第1話 健康診断結果
「瀬崎。これ、先日の健康診断の結果ね」
「あ、ありがとうございまっす」
会社員であれば受けねばならない年に一度の健康診断。
自分は正社員ではなく「契約社員」ではあるが、まぁ受けねばならない。
とは言え、子どもの頃から大きな病気らしい病気に罹ったことはなく、持病もない。
実際、これまでに何回か受けた健康診断でも特に問題はなかった。・・・強いて言えば、30過ぎても甘いものが好きでよく食べるため、太り気味とかその辺が不安なくらい。
なので、何の気無しにその場で診断結果の通知書を開け、中身に目を通した。
この通知により、おかしな事態となることも知らずに・・・
とりあえず自己紹介をしようか。
俺の名前は「瀬崎 臨也(せざき りんや)」。32歳、独身。彼女無し。
趣味は、まぁ最近はパソコンでもやるが、いわゆるTVゲーム。子どもの頃からゲーマーだったためか、視力は悪く眼鏡だ。そしてさっきも言ったが、甘いものが大好物。・・・ああ、我ながらお子ちゃまだよ。
仕事は、趣味もあってゲームの販売員。と言っても、ゲームだけ売ってる訳ではなく、この店ではDVDやブルーレイ、音楽CD、本や雑貨の販売もしている。俺の子どもの頃は、ゲーム専門店がそこそこあったイメージ。だがどうも、ゲームだけでは近年特に利益が取れず、多角化せざるを得ないらしい。これが時代の流れというやつか・・・
趣味も活かせるこの会社に、契約社員として入って3年目。つまりここにきて3回目となり、もはや慣れたとすら言える健康診断結果を見る。
・・・が、そこに書かれたある一文を見た瞬間、時間が止まったかと思った。
「・・・課長。これ、意味が分かんないんですけど・・?」
「うん?」
健康診断結果は、一応個人情報である。が、自分にとっては特に隠す内容でもない。見てもらった方が早いと上司に見せる。
「ここに書かれている文なんですが」
「どれどれ? ・・・・・」
あ、課長も絶句してる。・・・どうやら、俺の見間違えではないらしい。
今、話している男性は兵頭課長。フルネームを兵頭新、ひょうどうあらたと読む。俺の直属の上司だ。年齢は40。妻子持ち。
仕事がバリバリにできる!!・・・と言う感じではないかもだけど、課長としては十分に仕事ができるし、何より頼れて話しやすい上司と俺は思っている。
なので、こんな砕けた感じで相談したんだが、課長も首をひねるばかりのご様子。
「・・・・・・なんだろうなぁ?」
「・・・そうなりますよね」
課長から診断結果の書かれた紙を返してもらい、改めて口に出して読んでみる。
「医師の診断:「顔が悪い」ため、再検査が必要です。・・・これ、行かないと駄目ですかね?」
(いやいやおかしいだろ。)と心の中でツッコミを入れつつ、上司に聞いてみる俺。この気持ち、わかって欲しい。
・・・まぁ、同じ診断結果を受けた人が、これまで何人いたかは知らないが・・・
「・・・一応、行っとかないと駄目だろうなぁ。ほら、顔色?血色が悪そうとか、皮膚病みたいなものかも知れないし」
「自分の顔に、見えますか?」
課長はちょっと俺の顔を見、「そうでもないよなぁ・・」と言ったふうな態度を示すも、言葉を選んで続ける。
「・・・まぁ最近、うちの課の仕事量は多いからなぁ。瀬崎や俺含め、みんな疲れ気味なのは間違いではないだろう」
「そんなものですかねぇ・・・」
何となくはっきりしない。だが、それも無理はないだろう。
「顔が悪いから病院に来い」と言った経験など、俺も、反応から見てまず間違いなく課長も無い・・・はっきり言って寝耳に水なのだから。
自分と同じくらい困惑している課長に愚痴を言うのもどうかと思うので、軽い感じで言う。
「まぁ、ちょうど明日休みで特に用もないですし、指定の病院に行って聞いてきます」
「ああ、そうしてくれ」
こうして、この日は普段通りに仕事をこなし、翌日、指定の病院に向かうことにした。
指定の病院は、「九十九(つくも)総合病院」という。自宅から二駅と、まあまあ近い病院だった。病院の規模は県内で何番といったものはわからないが、個人的にはかなり大きめに見える病院だ。
「今日はどういったご用件で、ご来院されましたか?」
ベテランっぽく見える受付の看護師さんに事務的に聞かれ、内容が内容なだけに若干逡巡して返す。
「・・・会社の健康診断で「再検査」と出たので、来ました」
「わかりました。保険証と健康診断の結果書をお持ちでしたらご提示お願いします」
「はい」
俺は準備していた保険証と結果書を受付の人に渡す。
やはり受付の人は、事務的に該当項目を探すように結果書に目を通す。
(さて、どういった反応を見せるか?)
やがて受付の人は確認し終わったのか、
「ああ、これは整形外科ですね。4番の窓口で改めて結果の紙を提示してください。」
そう言うと、4番の窓口の場所を案内してくれる。
「あ、はい」
そのまんま、4番、「整形外科」と書かれた窓口へ向かう。
(あれ?俺の診断結果って、よくある事なのか?)
向かいながらこう思っていた。
「健康診断結果書お預かりしますね。えっと、・・・はい、わかりました。順番がきましたらこちらの番号でお呼びしますので、待合所でお待ちください。」
「わかりました」
俺は番号が書かれた整理券を受け取り、受付を離れた。
(こんなもんなのか?)
こちらの受付でも特に変な反応はなく、どうやら自分にとっては奇想天外な症例も、病院においてはそうでもないのかも知れない。
言われた通り「整形外科」の待合所で待った。
昼で混んだら嫌なので朝早めに来たつもりだが、それでも待合所には結構な数の患者さんがいた。
(あー、これは結構待たされそうだな。)
比較的空いた場所のソファーに腰かけ、呼ばれるのを待つ。スマホを見て時間をつぶしたいが、堂々といじっては周囲から嫌そうな視線を向けられるかな?なので、あたかも会社から連絡が来ていないか確認しているように装い、時間を潰すことにした。
ふと周りを見ると、待っている整理券番号の表示されたモニターを見つけたが、自分より前にまだ結構な数の番号があったので、少々辟易した。
そうやって待つ事およそ15分。
「○○〇番の方、診察室3へお入りください」
(おやっ?自分より若い番号の方が何人かいるようだけど?)
若干不思議に思ったが、「ああ、きっと初診の患者とそうでない患者さんで担当が違うんだ」と思うことにする。早く呼ばれる分には悪くない。
コンコン
呼ばれた診察室3のドアを叩く。
「どうぞ~」
「失礼します」
こうして俺は、今回の件で自分の担当医師となる「緒方」先生と対面した。
・・・この担当医師と結構長い付き合いになるとは、この時の俺が知るはずもない・・・
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