為す術

失踪する子供は、決まって十二歳までだった。性別は、男児五人、女児四人と、そちらは特に関係ないようだ。


子牛は出生直後。犬は大型犬の中で比較的小さいものまで。という感じか。


共通するのは<体重>である。およそ四十キロ程度までという。


もっとも、この時点では、人間でその共通項に気付いている者はいなかったようだが。


そしてある日、アラベルに裏口から路地へと放り出されたギャナンは、曇天で星も見えない夜空を何かの影がよぎるのを見た。


と、その直後、自分の体が何者かに掴まれて宙に浮くのを感じる。


「!?」


これにはさすがのギャナンも焦ったようだ。しかし、手足は何も捉えることができず力が入らず、為す術がなかった。みるみる街の明かりが遠ざかり、真っ黒な世界へと落ちていく。


森だ。森の上を飛んでいるのだ。


「……」


どうにもならないまま、ギャナンは真っ黒な世界を見つめた。


そうしているうちに、他にも黒い影が空を飛んでいることに気付く。蝙蝠のようにも見えるが、明らかに大きい。はっきり見えないから確証はないものの、ギャナンよりもはるかに大きい印象がある。しかもその<蝙蝠に似た何か>は、それぞれ足に何かを掴んでいるように見える。鼠のような小動物や、鳥、犬、猫、いたちらしき獣だろうか。


鳥が餌を巣に運んでいると言うよりは、スズメバチが獲物を運んでいるかのような印象もある。


この時のギャナンにはその種の知識はなかったが、自分が餌として運ばれているであろうことは察していた。自分の命が終わりに近付いていることも。だがそれについては、正直、どうでもよかった。自身の生に執着はなかった。別にどこで終わっても良かったから、抵抗が無駄だと悟ると為すがままになった。


やがて、<蝙蝠に似た何か>は黒い世界へと降下していく。いよいよ巣に近付いているということだろうか。


ギャナンは、されるがままになりつつも、


ノェ


ルゥオルイ


ンフルゥィフエヌ


ロア


ロア


ムヌゥフイェヘ


と、あの<歌>を小さく口ずさんでいた。すると、自身の体の中に、言葉では説明できない不可思議なものが満ちてくるのを感じた。この<蝙蝠に似た何か>から感じる得体のしれない気配と似たものが、自分の中にも膨れ上がってくるのだ。


それが十分に満ちた時、ギャナンは口にする。


「ゲベルクライヒナ!」


と。


瞬間、彼は自身の手の中に硬く鋭く禍々しい気配を放つものを感じ、反射的にそれを自身の背後に向けて振った。すると、それに何かが触れる感触があり、同時に、自身の体が重力を失ったかのように宙に浮くのを感じ出たのだった。


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