吐き気を催すような

こうして教会に転がり込んだ母子だったが、


『類は友を呼ぶ』


という言葉を体現するかのように、実はその神父も、ロクでもない人間だった。


アラベルとギャナンを迎え入れたのも、<神の使徒>としての心掛けからではなく、


『ギャナンに目を付けた』


からであった。亭主からの暴力から逃れ、親族ではなく教会を頼ったということから他に行く当てがないと察した神父は、見かけ上、母子に親切に振る舞う。


信徒が作ったスープの残りを与え、救いを求める者達に一時いっときの寝床を与えるための部屋を貸し与えて信用させていった。


もっとも、アラベルの方はアラベルの方で、<哀れな母親>を演じることで同情を買おうとしていたので、要するに<似た者同士>だったわけだが。


『これでしばらくはまあ何んとかなるだろ。いざとなりゃ、あの神父にもヤらせりゃいい』


そう考えていた。


そんな調子で邪悪な笑みを浮かべる母親を、ギャナンはやはり死んだ魚のような目で見ていた。


『人間とは、こういうものだ』と学んでいたと言ってもいいだろう。




教会での暮らしは、平穏にも思えた。


朝起きれば礼拝所での祈りを捧げさせられたもののそれさえきっちりとすれば、残り物とはいえスープも与えられ、湯で体を拭くこともできた。


ギャナンも、決して愛想よくはないものの、毎日のように教会に通い雑事をこなす信徒からは、


「かわいそうに。辛かったんだろうね……」


痣だらけの体とロクに口もきけないことを、父親からの仕打ちと解釈して同情してもらえた。実際には、母親であるアラベルからのそれである事実を悟られることもなく。


ギャナン自身にとっても、どうでもいいことだったのだろう。彼にとって人間など、この時点ですでに髪の先ほども信用できるような存在ではなくなっていたのだから。


こうして一週間が過ぎると、夜、食事の後で、


「ギャナン、こちらにおいで。君には特別に神の御言葉を語ってあげよう」


神父が、彼を連れて行った。


『そっちかよ、このクソ変態が』


アラベルはすぐにそう察して、


『まあでも、あたしが相手しなくても済むってんなら、楽なもんだけどさ』


などと、我が子を<贄>として差し出すことに欠片ほどの罪悪感を覚えてさえいなかった。


そしてどうしようもない大人達の下、ギャナンは神父の<淫欲>をその身で受けることとなった。


「逆らってはいけないよ。これは神の祝福なんだ。この試練に耐えてこそ、君は救われる……」


神父は、それこそ吐き気を催すような<愛の言葉>を口にしたのだった。


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