。



――――――――――――


(緒方視点)


「さーって、午前の診察はここまでか。休憩入るんで、よろしくお願いしますね」


「わかりました、先生」


私は近くにいた看護師に軽く言伝すると、昼休憩に入った。



病院では、電源の入った携帯の所持及び使用できる場所は限られている。医師もそれは例外ではない。

携帯の使える部屋に入り、メール等を確認する。


(特段何もないな。・・・んー、ちょっと電話かけてみよっか?)


私はとある所に電話し、馴染みの人物がいるか尋ねた。今日はいたらしく、程なく電話にでてくれる。


「緒方先生こんにちは。・・・今かけたって事は、ひょっとして先日来られた瀬崎さんの件ですか?」


さすが松原さん。若くして副店長に抜擢されたのは伊達ではない。


「話が早い。それでどういった感じでした?ちゃんと真面目にされてましたか?」


この「健康改善プログラム」。似たようなものは、瀬崎さん以外にも、これまで何名かの患者さんに薦めてきた。

これを受ける患者さんはおおかた真面目に取り組んでくれるのだが、たまにいい加減にやる方もいる。

瀬崎さんはそうはないだろうなとなんとなく思っていたが、念のためだ。


「真面目どころか・・・緒方先生、本当に人が悪いですよ」


「??」


キョトンとなる。まぁ、「人が悪い」と言う言葉はこれまでもよく言われたし、自分でもそこそこ自覚はしているが、


「えっと、何のことでしょう?今回は特に何もした覚えはないのですが?」


そうなのだ。今回は本当にそんな覚えはない。


「え、先生もご存じなかったんですか?・・・すみません、てっきり知ってるものと思って」


「何のことですか?」


私は松原副店長から、メーカーの方から聞いた瀬崎さんの過去の逸話を聞かされる。


「こんな方を何も伝えずいつも通り投げ込むなんて、一歩間違えば私が恥をかく所でしたよ」


まぁ、そんな人ではなさそうだからいいんですけど、とフォロー込みの軽口を叩かれる。


「・・・予備知識無しでのプログラムは適切と思っているので、今後も変えるつもりはないです。が、今回のそれは本当に知らなかったのは信じて欲しいです」


「みたいですね。信じますよ」


私は松原さんと少し世間話をすると、話を締める。


「それではこの辺りで。今後ともよろしくお願いしますね」


「先生にはお世話になってるんで。・・・でも、今回のようなのは正直勘弁してください」


まぁ、そんなにいないとは思いますが、と小さく付け加える。まぁ、そうだろなぁ。



「健康改善プログラム」をお願いしていたうちの一人、松原さんへの通話を切ると、そのまま別の場所に電話をかける。


(・・・これは愚痴の一つも言っていいよな?)


経験上、この相手への電話はまず繋がらないので、コールしながらどんな文言でL〇NEを送ろうか考えていた。


が、珍しい事に、いきなり、相手と繋がる。


「もしもし?」


「!!?」


私はその電話相手に敬意を払いつつも、不満ありありに瀬崎さんの件を伝える。その話は知ってたのかと。


「当然だろ」と返された。


私は、「今回の件の依頼主であり共犯者」である電話相手に、珍しく電話が繋がったここぞとばかり、愚痴交じりの現状報告をするのであった。

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