寡黙
わたしの彼は、兄の後輩にあたる。
わたしたちは、兄の紹介(と言う名の命令)で付き合い始めたようなものだ。
無駄口は叩かないのがポリシーなのか、必要最低限しか言葉を発しない彼が、最初は少し怖かったけど。
ちょっと重たい買い物をしたら、サッと持ってくれたり。
コーヒーショップを出るときには、必ずわたしよりも先にトレイ類を片付けてくれたり。
すごく気遣いのできる、優しい人なんだということがだんだん分かってきて。
2人の時間が、とても居心地よく感じられるようになってきて。
気づけば、彼のことが大好きになっていた。
でも、同時に。
彼は、どうなんだろう?
兄に言われて、仕方なく付き合ってくれているのだろうか?
そんな不安な気持ちが、どんどん大きくなってきていた。
「どうか、した?」
2人で出かけた帰り道。
唐突に、彼が言った。
「えっ?」
特に具合が悪い訳でもないし、落ち込むようなことがあった訳でもない。
いつも通りに、彼とのお出かけを楽しんでいたつもりだった。
強いて言えば。
彼が、わたしとの付き合いをどう思っているのか、という不安。
それが、大きく膨らんでいた、ということくらい。
「どうして?」
「・・・・なんとなく。」
そう言って、彼は立ち止まった。
「俺に、言いたいこと、あるのかなと思って。」
ドキッとした。
そんなに、出てしまっていたのだろうか。
そんなこと、無いはずなのに。
でも、いい機会かもしれない。
もし兄の命令で仕方なく付き合ってくれているのなら、これ以上は彼に申し訳なさすぎる。
わたしも立ち止まり、彼に正直に自分の思いを告げることにした。
「わたしのことを、どう思っていますか?」
「えっ・・・・」
あからさまに、彼は動揺を見せた。
やっぱり、そうだったのか。
そう思うと、なんだか涙が出そうだった。
「ですよね。兄があんなこと言うから。仕方なく付き合ってくれてたんですよね。ほんと、すみません。でも、もう大丈夫ですから。兄には、わたしからちゃんと・・・・」
「だから、嫌だったんだ。」
彼が、顔を歪めてボソリと呟く。
「そんな風に、思われるんじゃないかって。」
「えっ?」
「自分で伝えるって、先輩に言ったのに。」
そう言う彼は、とても辛そうで。
「俺、口下手だから、全然うまいこと言えなくて。でも、違うから。先輩に言われたからじゃ、ないから。」
彼の目から、彼の必死さが伝わってくる。
ということは。
これって、もしかして。
落ちた気持ちが、急浮上する。
今ならわたし、飛べそうな気がする。
「教えてもらえますか?あなたの気持ち。」
真剣な顔で頷き、ひとつ深呼吸をして、彼は言った。
「君を、一生、大事にする。」
・・・・飛び超えてきた。
一気に、飛び超えてきた!
しかも、おそらく、無自覚で!
赤い顔で、まっすぐにわたしを見る彼に、わたしは言った。
「ありがとうございます。でも・・・・告白じゃなくて、プロポーズになっちゃってますよ、今の言葉。」
「えっ・・・・あっ!」
口元を手で押さえ、彼がさらに顔を赤くする。
「わたしは、嬉しいですけど。」
「・・・・良かった。」
真っ赤な顔のまま、安心したように笑う彼。
わたしも、この人を一生大事にしよう。
心から、そう思った。
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