第2章 担当医師

「はじめまして。瀬崎 臨也さんですね?」


「はい、瀬崎です。よろしくお願いします」


 俺は見た目40くらいの男性医師に挨拶をする。


「はじめまして。整形外科医の緒方(おがた)と言います。よろしくお願いします。」


お互いに挨拶を終えると、緒方医師が話を始める。


「さて、診断結果拝見させてもらいました。少々確認したいことがあるので、すいませんが、頭部を触診させてもらっても良いですか?」


「あ、はい。」


緒方医師は、先日の健康診断で診てもらった医師の方と同じようにまぶたの裏側、顎の輪郭、両手でこめかみを軽く触るなど、うなずきながら真剣な表情で診ていく。


「・・・ふむ、なるほど。ありがとうございます。」


真剣な表情のまま、再び椅子に腰かける。


「さて、今回の健康診断で出た症状は今回が初めてですか?」


そりゃそうだろうと思いつつ、普通に返す。


「はい、初めてです」


「そうですか。では、今回の診断結果がどういった症状か、テレビなどで聞いたことはありますか?」


問診特有の言い回し。こういうのが苦手な俺は、単刀直入に聞く事とする。


「いえ・・・と言うより、「顔が悪い」ってそもそも病気なんですか?」


緒方医師がどう説明したものかと言った感じで、丁寧に返答する。


「う~ん、まだ一般に広まった症状ではないですし、医師会の一部では病気としないと言ったところもありますが、」


今なんて言った?


「・・・専門は違いますが「虫歯」みたいなものですかね。放置しておくと徐々に悪化する類の病気の一つです」


「・・えっと、それは顔の皮膚病みたいな感じですか?」


「顔が悪い」で自分が一番該当しそうな病気を言う。緒方医師は、否定するように首を振り、答える。



「いえ、皮膚病などではありません。骨格がおかしいとかでも。・・・そのままの意味です」


そのままと言われ、察しはできても理解はできない。


「・・・失礼に聞こえたら申し訳ありませんが、いわゆる「不細工」と言われるものに近い症状です」


 ・・・本当に失礼だな。



「えっと、すみません。不細工って、病気なんですか?」


若干の怒りを抑え、俺は質問を続ける。


「誤解を受けやすいのですが、一般的に「不細工」と呼ばれる方が全てこの病気という訳ではありません」


そうだろうよ。


「ちょっと専門的に言うと「ストレス等の精神的な要素に起因し、顔面の統一性が損なわれていく傾向となる症状」と言ったものに分類されます」


うん、わからない。


「つまり?」


緒方医師もまた、自分の中で説明をまとめるように告げる。


「顔面の内側から表面、外側に「悪化」・・・つまりは「顔が悪く」なっていく訳です。正式な病名は「内面性顔面悪性傾向化症候群」と呼ばれます。」



まだ突っ込みたいところはあったが、目の前の医師は全く悪びれた様子はなく、普通に話している。

これは徒労になると感じた俺は、質問を進める。


「・・・なんとなくですが、わかりました。それでこの症状はどうすればよくなるんですか?まさか、整形が必要とかではないですよね?」


「整形外科」の先生である緒方医師には悪いが、先んじて言わせてもらう。

一応言っておくと、俺は別に「整形」自体を否定はしていない。それで「前向きな人生を送れるようになった」と言うなら、喜ばしい事だろう。

ただ自分自身は、時間とお金をかけてまで行おうとは思わないだけだ。


「確かに「整形」と言う手段も、状況によっては改善要素の一つではあります。ですが、瀬崎さんの症状に関しては、自分ではあまり感じにくいストレスなど、内面的な要素を少しずつ改善していく方向が良いと思います。」


ほう、自分の専門分野を押し付けようとしない態度に、わずかだけど好感が持てるな。


「そうですね。・・・瀬崎さんの症状に合わせた「健康改善プログラム」をつくろうかと思います。他の患者さんも診ないといけませんので、1週間・・・10日ほど期間を頂いても良いですか?」


お医者さんは何人もの患者さんを診ないといけないので当然。

「プログラム」とやらがどんなものかはともかく、現時点で文句を言う事ではないので承諾する。


「大丈夫です。では、10日後以降にまた来ればいいですか?」


「そうして頂けると助かります。私の説明が無くてもできるプログラムをつくるつもりですが、私が担当の平日火曜、木曜午前、金曜に予約頂けるとありがたいです。お仕事の兼ね合いもあると思いますので、なるべくですが。」


それならまぁ、取れなくはないだろう。


「わかりました。よろしくお願いします」


「こちらこそ。さて、本日の診察はここまでにしますが、何かご不明な点はありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「それでは、お荷物を忘れずにお帰りになってください。お疲れ様でした」


「ありがとうございます。失礼します」


緒方医師に見送られ、診察室を出る。


診察にそれほど時間はかからなかったので、まだ診察待ちの患者さんの多い待合所を抜けて会計に向かう。


初診の会計でいくら取られるか若干不安だったが、問診だけだったためかほとんど取られなかった。


「改善プログラム」がどういったものかはわからないのは不安だが、現時点で金額的、休み的な不安はそんなに無いのは良い事だ。


一つ問題があるとすれば、


「・・・もし、課長とかに聞かれたらどう答えようかなぁ・・・」


ため息を軽くつき、俺は病院を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る