天の邪鬼
「ねー、Dランド行こうよー!」
「やだ。」
「えーっ!なんで?!」
「あんなクソ並ぶとこ、何が楽しいんだよ。バカじゃねぇの?」
こんなことを言っていたくせに。
あたしよりも満喫していたり。
なのに。
「楽しかったねー!」
「別に。」
普通に、こんなことを言う奴。
これ、うちの彼。
いい加減慣れたけど、でも時々、傷つく。
「なに、今日・・・・もつ煮込み?」
「うん、頑張ってみた!午前中から煮込んでたんだよ。どうかな?」
「時間の無駄じゃね?」
「・・・・そ、そうかもね、今いくらでもおいしいの、売ってるもんね。」
彼が意地悪で言ってるんじゃないことくらい、分かってる。
付き合い始めてもうだいぶ長いし、ちゃっかり、おかわりとかしてるし。
でも、たまにはストレートな言葉が欲しいと、思う時もある。
だから、彼のお誕生日に、絶対に彼が喜ぶ物を準備して、彼の帰りを待っていた。
少し前に『欲しい』って言ってたから、絶対喜ぶはず。
ちょっと奮発しちゃったけど。
それでも、あたしは彼が素直に喜ぶ顔が見たかった。
「ただいまー。」
「おかえり!」
「なんだよ、ニヤニヤして、気持ち悪ぃな。」
「いいからいいから。」
訝る彼を急かして、リビングのソファに座らせる。
「はい、これ。」
「ん?」
「お誕生日、おめでとう!」
彼は、ポカンとした顔であたしからのプレゼントを受け取った。
「ああ、今日誕生日か・・・・」
そう呟いて、彼は手にしたものを見る。
「ね、開けてみて。」
「あぁ。」
彼の隣で、ドキドキしながらあたしは彼の表情を見守った。
喜んでくれるかな、喜んでくれるといいな。
そう思いながら。
ゆっくりと包みを開け、中から出てきたものを目にした彼は・・・・
「おまっ、これ・・・・」
見開いた目で、しばらくそれを見つめた後。
「こんなもんに無駄金使うなよ。」
そう言って、口をとがらせた。
「えっ・・・・」
思ってもいない言葉だった。
絶対に、喜んでくれると思ったのに。
「そんなこと言わなくても・・・・」
言いながら、涙が滲んでくる。
「あたしはただ、喜んで欲しかっただけ」
「だから、そんなもんに金なんか使うなって」
「じゃあ、どうすればいいのっ?!何したって全然」
「あーもぅうるせーっ!出てけっ!」
プチっと、あたしの頭の中で音がした。
何も考えられなくなって、あたしはそのまま部屋を飛び出した。
暫く走って。
そのあと、暫くふらふら歩いて。
すっかり疲れてしまい、そのまま目についた階段に腰をおろす。
なんであんなこと言うかな、あいつは。
見上げた空から、雨粒が落ちてきた。
ポツリポツリと、少しずつ雨足は強くなってくる。
立ち上がる気力もなく。
何も持たずに飛び出してきたあたしは、雨に濡れながら、彼のことを考えた。
本当に、少しも嬉しくなかったのかな。
あたしのしてる事って、ただ迷惑なだけだったのかな。
じゃあなんで、あたしと一緒にいるんだろ。こんなに長く。
髪もしっとりと濡れてきて、濡れた服が肌に張り付いて、気持ち悪い。
「・・・・帰りたい・・・・」
小さな声が口から洩れた時。
「帰るぞ。」
いつの間にか、目の前に、彼が立っていた。
「・・・・ったく、出てけって言われてバカ正直に出てくんじゃねぇよ。何年俺の彼女やってんだ、お前はっ。」
ヘックション!
と、盛大なくしゃみをする彼。
あたしが飛び出してすぐ彼もあたしを追い、傘も持たずに、雨の中あたしを探して回ったらしい。
「ごめんね。」
「・・・・別に。俺も、言い過ぎた。」
ふてくされた顔で、彼が言う。
探しに来てくれた彼について帰っては来たものの、まだなんとはなく、ぎこちない感じ。
テーブルの上に置かれた、プレゼント。
あんなの、あげなければ良かったのかな。
そう思って、あたしは
「明日、あれ返品してくるね。レシート、取ってあるし。」
と言ったのだけど。
「ばっ、アホかお前はっ?!」
彼は、座っていたソファから飛び上がり、慌ててプレゼントを手に取ると、背中に隠しながら、言った。
「これはもう、俺のだ!勝手なこと言うな!」
それはもう、必至な形相で。
そっか。
彼を見ているうちに、なんだか笑いが込み上げてきた。
「なに笑ってんだよ。」
彼が口を尖らせる。
あたし、間違ってた。
素直な彼なんて、彼じゃないんだ。
彼は、出会ってからずーっと、こんな奴なんだから。
彼に素直な反応を求めたあたしが、どうかしてたんだ。
「それ、気に入ったんだ?」
「・・・・別に。」
言いながら、彼はそっぽを向く。
でも、あたしには分かる。
明日から絶対、彼は毎日付けてくれるはず。
だって、メチャクチャ気に入っているみたいだから。
あたしがあげた、腕時計。
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