第15話 疑惑

「あーーーもーーーじれったい!」

その様子を陰から見ていたセシルは、店に戻るなり叫んだ。

「何なのアイツら、自分らが仲良くしたいならそうすればいいじゃない。宿命だの何だのって深く考えすぎなのよ、突っ走ったら案外どうにかなるモンなのに、根性無しっていうか、ほんと…」


「そのお話、是非私にもお聞かせ願いたいですね」


突如現れた気配にセシルははっとする。

振り返ると、店の入り口に立つのは黒い短髪に紫色の瞳の女性。

「…あらいらっしゃい。お店はまだ開けてないわよ」

「存じています。ですが私は客人ではないので」

彼女は立ったまま視線は注意深く店のあらゆるところを物色するように動かしている。

セシルはため息をついた。

「だから何も無いって。前もそうやってちょくちょくウチに来てたけど、至って健全だったでしょ?学習能力ないワケ?」

「確かに『以前は』そうでした。ですが状況は変わっているかもしれませんから。特に、この十日間ほどで」

__________掴んでる。

隙のない言葉にセシルは内心どぎまぎしながら、それでも冷静に言葉を返す。

「何も変わらないわ。退屈な店よ。相変わらず客も少ないし…」

「最近人を雇ったそうですね」

女性は言葉を遮った。

「若い女性だとか。失礼ながら、彼女とはどのような関係ですか?」

「何でそこまで聞かれなきゃなんないのよ。アタシが直々に接客するのは面倒だから、『前からの』知り合いに手伝いに来てもらってるだけ」

女性は目を細める。

これっぽっちも信じていないというように。

「それよりさぁ」

セシルはカウンターを出て、女性に一歩近づく。

「ここに来てること、協会に許可は取ってるの?」

女性は僅かに眉を動かす。

「特には」

「じゃあアンタの今の行動って、問題あるんじゃない?準備中の店に許可なく立ち入って、おこがましくも人のやることなすことずけずけと詮索して。これでアタシがまったくの潔白だったらどうするの?それとも……」

セシルはぐいと顔を近づけた。

「それが『英雄』のやり方なの?」

これに対しては、彼女も多少怯んだようだった。

「…今日は様子を見に来ただけです。また来ます」

女性は踵を返す。

「ですがロージスさん。あなたも、協会の要観察対象であることはお忘れなきよう」

針のような鋭さで言い切ると、ドアを乱暴に開けて出ていった。

「はいはい。『白雪姫』さん」

セシルはその背中を薄ら笑いで見送った。


(でも本当なのね。人間は自分のことよりも、所属する群れに迷惑がかかるのを嫌うって)

中途半端に開いたままのドアを閉めながらセシルは考える。

(ひとまず難は乗り切ったけど。あの調子ならバレるのも時間の問題かしら)

いつかどこかの賢者を脅し…教えてもらった、街全体を守る『目眩し』の魔法はそこそこに効いていると思っていたが、疑り深い彼女には無意味だったようだ。

それとも_________

彼女が何か、特別なのかもしれない。

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