人間とは、こういうものだ

神父は、昼は教会で礼拝に訪れる信徒達に<神の言葉>を説きながら、夜は自室でギャナンに<愛の言葉>を囁いた。


「お前は本当によい子だ。だから私もお前を愛せる。神はお前に限りない慈悲をお与えになるだろう……」


本当に『どの口が言うのやら』というそれをごくごく自然に口にできる神父を、ギャナンはやはり死んだ魚のような目で見ていた。これもまた、


『人間とは、こういうものだ』


と彼に学ばせるものだっただろう。


一方、アラベルの方はと言えば、取り敢えず信徒らに交じって教会内の雑事をこなし、一応は飯と宿代程度の働きはしてみせていた。人間性はどうしようもないクズなものの、多少であれば働くことも厭わない人間でもあったのだ。


もっとも、それ以外のマイナス部分を補えるほどのプラスではなかったが、


それでも、


『まあ、ギャナンを手元に置いておけるのなら、飼っておいてもいいだろう』


神父にそう思わせるくらいには役に立ったようだ。




が、一ヶ月が経ったある日、


「神父様! どうかこの子をお救いください!」


そう言って教会に駆け込んできた母子が。


「どうなさいましたか?」


やはり温和な笑みを浮かべて尋ねる神父に、ちょうどギャナンと同じ年齢くらいの少女を連れたその母親は、


「夫が病で亡くなって、私も体が不自由で仕事もできず、親族からも見捨てられ、もう、どうしていいか……私はどうなっても構いません。でも、この子は、この子だけは……!」


必死の形相で窮状を訴え、その場に泣き崩れた。そんな母親に、


「ママ……」


と、少女が縋る。


すると神父は、少女の体に触れ、


「心配しなくていい。神はあなた達をお見捨てにはなりません……」


最高に優し気な笑顔で語りかけた。少女の体を撫でさすりながら。


その様子を、教会の奥の住居部分へと続く扉の隙間から覗いていたアラベルは、


『うわ……こいつ、そっちもいけるのかよ……』


嫌悪そのものといった様子で顔を強張らせつつ、考えた。その上で、


『マズいな……これであっちのガキに神父を取られたら、追い出されるかもしれねえ……』


そんなことも考える。


しかし、アラベルのそれは、幸か不幸か杞憂だった。神父は、ギャナンも、その少女も、どちらも欲したのだ。


少女も、やはり、


「神の御言葉を語って差し上げましょう」


と優し気に自室へと連れ込み、ギャナンにしたのと同じ行為に及んだ。


それだけじゃない。ギャナンと少女を並べて、じっくりと堪能もしたのだ。あまつさえ、二人を絡ませさえした。


そしてギャナンは、神父に従った。どうすればいいかは、母親と男達の行いを見てきたこともあって、知っていたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る